第1 解雇・雇止めとは

 解雇とは、使用者による労働契約の一方的解約のことを言います。主に期限の定めのない契約において問題となります。
 雇止めとは、期間の定めのある労働契約において使用者が契約更新を拒絶することを言います。いずれも労働者は雇用契約上の労働者たる地位を失い、収入を得る道を絶たれることから生活に多大なる不利益が生じます。一方、解雇は、労働契約法16条規定の解雇権濫用法理が適用され、解雇の有効性は厳格に判断されるため、無効となる場合があります。
 雇止めも同様に一定の場合に解雇権濫用法理が適用されます。そのため、紛争に発展しやすい類型といえます。
 違法な解雇や雇止めが行われた場合には、使用者の責に帰すべき事由があるため(民法536条2項)、労働者は、解雇や雇止めの無効、無効な解雇期間中の未払賃金などを請求できる場合があります。解雇期間中の賃金請求権が認められると、その額は、違法に解雇された労働者が解雇されず就労していれば得られたであろう賃金の額となります。
 また、違法に解雇された労働者は、当該解雇は不法行為にあたるとして、不法行為に基づく損害賠償を請求することもできます(民法709条)。

第2 解雇について

1 解雇の種類

 解雇にはその原因によっていくつかの種類があります。

 ①普通解雇・・・勤務成績不良、規律違反、私病等を理由とする労務提供不能など、労働者に原因のある解雇です。
 ②整理解雇・・・会社の経営悪化を原因とする人員削減のために行う解雇です。
 ③懲戒解雇・・・重大な企業秩序違反行為を行った労働者に対する制裁罰として行う解雇であり、懲戒処分のなかで最も重い処分になります。
 ※①と②を併せて広義の普通解雇と分類されることもあります。

(1)解雇権濫用法理

労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。
 これは解雇権濫用法理を明文化したものです。解雇が有効とされるには、①客観的に合理的な理由②社会通念上の相当性が求められ、厳格に適用されていることから、有効とされる場合はかなり狭く考えられています。
 特に②については、解雇の事由が重大な程度に達しており、改善の機会を与えたが改善の余地が見られない場合のように他に解雇回避の手段がなく、かつ労働者の側に宥恕すべき事情がほとんど無いような場合に相当性が認められており、かなり狭いものです。

(2)整理解雇の場合

 整理解雇の場合は労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇である点に特徴があるため、解雇権濫用法理適用において、より厳しく判断すべきものとされています。
 具体的には、その判断手法として、以下4つの要素を勘案して厳格に判断されます。これらの要素を欠いた整理解雇が行われた場合には、その解雇の有効性について争うことができる場合があります。

①人員削減の必要性・・・人員削減阻止の実施が不況・経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること、企業の合理的な運営上やむを得ないこと。
②解雇回避努力義務・・・配転、出向、一時帰休、希望退職の募集など他の手段によって解雇回避努力をする信義則上の義務を尽くしていること
③被解雇者選定の人選の合理性・・・客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して行っていること。
④手続きの妥当性・・・労働組合又は労働者に対して整理解雇の必要性とその時期、規模、方法につき労働者側の納得が得られるよう説明を行い、誠意を持って協議を行う信義則上の義務を尽くしていること。

(3)懲戒解雇の場合

 懲戒解雇とは、懲戒権行使としての解雇処分のことをいい、懲戒処分の中の最も重い処分のことをいいます。懲戒解雇の処分を受けると、解雇予告もしくは予告手当の支払いもなく、即時に処分がなされます。また、退職金の全部又は一部が不支給となります
 このように、懲戒解雇は、最も重い処分であることから、その適法性については懲戒権濫用法理(労度契約法15条)により厳格に判断されています。
 懲戒処分についてはこちらをご覧ください。

2 解雇の手続的規制

 使用者は、原則として、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとされています(労働基準法20条1項本文)。例外的に「労働者の責めに帰すべき事由」がある場合等に解雇予告又は予告手当が不要とされ即時解雇することができますが(同20条1項但書き)、労働基準監督署の解雇予告除外認定が必要です(同20条3項・同条1項但書・19条第2項、同法施行規則7条)。使用者がこのような手続を踏まずに、解雇を行った場合には解雇の無効だけでなく、解雇期間中未払いとなっていた給与の支払などを請求できる場合があります。

第3 雇止めについて

1 原則として更新するかどうかは使用者の自由

 原則として、期間の定めのある有期契約は、期間満了をもって雇用契約は終了します。有期契約の更新は新たな契約締結行為であり、これを行うかどうかは当事者の自由に委ねられています。

2 例外的に雇止めにも解雇権濫用法理が適用される

例外的に解雇権濫用法理が適用される2つの類型

 原則は上記1で述べたとおりですが、例外的に、労働契約法19条は以下2つのいずれかの類型に該当する場合には、更新拒否が違法な雇止めとして解雇権濫用法理が適用され、従前と同一条件で新たに労働契約が成立するとしています。
①反復更新されてきた有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの。
②労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの。

第4 退職勧奨について

 退職勧奨とは、使用者が、人員削減などの理由で、労働者の辞職又は合意解約を促すことをいいます。
 退職勧奨は、労働者の自由な意思を尊重する態様で行われるため、労働者の自由な意思形成を妨げるような態様で退職勧奨が行われない限り、解雇や雇止めと異なり、解雇権濫用法理は適用されません。
 使用者が労働者に対して執拗に辞職を求めたり、職場で孤立化させたり、無意味な仕事を割り当てる嫌がらせを行うなど、労働者の自由な意思形成を妨げるような態様で退職勧奨を行った場合には、労働者は、使用者に対して不法行為に基づく損害賠償(民法709条)を請求することができます。

第5 解雇や雇止め、違法な退職勧奨を受けた場合には、弁護士にご相談ください。

 解雇・雇止めは労働者がその地位を失うものであり、有効性の判断も厳格にされていることから、後々紛争になりやすいものでもあります。
 未然の紛争を防止するために、労働法の知識や判例等に照らしながら、慎重に進めていく必要性が高いにもかかわらず、安易な使用者独自の判断や、なすべき手順を踏まない形で強硬的に解雇や雇止め、退職勧奨を行うケースがしばしば見られます。
 トラブルに発展し、最終的に解雇や雇止めを無効として覆すことのできるケースはありますし、実際にそのような事例をたくさん目にしてきました。
 ですので、解雇や雇止めの通知、執拗な退職勧奨を受けた場合には、当該解雇や雇止めの有効性、退職勧奨の適法性について一度弁護士に相談してみることをお勧めいたします。
 弁護士法人いかり法律事務所では、労働法分野について多数の解決実績を有する弁護士が在籍しております。ご相談いただければ、事実関係の調査や解雇・雇止めの有効性、退職勧奨の適法性など、万が一紛争に発展した場合の交渉・訴訟対応に至るまでアドバイスさせていただきますので、お気軽にご相談ください。