目次

  1. 信託の意義
  2. 信託の内容
  3. 信託のメリットとデメリット
  4. 信託手続の開始から終了まで
  5. 民事信託・家族信託と他の制度との違い
  6. 民事信託・家族信託の想定事例
  7. 信託制度の利用を弁護士に依頼するメリット
  8. まとめ

信託の意義

1 信託とは

 信託とは、一言でいうと、自らの財産の管理・運用を信頼のおける者に委託し、その財産の運用によって得た利益を委託した者自身や第三者に与えるための制度のことをいいます。信託法上は「特定の者が一定の目的に従い、財産の管理又は処分及びその他の当該目的達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう」とされています(信託法2条1項)。
 信託の仕組みは、信託を設定する委託者が自分の財産を信頼できる者に管理・処分を委託し、委託された受託者が、委託された財産を運用して利益を得て、その得た利益を受益者に引渡すことで成り立ちます。
 信託においては、委託者が信託する信託財産を受託者名義に完全に移転した上で、受託者が信託契約に従い信託事務の処理を行うため、委託者は信託財産を管理処分することができなくなるという点に特徴があります。

2 民事信託・家族信託・福祉信託・商事信託とは

⑴ 民事信託

 民事信託とは、商事信託とは対になる概念であり、家族の枠に捉われない事業承継への信託活用や株式信託のことをいい、家族信託・福祉信託を含む広い概念のことをいいます。民事信託は、一般的に、原因となる経済行為が贈与であり、主として財産の管理又は承継のために用いられます。

⑵ 家族信託

 家族信託とは、自ら財産を管理することが困難な認知症の配偶者や高齢者、障害者のための柔軟な財産管理と円満・円滑な資産承継の両方を実現できる財産管理の仕組みのことをいいます。
 本人の財産が使えなくなることを「財産の凍結」といいますが、「財産の凍結」を防ぎ、子が親のために財産を有効活用し、安定した生活と福祉を確保することや大切な財産を相続人、後継者へ譲り渡していくことが家族信託の意義といえます。
 家族信託による信託財産は、委託者の相続財産とはならず、遺言対象財産、遺産分割の対象から外れます。もっとも、信託財産から委託者兼受益者に生活費や交際費として給付された金銭等は、受益者の固有財産となるため、これらはやがて遺産となって遺言や相続の対象となります。

⑶ 福祉信託

 福祉信託とは、家族信託の中で、高齢者や年少者、障害者の財産の管理や生活を支援することを目的とする福祉型の信託のことをいいます。福祉型信託の具体例として、たとえば、障害をもつ子どもの親が亡くなった後の問題や高齢者の配偶者が亡くなった後の問題の対策として活用することが挙げられます。

⑷ 商事信託

 商事信託とは、信託銀行や信託会社などプロに資産の管理、運用を委託することをいいます。たとえば、信頼できる受託者が見つからない場合や信託財産が賃貸用の不動産のため、入居者の管理は専門家に任せたいと考える場合に利用する不動産管理信託などが挙げられます。
 商事信託では、信託銀行に信託できる財産は、原則として現金のみとなります。また、信託会社に信託できる財産は、現金や大都市圏にあるような運用収益の見込める不動産が対象となります。
 このように、商事信託では、対象となる財産が限定的となります。そして、民事信託と異なり、商事信託では、相応の信託報酬が発生することに注意が必要です。
 高齢者の認知症対策や相続対策、事業承継対策など資産の運用以外の検討も必要な場合は、まずは自由かつ柔軟な財産の管理が実現できる民事信託・家族信託を検討するのがよいでしょう。

信託の内容

1 信託行為

⑴ 信託行為の意義

 信託行為とは、信託を設定する法律行為のことをいいます。信託行為には、信託契約、遺言及び信託宣言の3種類があります(信託法2条2項)。信託宣言は、委託者と受託者が同一人物となる特殊な形態をとるので、家族信託においては、一般的に、信託契約又は遺言が信託行為となります。また、信託設定後の受託者による信託財産の管理・処分行為のことを信託事務といいます。

⑵ 信託契約

 信託契約とは、委託者となる者が、受託者となる者との間で、受託者に対しある財産を移転し、受託者となる者が、受益者の利益など一定の目的に従い、財産の管理や処分などその目的達成に必要な行為をする義務を負う旨を定める契約を締結する方法のことをいいます(信託法3条1号)。信託法上、特別の方式や書式の定めはありませんが、信託契約は、原則として公正証書により作成されます。

