不在者財産管理人とは

1 意義

 不在者財産管理人とは、家庭裁判所の後見的監督のもとで、従来の住所又は居所を去った者で、容易に帰ってくる見込みのない者(これを「不在者」といいます。)の財産の管理・保存を行わせるために、家庭裁判所によって選任される者のことをいいます。

2 趣旨と目的

⑴ 趣旨

 不在者財産管理制度の趣旨は、不在者の財産を保存し、その散逸を防止し、もって不在者や不在者の相続人、債権者などの利害関係人の利益を保護することにあります。

⑵ 目的

 不在者財産管理人の選任の申立てがなされる目的として、不在者を含む相続人間での遺産分割協議を成立させることや不在者所有の財産管理、売却、時効取得、境界確認、保険金受取人の名義変更、相続放棄の申述、債権回収などを挙げることができます。

不在者財産管理人選任の申立て

1 選任申立ての要件

 不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てるためには、以下の3つの要件をみたす必要があります(民法25条)。
 不在者自身において財産の管理をすることができないこと
 利害関係人または検察官からの申立てがあること
 管理すべき積極財産(資産)又は消極財産(負債)が存在すること

 なお、不在者に法定代理人(親権者や後見人)がいる場合には、法定代理人が不在者の財産管理を行うため、不在者の財産を管理する措置を執る必要はありません。

2 申立人

 不在者が、不在者所有の財産について管理人を置かない場合、家庭裁判所は、申立権者である利害関係人や検察官の請求により、不在者の財産管理に必要な処分を命じることができます(民法25条1項)。申し立ての際に、選任手続の便宜から、不在者財産管理人の候補者を挙げておくことが要請されます。

⑴ 利害関係人

 利害関係人とは、不在者の財産管理・保存について、法律上の利害関係を有する者をいいます。
 たとえば、不在者の配偶者、不在者とともに共同相続人となっている者、不在者の債権者や担保権者生命保険契約の保険金の受取人、不在者の財産を買収しようとする国や地方公共団体、不在者の債務者などが利害関係人とされています。

⑵ 検察官

 検察官は、公益を代表する者として利害関係を有します。
 たとえば、検察官は、生活保護を受けていた者が死亡し、その相続人が所在不明等の場合に、福祉事務所から通知を受けることによって申立てを行うことができます。

3 申立先

⑴ 従来の住所地又は居所地から選択

 不在者財産管理人の選任の申立先は、不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所となります。
 遺産分割の審判申立てや相続放棄の申述の申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所とされているため混同しがちですが、不在者財産管理の申立先は、不在者が生まれてから現在に至るまで全ての住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所となっています。そのため、申立人は、これらの管轄裁判所の中から申立人自身にとって、申立てをするのに都合の良い裁判所に申し立てることができます

⑵ 従来の住所地又は居所地が不明の場合

 不在者の従来の住所地又は居所地が不明の場合、「財産の所在地」を管轄する家庭裁判所が申立先となることがあります。従来の住所地又は居所地が不明の場合に初めて「財産の所在地」を管轄する家庭裁判所が申立先となるため、申立人の都合で任意に「財産の所在地」を管轄する家庭裁判所を申立先とすることはできません
  
 「財産の所在地」を管轄する家庭裁判所が申立先とする場合、従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所に管理人の選任を申し立てると同時に、上申書を提出することによって職権による移送審判を求めることになります。

4 申立てに必要な費用

 不在者財産管理人の選任申立てに要する費用は、以下の①~③が必要となります。
① 収入印紙800円分
② 連絡用切手

  各家庭裁判所により異なりますので管轄の家庭裁判所で確認する必要があります。
  たとえば、管轄が福岡家庭裁判所の場合、320円2枚、84円14枚、10円10枚、5円2枚、1円10枚が必要となります。
③ 家事予納金 
  不在者の所有財産では管理人の報酬を含む管理費用の捻出が難しい場合に、申立人に管理費用を予納させることになります。予納金は、申立人が負担することになります。

5 申し立てに必要な書類と管理費用

⑴ 申立書

書式及び記入例はこちらをご覧ください。

⑵ 申立添付書類

 申立人や不在者の特定、申立人の利害関係、不在者の不在の事実、管理財産の状況等を確認するために必要とされています。
① 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
② 不在者の戸籍の附票
③ 財産管理人候補者の住民票又は戸籍の附票
④ 不在の事実を証する資料(戸籍の附票に不在者の記載が職権削除されている場合には不要となります。)
⑤ 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)、賃貸借契約書の写し、金銭消費貸借契約書の写し等)
⑦ 資格証明書(申立人が法人の場合に必要となります。資格証明書とは、法人登記された登記簿謄本のことをいいます。)

