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 この判例は、書面により作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り、仮に、労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力を付与することはできないと判断しました。

事案の概要

(1)Xらは、Y社に勤務する従業員であった。
 Y社には、A組合のほか、Y社と協調路線を採るB組合が存在し、Xらは、A組合の組合員であった。

(2)Y社は、就業規則を新賃金体系の内容に改定し、Xらを含めた全従業員に対して、新賃金体系に基づく賃金を支給するようになった。

(3)Y社とA組合は労使交渉を行った。
 Y社はベースアップを行うことを認め、A組合に対し、その旨の協定書作成を求めた。A組合は引上げ額には同意したものの、新賃金体系を前提とする協定書作成に応じることは、新賃金体系を承認する意味を持つと考え、協定書作成に応じなかった

(4)Y社は労働協約の書面不作成を理由に、Xらに対してベースアップ分の賃金を支給しなかった。他方、Y社は新賃金体系に同意したB組合の組合員及び非組合員に対しては、ベースアップ分の賃金を支給した。

(5)Xらは、Y社に対してベースアップ分の未払賃金等を求めて提訴した。 

原判決請求認容

判旨・判決の要約 一部破棄自判、一部破棄差戻し

(1)労働組合法14条が、労働協約は書面により作成し、両当事者が署名し又は記名押印することによってその効力を生ずることとしているゆえんは、労働協約に労働契約の内容を規律するという法的効力を付与することとしている以上その存在及び内容は明確なものでなければならないからである。

(2)労働協約…の履行をめぐる不必要な紛争を防止するために、団体交渉が最終的に妥結し労働協約として結実したものであることをその存在形式自体において明示する必要がある。
 …書面により作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り、仮に労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力を付与することはできないと解すべきである。

(3)Y社とA組合とは…いずれの合意についても、協定書を作成しなかったというのであるから…労働協約の効力の発生要件を満たしていないことは明らかであり…労働協約が成立し規範的効力を具備しているということができないことは論をまたない。

解説・ポイント

 本判決の意義は、労使間の権利関係に係る規律は紛争・トラブル予防などのため明確である必要があるので、協定書など書面により作成し、両当事者の署名(自書することでこの場合は押印不要ということ)又は記名・押印(ゴム印の場合は捺印が必要ということ)が必要(効力発生要件)と判断した点にあります。

 なお、本事案でも述べている労働協約の労働契約の内容を規律する効力規範的効力と呼ばれています。
 規範的効力とは、労働協約に反する労働契約の内容は無効となり(強行的効力)、無効となった部分や労働契約に定められていない部分を補う効力(直律的効力)のことをいいます。