⑶ 遺言による信託

 遺言による信託とは、委託者となる遺言者が、受託者となる者に対して遺言により財産を移転し、受託者となる者が、受益者の利益など一定の目的に従い、財産の管理や処分など、その目的達成に必要な行為をする旨を内容とする遺言をする方法のことをいいます(信託法3条2号)。
 遺言による信託は、公正証書により作成することが重要であり、委託者の死亡時に効力が発生します。

⑷ 信託宣言

 信託宣言とは、信託法上、特定の者が一定の目的に従い、自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法のことをいいます(信託法3条3号)。
 要するに、信託宣言とは、自分で自分に信託するものであり、委託者兼受益者となる方法のことをいいます。この信託宣言は、①公正証書等の作成、又は②受益者となるべき者として指定された第三者に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容によって効力が生じます(信託法4条3項)。
 信託宣言は、中小企業の経営者が会社の株式を保有している場面で、株式の議決権を経営者自身に留めつつ、株式自体の価値は後継者に承継させたいといった事業承継の場面で活用されます。

2 信託財産

 信託財産とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産のことをいいます(信託法2条3項)。信託財産は、委託者の財産から分離可能な管理承継できる価値ある財産をいいます。信託財産は、信託の設定により、信託財産の所有権が委託者から受託者に移転し、受託者は、信託財産について、受益者の利益等の一定の目的のために管理・処分等の信託事務を遂行することになります。
   
 信託財産は、一般的に管理又は処分の対象となる移転可能な特定の財産であり、金銭に見積もることが可能な財産です。財産権を確立されたものでなくてもよく、外国の財産権なども含まれます。
 このように、金銭に見積もり得る積極財産であれば、信託法2条1項及び3項の財産に該当し、金銭、不動産、有価証券、株式、特許権等の知的財産権や特許を受ける権利も信託財産になり得ます。
 他方、借金や債務等の消極財産や第三者に移転できない、金銭に見積もることのできない委託者の生命、身体、名誉などは信託財産には含まれません。また、預貯金債権自体を信託財産とすることはできませんので、信託契約において委託者が預貯金を引き出して現金とした上で受託者が信託口の預貯金口座を開設して管理する方法などを検討する必要があります。
   
 信託財産は、形式的には受託者名義となりますが、受益者が実質的な利益の帰属主体であり、受託者は、信託財産を固有財産と分離して管理しなければなりません(信託財産の独立性・信託法34条)。
 そのため、受託者の債権者は信託財産に属する財産に強制執行をすることができず(信託法23条1項)、受託者が倒産し破産開始決定を受けても信託財産に属する財産は破産財団には属さないことになります(信託法25条1項)。この倒産隔離機能を活かすため、第三者への対抗手段として該当する財産が信託財産であることを登記や登録によって公示することが必要とされます(信託法14条)また、受託者の債権者は原則として受託者に対する債権と信託財産に属する債権とを相殺することはできません(信託法22条)。

3 信託の当事者

⑴ 委託者

ア 委託者の地位
 委託者とは、信託法上、信託契約、遺言または信託宣言の方法により、信託をする者をいいます(信託法2条4項、3条)。
 要するに、委託者とは、信託によって実現しようとする目的のために、自らの財産を受託者に預ける者のことをいいます。
 委託者は、自らの財産を信託財産として拠出する財産出捐者としての地位と信託目的の設定者としての地位を併有します。民法上の委任者と異なり(民法653条1)、
 信託契約により委託者の死亡により信託を終了させるとしていない限り、委託者の死亡により信託は終了しません
     
 信託行為において残余財産受益者又は帰属権利者の定めがない場合、委託者又はその相続人が信託終了時の残余財産の帰属権利者になるものとされています(信託法182条2項)。
 信託の目的に反する信託の変更(信託法149条1項)、信託の併合(信託法151条1項)及び信託の分割(信託法155条1項、159条1項)については、原則として委託者の合意が必要となります。また、委託者及び受益者の合意により、いつでも信託を終了させることができます(信託法164条)。
     
 その他、委託者には、受益者との合意により受託者を解任する権利(信託法58条1項)、受託者の解任を裁判所に申立てる権利(信託法58条4項)、信託事務の処理の状況などの報告請求権(信託法36条)や書類閲覧謄写請求権(信託法38条4項)などが認められています。
   
イ 委託者となりうる能力(委託者適格)
 民法上の一般原則である行為能力(民法4条~21条)や遺言能力(民法961条)などの規定から委託者となり得るか判断されます。たとえば、委託者が制限行為能力者である場合には、その信託行為(信託契約、遺言、信託宣言)を取り消すことができ、遺言能力(15歳以上)がない場合には、遺言信託の設定は無効となります。
 
