今回は、農業従事者の方が亡くなった後、相続人がいた場合および相続人がいない場合の具体的な相続手続、節税対策を紹介いたします。
相続人がいる場合
1 相続放棄をする場合
⑴ 相続放棄の利用
相続放棄は、相続人が耕作地など農地を相続したくない場合のほか、後継者以外の相続人に相続され相続財産が散逸することを防ぐために利用されています。
相続放棄を行う場合、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄申述書を提出することになります。
⑵ 相続税法上の取扱い
相続税法上の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」により算出されますが、この法定相続人の数には相続放棄をした者も含まれるため、相続人は、他の相続人が相続放棄を行ったとしても基礎控除額の計算で不利益にはなりません。
また、生命保険金や損害保険金における非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」により算出されますが、この法定相続人の数には相続放棄をした者も含まれるため、相続人は、他の相続人が相続放棄を行ったとしても非課税限度の計算で不利益にはなりません。
2 耕作権を相続した場合
⑴ 農地法上の手続き
耕作権を相続した場合、農業委員会に遅滞なく届け出る必要があります(農地法3条の3)。
なお、農地に耕作権を設定する場合、農業委員会の許可が必要となりますが(農地法3条1項本文)、農地の使用貸借権又は賃借権を相続しても農業委員会の許可は必要ありません(農地法3条1項12号)。
⑵ 相続税の申告と納付
耕作権(農地で耕作または牧畜する権利)は相続財産となるため、相続税の申告と納付が必要となります。
耕作権についても財産評価を行い、相続財産が基礎控除額を超える場合には相続税の納付と申告が必要となります。
耕作権の価格のうち、農業投資価格(農地等が恒久的に農業の用に供されるとした場合に通常成立すると認められる取引価格として国税局長等が決定した価格)を超える場合に対する相続税額については、農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例を受けることが可能です。
なお、耕作権は換金可能性が低いにもかかわらず財産評価のうえで高額となる場合もあり相続税の納税額が想定以上に高額となるおそれがあります。
そのため、耕作を続ける承継人がいない場合には、耕作権における相続税対策を検討しておいた方がよいでしょう。
⑶ 「農地に係る相続税の納税猶予の特例」を受ける
「農地に係る相続税の納税猶予の特例」とは、農業を営んでいた被相続人等の相続人が農地等を相続や遺贈によって取得し、農業を営む場合または特定貸付け等を行う場合に、一定の要件の下にその取得した農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額は、その取得した農地等について相続人が農業の継続または特定貸付け等を行っている場合に限り、その納税が猶予される特例のことをいいます。
要するに、農地を承継した相続人が営農を続ける場合には一定の要件のもと相続税の納税が猶予される特例のことをいいます。
この特例の適用を受けるためには、被相続人、農業相続人、農地についてそれぞれ要件を充足する必要があります。特例の要件についてはこちら(国税庁HP)をご確認下さい。
3 相続税を納付できない場合
国税は金銭で一括納付することが原則ですが、期限までに相続税を納付できない場合には、延納や物納を行うことが出来る場合があります。
延納によっても納付できない場合に物納を行うことになります。
なお、延納期間中は利子税の納付が必要となります。
⑴ 延納の要件
以下の①~④すべての要件を満たす場合に延納申請をすることができます。
①相続税額が10万円を超えること
②金銭で納付することを困難とする事由(事実と理由)があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること
③延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること
担保の種類として、土地や建物、国債、地方債等がありますが、税務署長が延納の許可をする場合において、担保が適当でないと認める場合には、変更を求められることとなります。相続人の固有の財産や共同相続人または第三者が所有している財産であっても担保として提供することができます。
なお、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。
④延納申請に係る相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。
相続税の延納に関して詳しくはこちら(国税庁HP)をご確認下さい。
⑵ 物納の要件
以下の①~④すべての要件を満たす場合に物納の許可を受けることができます。
①延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
②物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、法定順位に従ったもので、その所在が日本国内にあること
③物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること及び物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと
④物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること
相続税の物納に関して詳しくはこちら(国税庁HP)をご確認下さい。
4 後継者に農地を承継させる場合
⑴ 相続財産の散逸を防ぐ
後継者以外の相続人らに相続財産である農地が相続されないように、相続放棄や遺留分の放棄を検討する必要があります。
相続開始前に、あらかじめ遺留分を放棄することは、家庭裁判所の許可を受けてはじめて行うことができます(民法1049条1項)。
⑵ 農地を贈与する
後継者に農地を承継させるために、相続開始前に農地を贈与することが考えられます。農地を贈与する場合には、事前に農業委員会の許可を受ける必要があります(農地法3条7項)。
受贈者である後継者は、贈与税の負担が小さくなる「農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例」の適用を受けることができる場合があります。
⑶ 「農地に係る贈与税の納税猶予の特例」を受ける
「農地に係る贈与税の納税猶予の特例」とは、農業を営んでいる人が、農業の用に供している農地の全部ならびに採草放牧地および準農地の一定部分をその農業を引き継ぐ推定相続人の1人に贈与した場合に、受贈者に課税される贈与税を受贈者が農業を営んでいる限り、その納税が猶予される特例のことをいいます。
要するに、農地の贈与を受けた者が営農を続ける場合には一定の要件のもと贈与税の納税が猶予される特例のことをいいます。
この特例の適用を受けるためには、贈与者、受贈者、農地等についてそれぞれ要件を充足する必要があります。特例の要件についてはこちら(国税庁HP)をご確認下さい。
相続人がいない場合
1 特別縁故者への相続財産の分与
農業従事者に相続人がいない場合でも、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者は、その請求によって、審判により相続財産である農地の全部又は一部の分与を受けることが出来ます(民法958条の3第1項)。
特別縁故者への財産分与を求める審判の申立ては、相続人を捜索するための公告期間(民法958条参照)の満了後3カ月以内に行う必要があります(同法958条の3第2項)。
なお、特別縁故者への相続財産の分与の審判があった場合には、農地に関する耕作権の分与を受けたことについて、農業委員会へ届出を行う必要があります(農地法3条の3)。
2 相続財産管理人の選任
農業従事者に相続人がおらず、特別縁故者もいない場合、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所により相続財産管理人が選任されることになります(民法952条2項)。
相続財産管理人は、被相続人の債権者等利害関係人ら債権者に対して債務を弁済する等清算を行うことになります。清算後の残余財産は、国庫に帰属する(国の所有となる)ことになります(民法959条)。
農地の相続に関する弁護士費用
弁護士法人いかり法律事務所では、農地の相続に関する弁護士費用として、以下の料金設定でご依頼を承っておりますが、その他相続に関する弁護士費用については個別に相談に応じていますのでまずは無料法律相談をご利用のうえご相談下さい。
目安:相続放棄 55,000円(税込)~
相続人調査 55,000円(税込)~
相続財産調査 55,000円(税込)~
遺産分割協議 220,000円(税込)~
遺産分割調停 330,000円(税込)~
まとめ
農地の相続・節税対策については、農業委員会の届出や特例の適用など通常の相続・節税対策と異なる面も多くあります。
また、営農を続ける相続人がいない、後継者がいない、農地の相続手続きが分からない、効果的な節税対策を知りたいなど農地の相続にかかる問題は沢山あります。
弁護士法人いかり法律事務所には、農地の相続問題に詳しい弁護士が多数在籍していますので、農地の相続問題についてお困りの方や少しでも気になることがありましたら、まずは無料法律相談をご利用の上、お気軽にご相談ください。