はじめに

1.投資用不動産とは

 投資用不動産とは、不動産投資を目的として所有する不動産のことをいいますが、これら不動産の種類としては、アパートやワンルームマンション、戸建てなどが挙げられます。
 
 不動産投資は、所有する不動産を賃貸に出して賃料収入などの運用利益(インカムゲイン)や将来値上がりしそうな不動産を購入し、購入価格よりも売却価格が上回った時に、この不動産を売却して売却益キャピタルゲイン)を得ることなどを目的として行われます。

2.投資用不動産の相続

 一般的に、不動産投資においては、購入時と売却時の評価額が問題となりますが、相続の場面では、相続開始時又は遺産分割時の評価額が問題となります。
 
 また、対象となる不動産の用途により、その評価方法が異なっており、預貯金や有価証券などのように定型的にその評価額を判断することは容易ではありません。相続する投資用不動産の財産評価に際しては、対象となる財産の評価基準時や評価方法などを検討しながら慎重に判断する必要があります。
 
 本稿では、財産評価が難しいとされる不動産の評価基準や評価方法にふれつつ、投資用不動産の相続について解説致します。

不動産をいつ評価するのか

1.遺産分割時または相続開始時が基準となる

 投資用不動産を相続する場合も投資以外の目的で不動産を相続する場合と同じように、原則として遺産分割時を基準とし、後述するように、相続人に特別受益や寄与分がある場合には、相続開始時を基準に投資用不動産の財産評価が行われます。

2.遺産分割時が基準となる場合

 不動産を含む相続財産の評価は、遺産分割時が基準とされていますが、裁判(調停・審判)になった場合には、調停・審判期日に近接している証拠調べ終了時が基準とされています。

3.相続開始時が基準となる場合

 すでに被相続人から特定の相続人が生前贈与や遺贈などにより特定の利益を受けている場合(これを「特別受益」といいます)や相続財産の維持・増加に貢献した特定の相続人が他の相続人よりも多くの相続財産を受け取ることができる場合(これを「寄与分」といいます)には、不動産の評価は相続開始時が基準とされています。
 
 なお、相続開始時と遺産分割時が近接している場合には、当事者の合意により、一時点を評価の基準時と定めることができます。

不動産をどのように評価するのか

1.不動産の代表的な財産評価の方法

 投資用不動産をはじめ不動産の評価方法には様々なものがあります。
 代表的な評価方法として固定資産税評価額路線価相続税申告時の評価額実勢価格などに基づく評価方法がありますが、投資用不動産は、一般的に、土地なら相続時の路線価により、建物なら固定資産税評価額により財産評価を行うことになります。

 なお、不動産の評価額は、一般的に、実勢価格(時価)⇒地価公示価格⇒路線価(土地の場合)⇒固定資産税評価額の順で小さくなります

(1)固定資産税評価額とは

 固定資産税評価額とは、固定資産税を計算するときの基準となる金額のことをいいます。また、固定資産税とは、固定資産(土地、家屋及び償却資産)の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則(国家が提供する便益に応じてその費用提供に要する費用を負担する建前のことをいいます)に基づき、資産価値に応じて、所有者に対し課税する財産税のことをいいます。

 固定資産税評価額は、一般的に、地価公示価格や鑑定評価価格などの約7割を目途に設定されます。同評価額は、原則として、3年ごとに評価の見直し(評価替え)が行われています。

(2)路線価とは

 路線価とは、主に市街化区域内の道路に付設された価格のことで、道路に接する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価格のことをいいます。
 路線価には、市町村が付設している固定資産税の路線価のほか、税務署が付設している相続税の路線価があります。相続税の路線価は、地価公示価格の約8割を目途に設定されます。

 なお、路線価については、「全国地価マップ(一般社団法人資産評価システム研究センター)」により確認できます。全国地価マップは、最新データでない場合もありますので取扱いには注意が必要です(毎年9月末頃更新)。
 また、福岡県の路線価は、令和5年分財産評価基準書」より確認することができます(国税庁HP参照)。

(3)実勢価格とは

 実勢価格とは、実際に市場で土地の売買が行われる価格のことをいいます。  
 実勢価格は、一般的に、地価公示価格の1.1倍程度で評価されていますが、地価の変動や対象不動産が都心部にあるのか地方にあるのかなど条件によっては、地価公示価格より下回ることもあります。
 
 なお、実勢価格は、相続によらない投資用不動産の財産評価において重要な指標となります。

(4)公示価格とは

 公示価格とは、国土交通省が地価公示法に基づいて設定する土地価格のことをいいます。一般の土地の取引に対して指標を与えることや、不動産鑑定の基準となることなどを目的として公示されるものです。
 
 なお、(地価)公示価格は、「標準地・基準地検索システム」を利用して確認することができます(国土交通省HP参照)。

(5)重要な指標となるのは

 これらの評価額のうち、相続する投資用不動産の財産評価においては、土地については相続税の路線価が、建物については固定資産税評価額が財産評価の重要な指標となります。

2.不動産仲介業による査定

 その他、不動産の評価方法として、不動産仲介業による査定があります。
 不動産仲介業による査定とは、不動産仲介業者に依頼して無料で査定書を作成してもらうことをいいます。

 不動産評価額について相続人たちの間で争いがある場合に、不動産仲介業者が作成した査定書を準備することがありますが、本来の査定額よりも依頼者に都合のよいバイアスがかかっている場合があるので査定額を評価する際には注意が必要です。