ウ 委託者の地位の移転
 委託者の地位は、受託者及び受益者の同意を得て、又は信託行為において定めた方法に従い、第三者に移転することができます(信託法146条1項)。委託者が複数の場合には、委託者の地位の移転には、他の委託者の同意が必要となります(信託法146条2項)。    

⑵ 受託者

ア 受託者の地位
 受託者とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいいます(信託法2条5項)。
 受託者は、信託事務を処理する者であり、信託において中心的立場に立つ者です。自然人だけでなく、法人も受託者に就任することができます(信託法3条)。
 受託者には、信託法上、広範な義務を負い、①善管注意義務(信託法29条2項)、②信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督に関する義務(信託法35条)、③忠実義務(信託法30条~32条)、④公平義務があります。また、特別義務としての⑤分別管理義務(信託法34条)、⑥帳簿作成・報告等義務(信託法36条~38条)があります。
 受託者が上記義務を怠ったことによって信託財産に損失が生じた場合、受託者はその損失を填補する責任を負います(信託法40条1項1号)。また、受託者がその任務を怠ったことによって信託財産に変更が生じた場合、受託者は原状回復の責任を負います(信託法40条1項2号)。
 このような受託者の義務違反行為を事前に防止する手段として、受益者には差止請求権が認められます(信託法44条1項)。つまり、受託者が法令もしくは信託行為の定めを違反する行為をするおそれがある場合において、当該行為により、信託財産に著しい損害が生じるおそれがあるときに、受益者は、当該受託者に対して、差止請求権を行使することができるのです。
   
イ 受託者となりうる能力(受託者適格)
 委託者の信認及び信託事務の遂行に応える能力が必要であるため、未成年者や成年後見人、被保佐人を受託者とすることはできません(信託法7条)。他方、現行法では破産者は受託者となることができます。破産者であっても破産財団に属する管理処分権を失うだけであり信託事務の遂行に支障はないことなどが理由とされています。
 信託契約における信託において、受託者が信託法7条に定める信託能力を欠く場合には、当該信託は絶対的に無効であり、追認もできず、信託は成立しません
 これに対して、遺言による信託において、受託者が信託法7条に定める信託能力を欠く場合でも、直ちに信託を終了させるのではなく、遺言者(委託者)の最終意思を尊重し、裁判所による受託者の選任を認めるべきであるとする見解があります(信託法6条1項類推適用)。

ウ 受託者の費用・報酬等
 受託者は、信託事務を処理するのに必要と認められる費用を固定財産から支出した場合には、信託財産から当該費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を受けるとができます(信託法48条1項)。また、その前払いを受けることもできます(信託法48条2項)。
 報酬については、原則として無償とされますが、信託の引受けについて商法512条の適用がある場合(商人がその営業の範囲内において他人のために信託を引き受ける場合)、信託行為に受託者が信託財産から信託報酬を受ける旨の定めがある場合に限り、信託財産から信託報酬を受けることができます(信託法54条1項)。
 信託報酬の額については、信託行為により信託報酬の額又は算定方法の定めがある場合にはその定めにより、定めがない場合には相当の額とされます(信託法54条2項)。
 実務上、受託者が家族・親族であっても、無償ではなく、信託報酬を受けることとするのが、信託事務を適切に遂行する上で望ましいとされています。長期的な財産の管理・処分等の信託事務により、受託者の負担は重くなるものといえるからです。そして、有償とする場合には、信託契約書又は遺言信託における遺言書において、信託報酬の額や算定方法を定めておくことが必要となりますので、信託契約書の作成にあたっては、弁護士や司法書士など法律の専門家に相談することが望ましいといえます。

エ 受託者の任務の終了事由
 受託者の任務の終了事由として以下の事由があります。
① 受託者の死亡又は能力喪失・破産(信託法56条1項1号~4号)
② 受任者の辞任(信託法56条1項5号、57条1項、2項)
③ 受託者の解任(信託法56条1項6号、58条1項、2項)
④ 任期の期限が満了した場合など信託行為において定めた事由(信託法56条1項7号)
 信託期間は長期にわたることが多いため、受託者が欠けるなど不測の事態を想定して後継受託者を信託行為で指定するなど準備をしておくことが必要です。
 なお、受託者が欠けても委託者及び受益者の合意により、新受託者を選任することができますし、合意できなくとも利害関係人の申立てにより、裁判所は新受託者を選任することができます(信託法62条1項、4項)。

