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 この判例は、労働者災害補償保険法(以下「労災法」といいます。)による療養補償給を受ける労働者が療養開始後3年を経過しても治らないため使用者が打切補償を支払った場合に、労働基準法(以下「労基法」といいます。)19条1項ただし書により解雇制限は解除されると判断しました。

事案の概要

(1) Xは2003年に頸肩腕症候群と診断され、同疾病により2006年1月から学校法人Yを長期にわたり欠勤していたが、2007年11月にこれが業務上の疾病に当たるとの認定を受け、労災法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けることになった
(2) Yは、Xの2006年1月からの欠勤後3年が経過した時点で、Xの疾病の症状にほとんど変化がなく就労できない状態であったことから、Xを2009年1月から2年間の休職とした。
(3) 2011年1月に2年間の期間が経過したが、XはYからの復職の求めに応じず、YはXが職場復帰できないことは明らかであるとして、同年10月に打切補償金として平均賃金の1200日分相当額を支払ったうえで、Xを解雇する旨の意思表示を行った。
(4) YがXに対して地位確認不存在確認を求める訴え(本訴)を提起したところ、Xは、解雇が労基法19条に違反し無効である等と主張し、労働契約上の地位の確認を求めて反訴を提起した。

第一審及び控訴審共にXの請求を一部認容した。

判旨・判旨の要約 破棄差戻し

(1) 労基法81条の定める打切補償の制度は、使用者において、相当額の補償を行うことにより、以後の災害補償を打ち切ることができるものとするとともに、同法19条1項但し書きにおいてこれを同項本文の解雇制限の除外事由とし、当該労働者の療養が長期間に及ぶことにより生ずる負担を免れることができるものとする制度である。

(2) 使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとして労災法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に(災害補償が)行われているものといえるので、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで、同項但し書きの適用の有無につき取り扱いを異にすべきものとはいい難い。

(3) 労災法12条の8第1項第1号の療養補償給付を受ける労働者は、労基法19条1項但し書きが打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。

(4) Xは、労災法12条の8第1項第1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合に当たり、労基法19条1項但し書きの解雇制限の除外事由を定める規定に該当する。

解説・ポイント

 労基法19条1項は、使用者は労働者が業務上の負傷や疾病による療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後休業の期間及びその後の30日間はその労働者を解雇してはならないと規定しています。労働者の休業を保障する趣旨です。

 本判例は、使用者自身が行う労基法上の災害補償ではなく、国による労災保険法上の療養(補償)給付を受けている労働者に打切補償を行う場合にも、労災保険法上の保険給付は労基法上の災害補償と実質的には同一(金員による被災者救済という点で共通)であることから、労基法19条1項の解雇制限が解除されると判断しました。 

 なお、労基法19条1項本文の解雇制限が解除される場合にも、客観的合理性や社会通念上の相当性から解雇権の濫用と判断される場合には当該解雇は無効となるので注意が必要です(労働契約法16条)。