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 この判例は、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって正当な組合活動として許容されないと判断しました。

事案の概要

(1)Xら4名が所属する訴外A組合は、国鉄Yに対する合理化反対の目的でビラ貼りをA札幌地方本部(A地本)に指令し、さらにA地本は傘下の支部・分会に指令の実施を命じた。

(2)支部・分会の組合員であったXらは、この指令に応じてYの備品のロッカー約300個にそれぞれ1~2枚のビラを粘着テープで貼付した。
 これらのビラは、縦40㎝横13㎝で、上部には「賃上げ実現」「合理化反対」等を趣旨とする文言が記載されており、下部には「A札幌地本」と印刷されていた。

(3)Xらのビラ貼りを現認した助役らが中止を命じたところ、Xらはこれを拒否し、ビラを剥がそうとした助役らの行為を制止した。
 そのため、Yは、就業規則に基づきXらを戒告処分に付した。

(4)Xらは戒告処分の無効を主張し提訴した。 

第一審請求棄却(Xらの請求は認められなかった)
控訴審控訴認容(Xらの請求が認められた)

判旨・判旨の要約 破棄自判

(1)企業は…職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営体制を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外には利用してはならない旨を…具体的に命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には…制裁として懲戒処分を行うことができる。

(2)労働者には企業施設の利用が許容されているが、それは、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲にとどまり…使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限をもっているということはできない

(3)労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって正当な組合活動として許容されない

(4)本件ビラの貼付を許さないことは、その物的施設についてのYの権利の濫用であるとすることはできない。

解説・ポイント

 企業施設内での組合活動は、使用者の施設管理権による規律に服することになります。そのため、使用者の許諾を得ることなく、施設内でのビラ配布などの組合活動は原則として正当な組合活動とはいえません
 ただし、本判決が判示しているように、使用者が利用を許さないことが施設管理権の濫用といえるような特段の事情がある場合に限って例外的に施設内での組合活動が許されることがあるとしています。
 
 この点、就業時間中のリボン闘争が職務専念義務に違反するかが問題となった大成観光事件(最高裁昭和57年4月13日第三小法廷判決)とは事情が異なります。いずれも組合活動という点では共通していますが、以下の点で異なっているものといえます。
 
 つまり、本判例が許諾なく使用者の施設を利用し、かつビラ配布の態様が枚数、大きさ等から穏当とは言えず、仮に施設の利用が許諾されていても本件ビラ配布の態様から正当な組合活動と認められない可能性があったのに対し、大成観光事件では、職種がホテル業であったため、リボン着用の就業が職務専念業務に反し正当な組合活動とは認められなかったといえ、内勤でのリボン着用であれば職務専念義務に反すると言えず、正当な組合活動と認められた可能性があったといえるからです。

 正当な組合活動にあたるかは、その態様のあり方がポイントになることに注意しなければなりません。