⑶ 受益者

 受益者とは、受益権を有する者、つまり、信託財産の運用により得た利益を享受する者のことをいいます(信託法2条6項)。信託法上、受益権とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利と規定されています(信託法2条7項)。
 受益者は、受託者に事務処理状況の報告(信託法36条)を求める権限を有し、受託者の監督者としての権限を有しています。もっとも、信託においては、不特定多数の者やまだ生まれていない者(胎児としても存在しない者)を受益者とすることができるため、受益者が受託者に監督権限を及ぼすことは事実上困難といえます。また、福祉信託にみられるように、受益者が高齢者や障害者などである場合にも受託者に監督権限を及ぼすことは困難となります。
 そのため、信託法では、受益者の監督権限を代替する信託監督人や受益者代理人の制度が設けられています。
 なお、信託法は、受益者が複数の場合、意思決定はすべての受益者の一致が必要であると定めています(信託法105条1項)。意思決定の一致がなされない場合は、受益者集会による多数決によるとされています(信託法113条1項)。

⑷ 信託管理人

 信託管理人とは、受益者の定めのない信託(目的信託)やまだ生まれていない子を受益者とする信託の場合のように、受益者が現に存在しない場合に、信託行為によって又は利害関係人の申立てにより裁判所によって選任されます(信託法123条1項、4項)。
 受益者が1人でもいる場合には、信託管理人を選任することはできず、信託管理人は、原則として、受益者のために、自己の名で受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をすることができます(信託法125条)。
 信託管理人は、受益者に費用を請求することができ(信託法127条1項)、商法512条の規定の摘要がある場合(商人の報酬請求権)の他、信託行為に定めがある場合には報酬を請求することができます(信託法127条3項)。
 信託管理人の事務は、受益者が実際に存在するようになったときに終了します(信託法130条1項1号)。ただし、実務上は信託管理人はほとんど登場しません。

⑸ 信託監督人

 信託監督人とは、受益者が実際に存在する場合に、信託行為によって指定される者のことをいいます(信託法131条1項)。受益者が受託者の監督を適切に行うことが出来ない特別の事情がある場合に、利害関係人の申立てにより、裁判所が選任することもあります(信託法131条4項)。信託監督人は、受益者が受託者の監督を適切に行うことができないときに設けられるため、実務上は、家族や親族のほか、弁護士、司法書士などが選ばれています。
 信託監督人は、受益者のために、受益者の代理人ではなく、自己の名で信託法92条各号の権利を行使することができます(信託法132条)。信託監督人は、信託管理人と同様、受益者に費用を請求することができ、商法512条の規定の摘要がある場合(商人の報酬請求権)の他、信託行為に定めがある場合には報酬を請求することができます(信託法137条、127条)。信託監督人は、受託者に対する監視・監督者であるので、信託財産が高額であり信託事務処理により厳格性が要求される場合などに選任されることになります。
 なお、信託監督人が選任されている場合でも、受益者は自らの監督権限を行使することができます。信託監督人は、信託行為によって必ずしも定める必要はありません。後日、必要があれば信託の変更または裁判所により選任することができます。信託監督人は、受益者の権利を補充する信託関係人であり、信託の機関にあたります。

⑹ 受益者代理人

 受益者代理人とは受益者が実際に存在する場合に、信託行為によってその代理する受益者を定めて選任される者のことをいいます(信託法138条1項)。
 受益者代理人は、信託行為の定めに基づくものであり、委託者の意思に基づきます。受益者代理人が利害関係人の申立てにより裁判所に選任されるのは、従来の受益者代理人の任務が終了した場合に限られ、信託行為に受益者代理人の定めがない場合には裁判所による選任はなされません(信託法142条)。
 受益者代理人は、自らが代理する受益者のために、当該受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(信託法139条1項)。受益者代理人は、信託管理人と同様、受益者に費用を請求することができ、商法512条の規定の摘要がある場合(商人の報酬請求権)の他、信託行為に定めがある場合には報酬を請求することができます(信託法144条、127条)。

信託のメリットとデメリット

1 信託のメリット

⑴ 権利者の属性の転換

 信託を活用することにより、財産権者の財産管理力・経済的信用力・自然人性等を転換することができます。たとえば、財産管理について不安のある高齢の委託者が、子どもを受託者にして財産の管理・処分等を委ねる場合や障害をもつ子どもの親が死亡した場合に備えて、障害をもたない子どもを受託者として信託を設定する場合などが挙げられます。

⑵ 権利者の数の転換

 信託の設定により、受益者を複数とすることで、給付を受ける権利を複数とすることができます。たとえば、事業承継のための自社株信託において、配当による給付を受ける受益者を複数とする場合や、賃貸用不動産を信託財産とする信託において、賃料収入から給付を受ける受益者を複数とする場合などです。また、複数の受益者を、ひとりの受益者にまとめることもできます。たとえば、夫婦共有の財産を一人の息子に信託する場合などです。