 ①や②については、役場から3か月以内に交付されたものを提出することが求められますが、申立前に入手が不可能な戸籍等がある場合は、申立後に追加提出することもできます

⑶ 管理費用

 管理費用として、財産目録の作成や財産状況の報告・管理計算に要した費用、不在者財産管理人への報酬等が挙げられます。不在者の財産内容から管理費用を捻出することができない場合には、申立人に不在者の財産管理に要する費用を予納させることになります。
 
 事案によりも異なりますが、予納金として概ね30万円~50万円程度とされています。

6 不在者財産管理人選任の審判

⑴ 選任の審判と申立て却下の審判

 家庭裁判所は、不在者の財産内容、不在者財産管理人候補者と不在者との利害関係等の事情を考慮し、不在者財産管理人選任の審判を行うことになります。他方、管理人として適格性を欠く場合には、申立て却下の審判を行うことになります。

 なお、不在者財産管理人選任の審判や却下の審判に対して、抗告などによる不服申し立てを行うことはできません

⑵ 辞任と改任

 財産の適切な維持管理という観点から、裁判所により選任された不在者財産管理人が任意で辞任することは認められていません
 不在者財産管理人が、高齢や病気等の理由により、管理人を辞任することを希望する場合には、家庭裁判所に対して、職権による改任の審判を求めることになります。

 具体的には、辞任を求める理由を記載した書面(上申書)を家庭裁判所に提出し、管理人として不適格と認められれば、職権で改任されることになります。改任された管理人は、家庭裁判所に提出した財産目録や管理報告書等の謄写等を行い、新しい管理人に対し管理していた財産を引継がせることになります。 

不在者財産管理人の地位

1 不在者財産管理人となり得る者

⑴ 申立人自薦の候補者が多く選任

 不在者財産管理人となるために、特別の資格や条件は必要ありません。不在者財産管理人の候補者として、申立人や不在者の親族、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、行政書士などが挙げられます。
 実務上、近親者以外の適任者を見つけるのが難しいという事情から、不在者の親族などの近親者が多く選任されています。
 
 申立人が管理人の候補者を挙げない場合や候補者が不相当又は不適格である場合には、家庭裁判所が弁護士や司法書士などの第三者管理人を選任することになります。

⑵ 法定代理人としての地位

 不在者財産管理人は、不在者の法定代理人としての地位を有します。不在者の処分能力は、不在者財産管理人の就任中でも制限されず、不在者財産管理人は、不在者が事実上行使できない財産管理権を不在者に代わって、不在者の利益のために行使することになります。

2 不在者財産管理人の権限及び義務

⑴ 不在者財産管理人の権限

 不在者財産管理人は、民法103条所定の保存行為(管理すべき財産を維持するために必要な一切の行為)や利用行為(物や権利から利益を図る行為)、改良行為(物や権利の価値を増加させる行為)を行う権限を有しています。
 利用行為や改良行為については、その性質を変えない範囲であれば家庭裁判所の許可を得ることなく行うことができます。 

 もっとも、不在者財産管理人には善管注意義務があるので、利用行為や改良行為を行う場合には、慎重な対応が必要となります。

⑵ 不在者財産管理人の義務

ア 受任者としての義務
 不在者財産管理人は法定代理人として受任者の地位を有しているため、①善管注意義務(民法644条)②受取物引渡義務(民法646条)③金銭消費の賠償義務(民法647条)などがあります。

イ 財産目録作成義務
 不在者財産管理人は、財産内容を把握するため、選任後、速やかに財産調査を行い、財産目録を2通作成して、うち1通を家庭裁判所に提出しなければなりません。
 財産目録に不備がある場合には、家庭裁判所から不在者財産管理人に対して、公証人に財産目録を作成してもらうよう命じられる場合があります。
 不在者財産管理人が弁護士や司法書士など法律の専門職でない場合には、十分な財産調査を行えず、財産目録が不十分となるケースがあるからです。

ウ 担保提供命令に対する担保提供義務
 不在者財産管理人は、家庭裁判所から財産の管理及び返還について、相当の担保を供与するように命じられたときは担保を供与しなければなりません。

エ 財産保存の処分命令に服する義務
 不在者財産管理人は、家庭裁判所から財産の保存に必要な処分を命じられた場合には、速やかに保存行為を行わなければなりません。

オ 財産の状況報告及び管理計算義務
 不在者財産管理人は、家庭裁判所に対して、定期的に年に1度、財産の状況や管理の計算の報告を行わなければなりません。
 実務上、①遺産分割が成立した時や、②重要な財産の換価を行った時③訴訟が終了した時④管理が終了した時にも家庭裁判所に対して報告を行います。

