はじめに

 相続財産には、預貯金をはじめ、不動産や保険金、有価証券などの積極財産のほか、借金など消極財産が含まれます。相続財産の評価は、不動産など一部の財産を除いて定型的であり、その評価額の方法はおよそ決まっています。
 実際、預貯金や死亡保険金などは、通帳や受け取った保険金から相続財産の評価額を確認することは難しくありません。

 たしかに、本稿で紹介する有価証券についても、銀行や証券会社などの金融機関が発行する残高証明書などから、評価額である市場価格や基準価格を確認することはできます。
 もっとも、相続財産の対象となる有価証券の種類により評価方法が異なるものがあります。本稿で紹介する非上場株式が当たるのですが、その評価方法は非常にテクニカルであり、専門家の助言なく相続人自ら評価額を確認することは容易ではありません

 本稿では、有価証券のうち、相続により取得した非上場株式にフォーカスして、その評価方法について概要を紹介致します。

株式の相続の前に

1.株式の意義と種類

 そもそも株式とは、株式会社の社員たる地位のことをいいますが、ここで言う社員とは、日常的に用いられる従業員としての意味ではありません。大雑把に言うと、出資持分に応じた株式会社の所有者のことをいいます。

 また、株式自体の種類として普通株式や優先株式、劣後株式などがありますが、本稿では、証券取引所で取引が行われる上場株式か、証券取引所を介さないで取引の行われる非上場株式かに分けて解説しています。

2.非上場株式の特徴

(1)評価調達により評価方法が定められている

 非上場株式は、上場株式と異なり、取引相場が明らかではありません。そのため、非上場株式は、非上場株式を相続した又は贈与を受けた者の相続税や贈与税の申告に際して一定の配慮が必要となります。
 
 そこで、非上場株式については、国税庁が相続税や贈与税の申告の便宜や課税の公平性を図るために財産評価基本通達(通達178~196)を定めて、その評価方法を明らかにしています(国税庁HP参照)。

 このように、非上場株式は、財産評価基本通達により評価方法が定められている点が特徴として挙げられます。

(2)所有者により評価額が変わる

 財産評価基本通達で定める非上場株式の評価方法においては、同じ会社の株式であっても、相続する(又は贈与を受ける)株主の会社に与える影響力によって評価方法が異なります

 非上場株式の会社は同族間で企業経営を行う中小規模の会社であることが多く、株主である被相続人の親族は、会社の経営権に与える影響力が大きくなる傾向にあります。そのため、このような同族株主には、会社の経営権に与える影響力の小さい者と異なる評価方法が適用されることになります。同族株主については後述します。

(3)納税猶予の特例の適用がある

 非上場株式の相続税の申告について、相続税が高額になった場合などを考慮して、特定の要件を満たした相続人に特例が適用される場合があります。
 同特例の適用により、非上場株式等の課税価格の80%に対応する納税が猶予されることになります。

株式評価の重要な考慮要素

 取引相場のない非上場株式の評価において、その評価額は、対象となる非上場株式を相続する所有者の実態により評価額が変わることになります。
 ここでいう所有者とは、会社の経営権に影響を与える者とされていますが、具体的には同族株主などが所有者となる場合に評価額が変わることとなります。

1.同族株主とは

 同族株主とは、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上である場合におけるその株主及び同族関係者のことをいいます。同族株主が非上場株式を相続により取得する場合には原則として、その評価額が特定の評価方法により算定されることになります。相続人が会社のオーナー一族であった場合などが同族株主の例として挙げられます。

 もっとも、株式評価の対象となる会社(評価会社といいます)の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多い株主グループがその会社の議決権総数の50%超である場合には、50%超のグループにいる株主のみが同族株主となり、30%以上のグループにいる株主は同族株主とはなりません。

 なお、同族関係者とは、法人税法施行令第4条に規定する特殊関係のある個人又は法人のことをいいます。株主総会の成立には過半数の議決権を有する株主の過半数が出席する必要があり、出席した株主の過半数の賛成により(普通)決議は成立することになるため(会社法309条1項)、50%超(過半数)の議決権を有するということは、経営権に直接参加できる強力な権限を有することを意味することになります。

