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 この判決は、労働者の暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分は、処分時点において、企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的かつ合理的な理由を欠き社会通念上相当なものとして是認することはできないと判断しました。

事案の概要

(1)X1及びX2はY社に勤務していたところ、X1は体調不良で欠勤した翌日に、この欠勤を有給休暇に振り替えようとした。
 しかし、X1の上司は、就業規則に反することを理由に、これを認めなかったため、X1の当月の支給分の賃金が一部減額された。
 X2も同様に風邪による欠勤を有給休暇に振り替えようとしたが、X2の上司はこれを認めなかった。

(2)X1及びX2は、この上司に対して共に暴行を加えた

(3)X1及びX2により暴行を受けた上司が警察署及び検察庁に被害届や告訴状を提出していたため、Y社は、これらの捜査の結果を待って処分を検討することとした。

(4)X1及びX2による暴行事件から約6年後、検察官はX1及びX2を不起訴処分としたため、Y社はX1及びX2の処分の検討を開始した。
 Y社は、X1及びX2に対して諭旨退職処分を行い、期限までに退職願を提出しなかったため、懲戒解雇を行った。

(5)X1及びX2は、本件懲戒解雇の無効を主張して提訴した。

第一審は請求認容したが、控訴審は第一審判決を取り消した。

判旨・判決の要約 破棄自判

(1)使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当なものとして是認することはできないときには権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

(2)本件諭旨退職処分は本件各事件から7年以上が経過した後にされたものであるところ、Y社においては・・・被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから・・・捜査の結果を待たずともY社においてX1及びX2に対する処分を決めることは十分に可能であった・・・しかも・・・捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられる。

 また・・・暴行、業務妨害等の・・・事実があったとされる日から本件諭旨退職処分がされるまでに長期間が経過している・・・ことからすると、本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨退職処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点からX1及びX2に対し懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる。

解説・ポイント

 労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして当該解雇は無効となる」と規定しています。

 具体的には、懲戒処分は、実質的に周知された合理的な内容の懲戒処分の根拠規定の存在を前提に、

1.懲戒処分事由該当性
2.処分の相当性
3.手続の相当性

の各要件を満たすことで有効なものとなり、その立証責任は使用者にあります。
 本件は、2の手続の相当性が問題となった事案にあたります。
 本件の他にも、非違行為から約2年経過後に労働者から残業代を請求されたことに立腹してなされた懲戒解雇を無効とした例があります(東京地判平成24年3月27日労判1053号64頁)。
 故意又は過失による違法な懲戒処分は、労働者に対する不法行為となることもあるので注意が必要です。