不在者財産管理業務の終了

1 管理業務が終了する場合

 以下の終了事由が生じた場合には、不在者財産管理人による財産管理が不要となるため、家庭裁判所において、管理人選任処分の取消の審判が行われます。管理人選任処分の取消の審判が当該管理人に告知された時に管理人の管理業務が終了します。

 そのため、不在者が戻ってきて管理人が管理している財産の引渡しを求めても、不在者財産管理人は、家庭裁判所による管理人選任処分取消の審判がなされない限り、管理財産を引き渡す必要はありません。

【終了事由】
 ① 不在者が財産を管理することができるようになったとき
 ② 管理すべき財産がなくなったとき
 ③ その他財産の管理を継続することが相当でなくなったとき
 ④ 不在者が自ら管理人を置いたとき

 上記①~③の事由が生じた場合には、不在者や管理人、利害関係人の申立て又は職権により、管理人の選任その他の不在者の財産管理に関する処分取消の審判がなされます。
 上記④の事由が生じた場合には、家庭裁判所は、自ら設定した管理人や利害関係人、検察官の請求により、選任処分取消の審判がなされます。

2 残余財産がある場合

⑴ 管理財産の引継ぎ

 不在者の財産が残存している場合でも「その他財産の管理を継続することが相当でなくなったとき」には、不在者財産管理人選任処分の取消の審判が行われ、管理業務を終了させることができます。
 「その他財産の管理を継続することが相当でなくなったとき」には、不在者の死亡が明らかになった場合や不在者の財産管理の必要性に対して、管理費が不相当に高額になるような場合が含まれるからです。
 
 この場合、残存している管理財産は、不在者の相続人らに引き継ぎを行うことが考えられます。相続人らがおらず、管理財産の引継ぎが出来ない場合は、失踪宣告の申立てや相続財産管理人の選任の申立てを行うことが考えられます。もっとも、これらの方法がかえって法律関係を錯綜させるなど不適当な場合もあるので慎重な判断が必要です。
 そこで、このような場合には、残余財産を供託することにより、管理人の管理業務を終了させることができます

⑵ 供託による管理業務の終了

ア 供託の意義・種類
 供託とは、供託者が供託物(金銭や有価証券など)を供託所に提出してその管理を委ね、供託所を通じて、債権者等の特定の相手に取得させることにより、一定の法律上の目的を達成しようとする制度をいいます。
 
 供託は、供託物の種類により、金銭供託、有価証券供託、振替国債供託及びその他の物の供託に区別されます。また、供託によって達成しようとする目的(供託原因)により、①弁済供託、②担保(保証)供託、③執行供託などに区別されます。
 供託は、自由に行うことはできず、法令の規定に基づく場合にのみ認められています。

イ 供託により管理業務を終了させる方法 
 供託により財産管理を終了させる場合には、供託を残して管理業務が終了したことを家庭裁判所に報告し、管理人の選任処分の取消しを上申することになります。
 
 管理人選任処分が取消されると、その後は供託の申請を行うことになります。供託者は、すでに管理人ではなくなっているため、供託書の「供託の原因たる事実」には、管理人選任処分の取り消しにより、供託者が被供託者に対して管理していた金員の支払債務を負ったこと、同債務を弁済しようとしたが被供託者が所在不明のため、同金員を受領させることができないことを記載し、備考欄に「供託者は供託金取戻請求権を放棄する」旨を記載することになります。
 なお、供託書の一般的な記載方法については、こちらをご覧ください。 

供託終了後、推定相続人に対して以下の通知を行います。
①供託を行ったこと
②供託金還付請求権の消滅時効が供託した旨の通知を受領した日の翌日から5年供託の日の翌日から10年)であること

③被供託者の相続人として、供託金の還付を受けられる可能性があること

⑶ 供託以外の方法による管理業務終了

 不在者が戻ってくる可能性が高い場合、供託金還付請求権の時効消滅のおそれから、供託により管理業務を終了させることは望ましくありません
 不在者が戻ってくる可能性が高い場合には、不在者本人名義の預貯金口座に、管理していた財産を入金し、その後この不在者本人名義の預貯金口座を凍結しておくという方法により管理業務を終了させることを検討するべきです。