2.同族株主・同関係者の判定は専門家に

 同族株主か同族関係者に当たるかその判断は、専門的な知識・経験が不可欠ですので(国税庁のHP参照)、この点について気になることがあれば弁護士や税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。

非上場株式をどのように評価するか

1.誰が相続するか

 非上場株式を相続した場合の評価方法は、誰が非上場株式を相続するかにより評価方法が異なります。先にも述べたように、この非上場株式を相続する株主が、会社の経営権に大きな影響を与えるのか否かにより異なります。
 
 会社の経営権などに影響を与える株主の場合には、原則的評価方式により評価し、一方、少数株主など会社の経営権に影響を与えない株主の場合には、特例的評価方式により判断されることになります。

2.原則的評価方式とは

 原則的評価方式とは、非上場株式の評価額を決定する算定方式の1つのことをいいます。 原則的評価方式は、特定の評価方式のみをいうのではなく、純資産価額方式類似業種比準方式及びこれらの方式をあわせた併用方式のことをいいます。
 これらの方式のうち、いずれの方式を採用するかは、評価会社を、その業種や取引金額、従業員数などにより、大・中・小会社に区分して判断することとなります。

 まず、純資産価額方式とは、総資産価額(相続税評価額によって計算した金額)から負債と評価差損(評価差損とは、対象の資産を時価で算定した場合に発生する差額のことをいいます)に対する法人税額等相当額を控除した額を課税時期における発行済株式数を控除して算定するものをいいます。
 分かり易く言うと、自社を解散した場合に、総資産から負債や法人税などを控除した後に、最終的に株主に戻ってくる金額を元に算定する評価方法のことをいいます。
 この純資産価額方式は、一般的に、事業規模の小さい会社に適用されることとなります。

 つぎに、類似業種比準方式とは、評価会社と類似する業種の複数の上場会社の平均価額と比準3要素(1株当たりの配当金額、1株当たりの年利益金額、1株当たりの純資産価額)を用いて算定するものをいいます。
 分かり易く言うと、評価会社と類似した同業種の会社の1つを基準として、自社の株価を算定する評価方法のことをいいます。
 この類似業種比準方式は、一般的に、事業規模の大きい会社に適用されることとなります。

 なお、中規模の会社では、一般的に、上記方式を併用して非上場株式の評価額を算定することとなります。 

3.特例的評価方式

 同族株主以外の株主が取得した株式については、その株式の発行会社の規模にかかわらず、特例的評価方式である配当還元方式により評価することになります。
 配当還元方式とは、その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10パーセント)で還元して元本である株式の価額を評価する方法のことをいいます。

小括

 非上場株式の評価方法には、原則的評価方式と、特例的評価方式があり、いずれの評価方法によるかは、株式を取得した相続人の評価会社に与える影響力の大きさなど諸要素を考慮して判断されることになります。

 評価方法の正確な判定や詳細な計算式については省略していますので、詳しい評価方法を確認したい場合には弁護士や税理士など専門家に確認してみると良いでしょう。

さいごに

 本稿でご紹介したように、非上場株式には取引相場が明らかでないため、国税庁が定める財産評価基本通達に沿って非上場株式の評価が行われます。
 
 この通達は公表されており、誰でも確認することができますが、国税庁のHPを見ても分かるように、通達の内容は多岐に渡り、詳しいがゆえにかえって分かりにくく、評価額の算定式も相続する株主についてその詳細を調査しなければならず(同族株主の判定など)、相続法や相続税法に精通した弁護士や税理士など専門家の助言を受けずに進めることは容易ではありません。 

 非上場株式の相続があった場合に、その評価方法や評価額などについて気になることがあれば、まずは、上記専門家に相談してみることをお勧めします。 
 弁護士法人いかり法律事務所には株式評価に詳しい弁護士が在籍しており、また税理士とも連携して相続業務を取り扱っています
 福岡で弁護士をお探しであれば、まずは、弁護士法人いかり法律事務所へご相談下さい。