3.鑑定人による鑑定

 また、同様に、相続人当事者間で評価額について同意が得られない場合に、裁判所が選任した鑑定人による鑑定が行われることがあります。

 鑑定人の意見には従わなければならなくなることや、不動産によっては鑑定費用が高額になることもあるため、鑑定を利用する際には慎重な判断が必要です。

土地の財産評価

 土地の財産評価は、土地の用途によって異なります
 不動産投資により土地を所有した場合には、自用地よりも、貸宅地や貸家建付地などとして評価されることが想定されます。
 ここでは投資用不動産としての利用が想定される土地・敷地について幾つか解説致します。

1.自用地の場合

 自用地とは、自宅の敷地や駐車場のように、所有者が自ら使用して便益を得ている土地のことをいいます。所有者が使用することに制限のない空き地なども自用地とされます。自用地の財産評価は、一般的に、相続税の路線価によって財産評価が行われます。
 
 もう少し詳しく説明すると、自用地は路線価方式(※1)又は倍率方式(※2)によって財産評価を行うことになります。市街地にある宅地などは路線価方式で、市街地から離れた宅地は倍率方式で評価されることになります。

※1 路線価方式・・・路線価が定められている地域の評価方法のことをいい、宅地が面している道路に付けられた路線価に、地積(宅地の面積のことをいいます)と補正率(土地の個別事情を考慮した調整率)を掛けて評価額を算出します。
 つまり、路線価方式の計算式は、路線価×補正率×地積となります。

※2 倍率方式・・・路線価が定められていない地域の評価方法のことをいい、その宅地の固定資産税評価額に、国税庁のホームページで確認できる倍率表に記載の倍率を掛けて評価額を算出します。
 つまり、倍率方式の計算式は、固定資産税評価額×倍率となります。

2.貸宅地の場合

 貸宅地とは、借地権(土地を借りて建物などを建てるなど土地を使用する権利のことをいいます)の目的となっている宅地のことをいいます。
 貸宅地は、そこから賃料などを得ることはできますが、宅地所有者の使用権限が制限されることから、自用地としての評価額に借地権割合の分を低く評価して算出します。
 
 具体的には、貸宅地の評価額の計算式は、自用地としての評価額×(1-借地権割合)となります。

3.貸家建付地の場合

 貸家建付地とは、宅地の所有者が貸家や賃貸アパート・マンションを建てて賃貸し、賃料を得ることを目的とした敷地のことをいいます。貸家や賃貸アパート・マンションも、貸宅地と同じように賃貸人の敷地の利用が制限されるので、自用地よりもその分低く評価されることとなります。

 具体的には、以下の計算式により財産評価が行われます。

1.戸建ての貸家の敷地・・・自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合(※1))
2.賃貸アパート・マンションの敷地・・・自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合(※2))

※1 借家権とは、借主が家屋に住む権利のことをいいます。
現在、福岡県の借家権の割合は100分の30とされています(国税庁HP参照)。

※2 賃貸割合とは、有償で貸している割合のことをいいます。賃貸割合は、賃貸中の独立部分の床面積合計を1棟全体の独立部分の床面積の合計を除して算出します。

4.分譲マンションの1室の場合

 分譲マンションには、敷地権がありますので、敷地権の財産評価が必要となります。敷地権の財産評価は、マンションの敷地の全体の評価額を路線価又は倍率方式により算出し、これに敷地権の割合を掛けて算定することになります。

 つまり、分譲マンション1室の敷地の評価の計算式は、マンションの敷地の全体の評価額×敷地権の割合で算定します。

建物の財産評価

 建物の財産評価は、一般的に、固定資産税評価額によって行われます。
 建物も土地と同じように、用途により評価額が異なってきます。また、建物の固定資産税評価額は、築年数や特例、軽減措置の適用などにより変動することになるため注意が必要です。 

 不動産投資として建物を取得した場合には、自用家屋というよりも、戸建ての貸家や賃貸アパート・マンションとして評価されることが想定されます。 
 ここでは不動産投資としての利用が想定される建物について幾つか解説致します。

1.自用家屋

 自用家屋とは、所有者自らが使用・居住する建物のことをいいますが、自用家屋は、固定資産税評価額がそのまま相続税の評価額となります。

2.戸建ての家屋・マンションの1室の場合

 戸建ての家屋やマンションの1室を賃貸することにより賃料を得る場合、先に述べたように、福岡では借家権割合は100分の30とされていますので、固定資産税評価額×(1-借家権割合)により算定することになります。
 つまり、固定資産税評価額の70%で評価されます。

3.賃貸アパート・マンションの場合

 賃貸アパートや賃貸マンション1棟全体を賃貸している場合、賃料は得られますが所有者としての使用権限が制限されているので、借家権割合や賃貸割合の分だけ低く評価して財産評価を行うことになります。
 
 具体的には、固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)の計算式により算定することとなります。

さいごに

1.不動産以外の財産評価は難しくないが

 相続財産のなかには、預貯金や株式、保険金などのように様々なものがありますが、財産評価において、不動産以外の財産評価はそれほど難しくはありません
 
 たとえば、預貯金は残高がほぼそのまま評価額になりますし、上場株式や投資信託なども金融機関が交付する資料をみれば市場価格や基準価格を確認することができます。死亡保険金についても、非課税枠を差し引いて受領した金額が評価額となります。

 このように、不動産以外の財産評価は客観的な資料を入手しやすく、比較的定型的な手続きで評価額が明らかになりますが、不動産の財産評価は、本稿で述べたように、種類や用途などにより、その評価方法がさまざまであるため、弁護士や税理士など専門家の助言なく、相続人自ら適切に財産評価を行うことは難しいものといえます。

2.不動産の相続に関する相談は専門家に

 投資用不動産をはじめ不動産の財産評価を行う際には、相続法に明るいだけでなく、相続税や相続税の軽減措置、適用される特例などにも精通していることが必要です。
 
 弁護士法人いかり法律事務所には、相続税にも明るい弁護士が在籍しており、税理士とも連携して相続業務を取り扱っています
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