3 不在者財産管理人の報酬

⑴ 報酬付与の審判

 不在者財産管理人の財産管理業務に対して、当然に報酬が認められるものではありません。不在者財産管理人の報酬請求権は、家庭裁判所の報酬付与の審判を経て初めて認められます。報酬請求権が認められるか否かは、不在者財産管理人としての就任期間や活動内容、管理財産の種類・多寡、管理財産の残高などにより判断されることになります。

 なお、報酬付与の申立認容・却下いずれの審判も不服申し立てを行うことはできません。

⑵ 申立手続

ア 申立権者と管轄
  申立権者は不在者財産管理人自身となり、申立先は不在者の従来の住所地の家庭裁判所となります。

イ 申立費用と添付書類
  申立費用は、収入印紙800円及び各家庭裁判所が定める郵便切手分の費用となります。添付書類は、管理報告書及び財産目録となります。

⑶ 報酬額の決定・支払時期

 家庭裁判所は、不在者財産管理人としての就任期間や活動内容、管理財産の種類・多寡、管理財産の残高などの事情を考慮して、報酬額を決定することになります。
 不在者の財産管理の場合、実務上、管理財産額が少額の事案が多いことや、権限外行為の必要性が少ないこともあり、相続財産管理人の報酬額と比べると、不在者財産管理人の報酬額は少額となることが多いようです。
 なお、報酬の支払は、管理終了時など後払いが原則となっています。

失踪宣告制度と認定死亡制度

1 失踪宣告制度

 失踪宣告制度とは、不在者の生死不明の状態が継続した場合に、その者の死亡を擬制、身分上・財産上の法律関係を確定させる制度のことをいいます(民法30条)。失踪宣告制度について詳しくはこちら

2 認定死亡制度

 認定死亡とは、水難や火災等によって不在者が死亡したことが確実であると認められる場合に、調査を行った官公署が死亡の認定をして死亡地の市町村長に死亡報告をし、戸籍に死亡の記載がされる制度のことをいいます。
 認定死亡制度について詳しくはこちら

不在者財産管理制度を選ぶポイント

1 目的を決定する

 不在者財産管理制度や失踪宣告制度、認定死亡制度を利用する場合、いずれの制度を利用するのが適当か、まずは目的を決めて判断する必要があります。
 
 たとえば、不在者に関する相続や不在者の配偶者の再婚など不在者の従前の住所を中心とする法律関係の確定・安定を目的とする場合には、失踪宣告や認定死亡により目的を達成することができます。
 失踪宣告や認定死亡の制度は、不在者財産管理制度よりも安価で利用でき、手続が簡便ですので、まずは失踪宣告や認定死亡制の要件を満たしているかを検討することになります。
 では、どのような場合に不在者財産管理制度の利用を検討するべきか。

2 不在者が戻ってくる可能性を検討する

 失踪宣告の審判が確定すると、死亡が擬制され、後に不在者の生存が判明しても、失踪宣告の審判を取り消さない限り、失踪宣告の効果は失われません。 
 その上、失踪宣告の審判が取り消されると取消の効果は遡及するため、初めから死亡していなかったものと扱われ、一部の例外を除き、不在者の死亡を前提に築いた法律関係まで覆ることになります。その結果、いたずらに法律関係が錯綜し、紛争が生ずるおそれがあります。

 加えて、もっとも配慮すべき点だと思いますが、不在者が戻ってくることを信じている家族や親族にとって、失踪宣告により不在者の死亡を擬制することは心情的に受け入れ難いものだと考えられます。

 したがって、失踪宣告の要件を満たしていたとしても、まずは不在者財産管理制度により不在者の財産や財産上の利益の保護を図りつつ、不在者が戻ってくる可能性の推移その他の状況などを踏まえながら、失踪申告の申立てを検討するべきです。

まとめ

 不在者の財産が長期間放置されている場合や不在者が戻ってくるか不明で不在者自身が財産の管理をできない場合には、不在者財産管理人制度失踪宣告制度認定死亡制度などの措置を検討することが必要となります。
 
 また、これまでの説明のとおり、不在者財産管理人の申立てには多数の必要書類があり、申立て後には不在者所有の財産調査、適切な保存、処分等も必要となります。加えて、不在者の財産管理には善管注意義務が課されることや管理の終了まで相当の期間を要すること等を考慮すると、管理人の申立手続や財産管理にかかる物理的・精神的負担は小さくありません。

 弁護士法人いかり法律事務所には、不在者財産管理人の制度や失踪宣告の申立手続に詳しい弁護士が多数在籍していますので、不在者財産管理制度や失踪宣告制度のいずれの措置を執るのが適切か相談されたい方や、不在者財産管理制度の申立てを検討している方は、ぜひ弁護士法人いかり事務所までご相談ください。