⑶ 財産権享受の時間的転換

 委託者が信託の効力発生時期を任意に設定することにより、受益者は信託財産から継続的に給付を受けることができるようになります。たとえば、信託の効力発生時期を委託者の死亡時とすることにより、信託財産から受益者が給付を受ける時期を委託者の死後とするとともに、委託者の死後も受益者が継続的な給付を受けられるようにする場合などが挙げられます。

⑷ 財産の長期的管理

 信託を活用することにより、委託者の意思に基づいて、信託財産を長期的に管理することができます。たとえば、障害のある子の親亡き後の問題対策や配偶者亡き後の高齢者の問題対策として信託を活用する場合などです。

2 民事信託・家族信託のデメリット

民事信託・家族信託において、以下のような注意すべきデメリットがあります。

⑴ 損益通算の禁止

 損益通算禁止とは、信託以外の不動産所得との通算ができず、また、別個の不動産信託契約期間の通算ができないことをいいます。前者については、信託不動産から出る損失は「なかった」ものとされるため(租税特別措置法41条の4の2第1号参照)、通常の所有財産と通算されず、課税される金額が多くなってしまいます。後者については、たとえば、賃貸物件Aを信託契約Xで、賃貸物件Bを信託契約Yで結んだ場合、Aの年間収支のプラスとBの年間収支のマイナスとの損益通算ができなくなります。
 このため、民事信託・家族信託には節税効果がない、と考える見解もありますが、相続の形をとらない信託設定による資産承継を行うことで最終的に相続よりも低額な課税(登録免許税等)に落ち着くケースもあるため、必ずしも節税効果がないとはいえません。

⑵ 長期間にわたり家族の資産承継ができない

 何段階もの資産承継(数次相続)を指定できるため、何十年もの長期間にわたり家族の資産承継を拘束するおそれがあります。

⑶ 信託導入時のコスト

 弁護士や司法書士など専門家へ報酬・公証役場の手数料・不動産登記費用など、導入時に相当額のコストが発生します。家族信託の導入に必要な費用として、信託財産の評価額に応じて数十万円から数百万円になります

⑷ 信託の法務・税務に詳しい専門家がいない

 弁護士や司法書士、税理士など専門家においても民事信託、家族信託を理解している者が少なく、経験の浅い専門家に依頼すると、信託の将来に重大な影響を与えるおそれがあります。

信託手続の開始から終了まで

1 信託の成立要件

 家族信託の成立要件として、①委託者から受託者に特定の財産が移転(信託譲渡)されること、②受託者に特定の目的のために当該財産を管理処分する権限(排他的権利)があること、③受益者と受託者の信認関係が確立されていることの3つが挙げられます。

2 信託の開始まで

⑴ 信託契約公正証書等の作成

 弁護士や司法書士など専門家に依頼する場合は、相談者の方と保有財産の概要や家族の関係性など必要な情報をヒヤリングした上、信託契約書・遺言書などの文案を作成し、公正証書化に向けた準備を行いますので、信託契約公正証書作成まで、一般的には約1カ月半以上の期間が必要となります
 信託契約書は公正証書ではなく、私文書として作成された場合にも法律上有効です。もっとも、公証人による意思確認や偽造変造防止など後日のトラブル発生防止のため、信託契約は公正証書で作成されるのが原則です。また、実務上は信託契約の公正証書化の際に遺言や任意後見契約についても公正証書にするケースが見られます。

⑵ 信託登記手続

 信託財産として不動産がある場合には、公正証書作成後、信託契約に基づき信託登記手続を行います。信託に関する不動産登記手続(信託登記の申請)は、信託財産の保存、設定、移転又は変更の登記の申請と同時にしなければなりません(不動産登記法98条)。
 つまり、信託契約において、不動産の所有権移転登記手続と信託登記手続の申請は同時に行うことになります。

⑶ 信託契約の公正証書作成に際して準備する資料

 信託財産に関する資料や契約当事者として、①不動産の登記事項証明書、②固定資産税課税明細書、③公図・地積測量図、④自社株がある場合には会社の定款、会社登記簿、株主名簿などを準備する必要があります。
 また、契約当事者に関する資料として、⑤委託者、受託者の戸籍謄本、⑥住民票、⑦印鑑登録証明書、⑧身分証明書などを準備する必要があります。

