1 RKB毎日放送に出演

 当法律事務所の伊藤裕貴弁護士(福岡県弁護士会所属)がRKB毎日放送「タダイマ!」に出演し、同番組の中で、親が認知症になる前に準備しておくべき相続対策について、認知症と診断された場合の遺言書の効力や相続税に関する問題など具体的な事例を交えて紹介しました。
 
 また、親が認知症になった場合の具体的な対応策として、成年後見制度や家族信託制度などがあることを紹介し、その制度の概要や手続きなども解説しました。

2 2025年には認知症患者数が700万人超に

 団塊の世代が75歳以上となる2025年には認知症患者数が700万人を超え65歳以上の5人に1人が認知症になると言われています(令和元年6月20日厚労省資料「認知症施策の総合的な推進について」)。 

 上記厚労省の統計によると、65~69歳までの人の認知症は、全体で1.5%ですが、70~74歳では3.6%、75~79歳では10.4%、80~84歳では22.4%、85~89歳では44.3%、90歳以上では64.2%となっており、加齢に伴い上昇し、特に80歳を過ぎると急速に認知症となるリスクが高まることが分かっています。
 なお、この統計上、女性の方が認知症になるリスクが高く、たとえば、90歳以降では男性が42.4%であるのに対し、女性は71.8%と約1.7倍も高くなっていますが、これは女性の方が男性よりも平均寿命が高くなっていることが要因の1つと考えられます。
 
 いずれにせよ、親が高齢である場合は、加齢に伴い認知症のリスクが高まることを知り、認知症が発症した場合の対応について予め準備しておくことが重要です

3 認知症への備え

⑴ 親が認知症になる前に

ア 親子で相続に関する情報を共有しておく

 親が認知症になる前に、相続に関する情報を共有しておくことが重要です。特に、親と同居しておらず、日頃電話でのやり取りしかないような場合には、親が認知症になっているか気付きにくいため注意が必要です

 たとえば、印鑑や通帳の保管場所、所有不動産の名義人や地番、住宅や自動車のローンなどの相続財産に関する情報を共有しておくことが重要です。また、遺言書やエンディングノートを準備しておくことで、相続人が相続で争うリスクを軽減することもできます

イ 成年後見制度や任意後見制度を利用する

 成年後見制度とは、認知症などが原因で判断能力が低下した人のために法的な手続きを代理補助し、財産の管理を行う制度のことをいいます。
 認知症のため自分でお金の計算や入院・介護契約などができない、知的障害があり何度も借金をしてしまう、精神障害があるため妄想状態になり正常な判断が困難である場合などに成年後見制度は利用されます。

 後見制度には成年後見制度の他に、任意後見制度があります。任意後見制度とは、本人(親)の判断能力が十分である時点で、判断能力が衰えたときに備えて、本人の意思で信頼できる人(親族など)に後見を委任する制度のことをいいます。
 任意後見人には、財産管理権や契約で定めた法律行為の代理権、身上監護権などが認められます。任意後見人の具体的な後見業務は、任意後見契約により定められます。
  
 任意後見人となるためには、特別の資格は必要なく、原則として、成人であれば誰でも任意後見人となることができます
 実務では、配偶者や子など親族のほか、弁護士や司法書士など法律の専門家が任意後見人となることが多いようです。

ウ 家族信託制度を利用する

 親が認知症になる前であれば、家族信託制度の利用も検討してみるべきです。家族信託とは、自ら財産を管理することが困難な認知症の配偶者や高齢者、障がい者のための柔軟な財産管理と円満・円滑な資産承継の両方を実現できる財産管理の仕組みのことをいいます。
 本人の財産が使えなくなることを「財産の凍結」といいますが、「財産の凍結」を防ぎ、子が親のために財産を有効活用し、安定した生活と福祉を確保することや大切な財産を相続人、後継者へ譲り渡していくことが家族信託の意義となります。

 家族信託を利用することにより、委託者の意思に基づいた信託財産の長期的な管理ができるようになるなど成年後見制度以上にメリットがありますが、弁護士や司法書士など専門家へ報酬・公証役場の手数料・不動産登記費用など、家族信託の導入時には相当額のコストが発生するデメリットもありますので、導入の際には専門家へ相談する等して慎重な検討が必要です。
 家族信託制度について詳しく知りたい方はこちらもご覧下さい。

⑵ 親が認知症になったら

 親が認知症であることが分かったら、後見制度の1つである成年後見制度の利用を検討する必要があります。成年後見制度は、本人(親)の判断能力が欠けている場合に利用できる制度です。本人の判断能力の程度に応じて「後見」のほかにも「保佐」や「補助」の制度があります。

 成年後見人には、家庭裁判所の審判から本人の死亡まで、財産管理権や法律行為の代理権、身上監護権などが認められますが、原則として相続税対策や資産の投資・運用などは認められません。成年後見人になるためには、任意後見人と異なり、家庭裁判所の決定(選任)が必要となります。

 成年後見制度や任意後見制度は、本人の死亡により後見業務が終了するため、相続人などに親の相続財産を引き継ぐまでの管理を任せたい場合に利用を検討したい制度といえます。
 他方、本人の死亡後にも、本人の配偶者のために財産を使いたいと希望する場合には、認知症になり意思能力を失う前に、家族信託制度の利用を検討すべきです

4 まとめ

 番組内では、当法律事務所の伊藤裕貴弁護士が、高齢の親が認知症になる前や、なった後の対応、利用できる成年後見制度や家族信託制度の概要について紹介しましたが、各制度を含め、相続問題について詳しく知りたい方は、一度弁護士や司法書士に相談の上、各制度のメリットやデメリットを確認してみることをお勧めいたします。

 当法律事務所にも、伊藤裕貴弁護士をはじめ、相続問題に詳しい弁護士が多数在籍していますので、親の認知症に関わるトラブルをはじめ相続問題について気になることがありましたら、まずは無料法律相談をご予約のうえ、お気軽にご相談ください

RKB毎日放送「タダイマ」に出演中の伊藤裕貴弁護士(福岡県弁護士会所属)