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 この判例は、たとえ労働派遣法違反があったとしても、そのことを理由に直ちに派遣元との雇用関係が無効になることはないと判断し、その上で原告が主張していた派遣先との間で黙示の労働契約も成立していないと判断しました。

事案の概要

(1)  家庭用電気機械器具の製造業務の請負等を目的とするA(訴外)は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の製造を業とするY社との間で業務委託基本契約を結んでいた。
 Xは平成16年1月20日にAと契約期間2か月(更新あり)就業場所をYのI工場とする労働契約を締結し、同日からI工場で、Yの従業員の指示を受けてデバイス部門の装着工程に従事することとなった。

(2)  Xは、平成17年4月27日、Yでの就労実態が労働者派遣法等に違反しているとしてYに直接雇用の申入れをしたが、回答を得られなかったのでB労働組合に加入して、BからYに対して、Xに直接雇用申込みを行うよう団体交渉を申し入れた。

(3)  平成17年5月26日、Xは、Yでの勤務実態は請負ではなく、労働者派遣であるとO労働局に告発し、Yが是正指導を受けたため、Yはデバイス部門における請負契約を労働者派遣契約に切り替える計画を策定し、これに伴いAは、同年7月20日限りでデバイス部門から撤退した。
 YはA以外の会社と労働者派遣契約を締結しPDPの製造業務を続けた。
 Xは、AからI工場の別部門への異動を打診されたが、Yの直接雇用下でデバイス部門の作業を続けたいと考え同年7月20日にAを退職した。

(4)  YとB・Xとの間で行われたXの直接雇用をめぐる協議の結果、Xの雇用契約の条件として契約期間は平成18年1月31日まで、業務内容はPDP製造と記載した労働条件通知書をX側に交付し、Xはその内容に沿った雇用契約書に署名押印して平成17年8月19日にYに交付した。
 その後、Yは平成18年1月末日をもって期間満了によりXとの雇用契約が終了したとして、それ以降のXの就業を拒絶した。

(5)  Xは、Aを退職する以前からYとの間で黙示の労働契約が成立していた等と主張し、雇用関係継続確認等を請求した。

第一審:請求棄却、第二審:請求認容

判旨・判旨の要約 原判決を一部破棄、自判

(1)  請負人における労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせている場合には、たとえ請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない

(2)  労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との雇用契約が無効になることはないと解すべきである。
 XとAとの間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから、両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。

(3)  YはAによるXの採用に関与していたとは認められないというのであり、XがAから支給を受けていた給与等の額をYが事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず…YとXとの間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない

解説・ポイント

 この判例は、たとえ労働派遣法違反があったとしてもそのことを理由に直ちに派遣元との雇用関係が無効になることはないと判断し、その上で原告が主張していた派遣先との間で黙示の労働契約も成立していないと判断しました。

 派遣元との間に労働契約が成立している以上、派遣先との間に(黙示の)労働契約が成立しないと判断されたものではなく、派遣先との雇用関係はあくまでも当該労働者の派遣の実態から判断されるべきと考えられています。

 なお、黙示の労働契約は、法人格濫用の場面などで使用者概念の拡張を図り労働者を保護するための法理として用いられることがあります。
 黙示の労働契約の成立を認める要件として、
 ①当該企業の指揮命令を受けて労務を提供
 ②その対価として当該企業から報酬(賃金)の支払いを受けていたこと
 ③これらについて両当事者に共通の認識(意思表示の合致)があったこと
 が必要とされています。