3 信託実行後

⑴ 信託開始直後

 信託開始直後には、①信託専用口座へ現金の移動、②金融機関での「信託口口座」作成、③建物の火災保険・地震保険などの契約者変更、④不動産管理会社への連絡又は賃借人への振込先変更通知発送、⑤公共料金や固定資産税、入所費用等の引き落とし口座の変更、⑥株主名義の書換え、⑦税務署へ調書の提出などが必要となります。
 信託開始後の信託財産に関する契約などについては、受託者は「委託者〇〇受託者」という肩書を使って行うことになります。

⑵ 信託契約期間中

 信託契約期間中は、①金銭の追加信託への対応、②契約内容の見直し、③受益者の死亡、受益権の贈与・売買などによる受益者変更時の処理、④税務署への「信託計算書」「計算書合計表」の提出、⑤確定申告時の際の信託財産に関する明細書の作成などが必要となります。

⑶ 信託契約終了後

 信託は、法律の定め(信託法163条)や信託期間の満了、信託関係人の合意(信託法 164条1項)などにより終了します。信託契約終了後は、信託契約に別段の定めがない限り、受託者が清算手続きを行うことになります。具体的には、①未払債務、諸経費の支払、未収債権の回収など信託の清算、②残余財産帰属者への給付・引渡し、③税務署への調書の提出などが必要となります。

4 信託にかかるコスト

 専門家への報酬も含めた民事信託・家族信託に要する総費用として、数十万円から数百万円かかることになります。その内訳は、主に専門家への報酬と信託契約の公正証書を作成する場合の実費となります。
 たとえば、信託財産の評価額が5,000万円程度の場合には、専門家への報酬額の相場は47万円程度となり、信託財産の評価額が1億円の場合には、専門家への報酬額の相場は77万円程度となります。また、信託契約の公正証書を作成する場合にも、信託財産の評価額によって手数料が異なってきます。信託財産の評価額が5000万円程度の場合には、手数料は4~5万円程度となり、1億円程度の場合には手数料は6~8万円程度となります。
   
 また、公正証書作成の基本手数料は、目的の価額により異なります。手数料は日本公証人連合会のHPに掲載されていますので、こちらをご参考下さい。
   
 さらに、不動産がある場合には登録免許税など信託登記の費用と信託登記の手続に要した司法書士への報酬が費用として発生します。信託登記の費用は、土地の場合だと固定資産税評価額の0.3%(軽減税率適用中)となり、建物の場合だと固定資産税評価額の0.4%となります。信託登記手続への司法書士に対する報酬は、各司法書士事務所により異なりますが、一般的には通常の所有権移転登記手続より高額になる傾向にあるようです。

 家族信託の場合、信託実行後は家族が管理を行うため、運営コストはほぼかかりません。初期コストを負担すれば、以降長期間にわたる財産管理と資産承継の仕組みを作ることができるため、長期的にみれば経済的と考えることができます

5 信託に関する税務

 信託財産の名義は委託者から受託者に移転しますが、受託者には課税されません。原則として、信託財産への税金は受益者が負担することになります
 たとえば、信託設定時に「委託者=受益者」とすれば、贈与税や不動産取得税は発生しません。信託契約期間中は、受益者が固定資産税や賃貸収益にかかる所得税を負担することになります。
 他方、受益者が生存中に別の受益者に変更された場合には、変更後の受益者は「みなし贈与」として贈与税を負担することになり、受益者の死亡により別の受益者に変更された場合には、変更後の受益者は「みなし相続」として相続税を負担することになります。また、信託契約終了時においては、信託契約終了時の受益者=残余財産の帰属者であれば課税はされず、信託契約終了時の受益者≠残余財産の帰属者であれば信託契約終了原因に応じて贈与税又は相続税を負担することになります。

民事信託・家族信託と他の制度との違い

1 成年後見制度との違い(主要な点)

⑴ 期間

 法定後見人や任意後見人の場合は、家庭裁判所の審判から本人の死亡まで続きます。他方、信託受託者の場合は、原則として信託契約締結時から始まり、終了時期は任意に設定できます

⑵ 権限

 法定後見人の場合は、①財産管理権、②法律行為の代理権、③身上監護権が認められ、任意後見人の場合は、①財産管理権、②契約で定めた法律行為の代理権、③身上監護権が認められます。他方、信託受託者の場合は、信託契約で任意に財産の管理・処分に関する権限を設定できます

⑶ 相続税対策

 法定後見人の場合は、原則として相続税対策や資産の投資・運用は認められません。任意後見人の場合は、任意後見契約の中で相続税対策や資産の投資・運用について記載されていても積極的な相続税対策、資産の投資、運用は困難とされます。他方、信託受託者の場合は、受託者の権限内において、信託目的に沿った相続税対策や資産の運用・投資が認められます

