パワハラ対策・法律上の義務として執るべき対策

ここでは、パワハラ対策として、法律上要請されていて、事業主から見ると義務になるものをピックアップしてご紹介します。
法的責任をご説明した上で、
⑴事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
⑵相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
⑶職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
⑷相談者・行為者等のプライバシー保護、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨の定めと周知
について、厚生労働省のパワハラ対策指針を踏まえた解説をします。
 事業主は、当該事業主が雇用する労働者又は当該事業主( その者が法人である場合にあっては、その役員) が行う職場におけるパワーハラスメントを防止するため、雇用管理上このような措置を講じなければならないとされています。

はじめに

事業主の法的責任(事業主の責務)

 いわゆるパワハラ防止法第30条の3第2項の規定により、事業主は、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるパワーハラスメントに起因する問題( 以下「パワーハラスメント問題」という。) に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者( 他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。(2)において同じ。) に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる同条第1項の広報活動、啓発活動その他の措置に協力するように努めなければならない。
 なお、職場におけるパワーハラスメントに起因する問題としては、例えば、労働者の意欲の低下などによる職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、労働者の健康状態の悪化、休職や退職などにつながり得ること、これらに伴う経営的な損失等が考えられる。
また、事業主( その者が法人である場合にあっては、その役員) は、自らも、パワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、労働者( 他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。) に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

労働者の法的責任(労働者の責務)

法第30条の3第4項の規定により、労働者は、パワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずるパワハラ対策措置に協力するように努めなければならない。

⑴事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

 事業主は、職場におけるパワーハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じなければならない
 なお、周知・啓発をするに当たっては、職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高めるため、その発生の原因や背景について労働者の理解を深めることが重要である。  
 その際、職場におけるパワーハラスメントの発生の原因や背景には、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題もあると考えられる。
 そのため、これらを幅広く解消していくことが職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高める上で重要であることに留意することが必要である。

イ 職場におけるパワーハラスメントの内容及び職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。(事業主の方針等を明確化し、労働者に周知・啓発していると認められる例)

  1. 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を規定し、当該規定と併せて、職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景を労働者に周知・啓発すること。
  2. 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を記載し、配布等すること。
  3. 職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること。

ロ 職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。(対処方針を定め、労働者に周知・啓発していると認められる例)

  1. 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること。
  2. 職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者は、現行の就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを労働者に周知・啓発すること。

⑵相談( 苦情を含む。以下同じ。) に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない。

相談への対応のための窓口( 以下「相談窓口」という。) をあらかじめ定め、労働者に周知すること。(相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例)

  1. 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること。
  2. 相談に対応するための制度を設けること。
  3. 外部の機関に相談への対応を委託すること。

ロ イの相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。例えば、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合や、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題が原因や背景となってパワーハラスメントが生じるおそれがある場合等が考えられる。(相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例)

  1. 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。
  2. 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること。
  3. 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと。

⑶職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 事業主は、職場におけるパワーハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならないとされています。

イ 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。(事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認していると認められる例)

  1. 相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。
    また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分 にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。
  2. 事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、法第30 条の6に基づく調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること

イにより、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者( 以下「被害者」という。) に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
(措置を適正に行っていると認められる例)
①事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換行為者の謝罪被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること。
②法第30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずること。

イにより、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと。
(措置を適正に行っていると認められる例)
①就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換行為者の謝罪等の措置を講ずること。
②法第30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること。

改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。
なお、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。
(再発防止に向けた措置を講じていると認められる例)
①職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること。
②労働者に対して職場におけるパワーハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること。

⑷ 相談者・行為者等のプライバシー保護、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨の定めと周知(⑴から⑶と併せて講ずべき措置)

(1)から(3)までの措置を講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならないとされています。ポイントは、太字やマーカーをしている部分です。

職場におけるパワーハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。
 なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれるものであること。(相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていると認められる例)

  1. 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること。
  2. 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと。
  3. 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること

法第30条の2第2項、第30条の5第2項及び第30条の6第2項の規定を踏まえ、労働者が職場におけるパワーハラスメントに関し相談をしたこと若しくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたこと( 以下「パワーハラスメントの相談等」という。) を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。(不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者にその周知・啓発することについて措置を講じていると認められる例)

  1. 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること。
  2. 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること。
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