⑷ 相続手続

 法定後見人や任意後見人の場合は、本人の死亡により後見業務が終了するため、原則として相続人などに財産を引き渡すところまでしかできません。他方、信託受託者の場合は、本人死亡後も信託業務は終了しないため、受託者により信託財産を管理・処分することが認められます。

⑸ 財産管理者への報酬

 法定後見人への報酬は、家庭裁判所が「報酬付与審判」にて金額を決定します。他方、任意後見人や信託受託者の報酬は、任意後見契約や信託契約の中で任意に設定することが認められます

⑹ 定期的に発生する費用

 法定後見人や任意後見人の場合は、本人の保有財産が多いと後見監督人が就くため、月1~3万円の報酬の支払が必要となります。他方、信託受託者の場合は、信託契約で設定した報酬以外は発生しません

2 遺言信託との違い(主要な点)

 遺言信託とは、信託銀行による遺言書の作成、保管、執行など遺言書信託業務のサービスのこといいます。遺言信託と民事信託・家族信託では、信託の範囲が異なります。
 具体的には、民事信託・家族信託の場合は、委託者本人の生前にも財産の管理・処分や資産の投資・運用、相続対策ができますが、遺言信託の場合、信託の効力は委託者本人の死亡後に効力が発生するため、財産の管理・処分や資産の投資・運用はできません。委託者本人死亡後に遺言の執行を行うことのみ認められます
 遺言信託は、相続人の関係が円満であり、コストをかけても相続手続をプロに頼みたい、金融資産が多い場合などに適する信託といわれます。

3 商事信託との違い(主要な点)

 商事信託とは、信託銀行や信託会社を受託者として信託財産を運用して貰う信託のことをいいます。民事信託・家族信託と異なり、原則として、信託銀行に託せる財産は現金のみであり、不動産を信託することはできません。また、信託会社においても信託できるのは、原則として現金と運用収益が見込める不動産などが対象となります。
 商事信託は、多額の金融資産をプロに運用して貰いたい、長期にわたる財産管理を確保したい、頼れる家族や知人がおらず受託者が見つからない場合などに適する信託といわれます。

民事信託・家族信託の想定事例

1 認知症による資産凍結を回避して相続対策を行う事例

⑴ 想定事例

 Xは高齢で不動産や金融資産を多数所有し、本人死亡後、相続税は数千万円規模の高額となる資産があります。Xは自分が元気なうちに相続税を圧縮するなど相続税対策を検討しています。Xの推定相続人は長男A、次男B、長女Cの子3名です。XはAと同居し、Aが不動産を相続することに親・兄弟は了解しています。

⑵ 問題点

 ①現状のままでは、X死後、相続税が高額となります。②Xは高齢であるため、認知症などにより判断能力が喪失するとXの資産が凍結されるおそれがあります。③X死後、遺産分割手続や遺産整理手続が難航するおそれがあります。

⑶ 解決策

 まず、信託契約を締結してAが資産を管理・運用します。XはAと信託契約を締結し、X所有の不動産(信託財産)の管理・処分をAに信託します(委託者=受益者:X、受託者:A)。これによって、信託契約後は、AがXのために財産管理を行うため、Xが将来判断能力を喪失しても、資産凍結を回避することができます。結果、問題点であった①・②の対策となります。
 次に、X死亡時に信託契約を終了させ、その時点で残った財産をAに渡す旨を信託契約に明記して資産承継を行うことや、公正証書遺言により兄弟B、Cに信託財産以外の資産を相続させて遺留分の問題を解決しておくことで問題点であった③の効果的な対策となります。

2 親亡き後も障害をもつ子を支援するため資産承継を行う事例

⑴ 想定事例

 Xは高齢で配偶者は既に亡くなっています。子は長男A、次男B、長女Cの3名です。BはXと同居しているが障害をもつため自活できません。XにはBと生活する資金はありますが、自分が亡くなった後のBの将来を心配しています。Aは近所に住んでおり、XとAの親子関係は良好ですが、Cとは音信不通の状態です。Xは、AがX亡き後もBの生涯の面倒を見てくれるならば、Aに全財産を遺したいと考えています。

⑵ 問題点

 ①Aに全財産を遺しても、Aが本当にBの生涯の面倒を見てくれるか保障されていません。②①のリスクを回避するため、遺言書でBに遺したXの財産について、B亡き後、遺産を渡したくないCにも相続権が発生してしまいます。

⑶ 解決策

 まず、Xは、X自身と弁護士Yの2人をBの成年後見人とする申立てを家庭裁判所に行い、Xの急死など不測の事態が生じてもBが困らない体制を整えておきます。また、Xは、Aと信託契約を結び、X亡き後Bのために遺した財産の管理を信託します(委託者:X、受託者:A、受益者:B)。
 なお、Bの身上監護や日常生活費の支払は成年後見人が行うので、Aの負担は大きくありません。これによって、問題点であった①の対策となります。
 次に、遺言書を作成できないBには相続財産ではなく、信託財産としてXの財産を遺すことで、B亡き後AC間の遺産分割協議の余地を排除することができます。また、信託契約終了時の残余財産をAに確実に渡すことができます。これによって、問題点であった②の対策となります。

3 配偶者亡き後の高齢者を支援するため資産承継を行う事例

⑴ 想定事例

 Xには配偶者Y、長男A、次男Bがいる。XとYは共に高齢でYに認知症の疑いがあり、Yは車椅子で生活しています。Xは自分が亡くなった後のY生活を心配しています。Xは自分では財産管理ができないYのために、Yの生活費などの財産管理について手配したいと考えています。なお、子A、Bとの親子関係は良好です。

⑵ 問題点

 ①成年後見開始制度を利用するためには、判断能力の低下が要件となりますが、後見開始の判断能力の低下を判断することは実際上困難です。また、Yに対して判断能力が低下している、判断能力がないと伝えることに感情的な躊躇が生じます。
 ②信託契約によりAを受託者とした場合、Aが本当にYの面倒を見てくれるのか保障されていません。
 ③Aを受託者とした後、Aの急病・急死など不測の事態により、受託者としての信託事務を遂行することができなくなった場合、BがAの代わりにYの面倒を見てくれるか保障されていません。

⑶ 解決策

 まず、XはAを受託者とし、X死亡後に信託の効力が生じるとする信託契約を設定します(委託者:X、受託者:A、受益者:Y)。信託に判断能力の要件は必要ありませんので、これによって問題点であった①の対策となります。
 次に、受託者となったAが、適切にYのために財産を管理・処分し生活費などの支払いを行ってくれるようにするため、信託財産監督人又は受益者代理人として弁護士や司法書士などの専門家に信託の監督を依頼することで問題点であった②の対策となります。
 最後に、Aが受託者としての信託事務を遂行することが出来なくなった場合に備えて、子Bを第二次受託者・後継受託者と指定します。また、受託者となった子A、Bにもメリットがあるように報酬や残余財産を受け取ることができるように信託契約で信託設定をしておきます。これにより問題点であった③の対策となります。

信託制度の利用を弁護士に依頼するメリット

 近年、信託問題を巡る法律問題についても、徐々に紛争に発展するケースが出てきています。簡易裁判所の事物管轄で収まらないケースの場合、簡易代理権を有する司法書士では対応することができません。
 その点、弁護士は、信託問題を取り扱う上で事物管轄などの制限はなく、あらゆる法律問題に対応することができます。相続を巡る法律問題には、遺産分割事件や遺留分侵害額請求事件、相続排除審判事件のように家庭裁判所の管轄に属する事件が多くありますが、弁護士であれば、取り扱った紛争案件の経験に照らしてより効果的な手段を依頼者に提案することができます。
 もっとも、民事信託、家族信託における法律問題において、相続税・贈与税などの課税問題が付随して発生しますので、税理士など税務の専門家の協力が必要不可欠となります。また、信託財産に不動産が含まれる場合には、受託者への所有権移転登記や信託登記が必要となるため、不動産登記の専門家である司法書士の協力が必要となる場面もあります。
 そのため、民事信託や家族信託を弁護士に依頼する場合には、税理士や司法書士など他の士業と積極的に連携がとれる弁護士に依頼することが必要です。

まとめ

 相続税の節税対策として「民事信託」「家族信託」の活用に注目が集まっています。小規模宅地の特例などを活用すれば節税になり得ますが、「民事信託」「家族信託」自体で節税できるわけではありません。
 また、多額の財産が関係し、関係者の思惑と感情が複雑に絡み合う「民事信託」「家族信託」の対象事案では、特定の関係者の利益のみに引きずられず、バランスのとれた解決が期待されます。
 しかしながら、信託制度や税務に精通し、関係者への適切な説明や説得を行うことのできる専門家は多くありません。
 弁護士法人いかり法律事務所は、相続を巡る法律問題の解決実績を多数有しています。また、成年後見制度や信託制度の活用について、最適な解決案を提案できる弁護士が在籍しています。成年後見制度や信託制度などを利用して相続対策をご検討されている方は、是非一度弁護士法人いかり法律事務所へご連絡ください。