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 この裁判例は、正社員と準社員の職務の内容及び配置の変更範囲が事実上同一であると認められるにも関わらず両者の待遇に差を設けることは合理的な理由があるとはいえず、短時間労働者であることを理由とした差異を設けたものといえ、パートタイム労働法8条1項に違反すると判断しました。

事案の概要

(1)  Yは、石油製品の保管、貨物自動運送事業等を営む会社であり、Xは、Yとの間で平成16年10月15日から17年4月14日まで、17年10月1日から18年3月31日まで、それぞれ6か月の有期労働契約を締結し、期間社員としてYに雇用された。
 Xは、平成18年4月1日以降は準社員となり、25年3月31日まで1年間の有期労働契約を6回更新して雇用されてきた。Xは、Yの九州支店大分事業所で貨物自動車の運転に従事し、その職務内容は正社員運転手と同じであった
 Xが期間社員であった時期の労働条件は、1日の所定労時間が7時間、基本日額が6,800円であり、準社員となった当初は1日7時間、賃金基本日額は6,850円とされた。準社員としての勤務日数は、年291日であった。

(2)  Yの就業規則には、正社員について転勤・出向を命ずることがある旨の条項があるが、準社員についてはなく、実際上も、正社員には転勤・出向の実績があるのに対し、準社員には実績がない。
 しかし、正社員の転勤等も少なく、平成14年以降、九州管内では、転勤・出向はなかった。また、Yは、平成20年3月31日までは準社員をチーフ・グループ長・運行管理者・運行管理補助者に任命していた。さらに、正社員ドライバーの中には、事務職に転換して昇進する者もいるが、その数は非常に少なかった。
 Yは、平成24年7月1日、準社員就業規則を変更し、所定労働時間及び勤務日数を正社員と同じ1日8時間・年258日に統一し、基本日額を7,870円に変更した。
 X以外の準社員は、上記変更を内容とする新たな雇用契約書に署名押印したが、Xは署名押印しなかった。その後、Yは、平成25年3月23日、Xに対し、同月31日をもって労働契約を終了し、雇い止めとすることを通知した。

(3)  Xは、雇い止めの適法性を争うとともに、YがXに対してパートタイム労働法8条1項に違反する差別的な取り扱いをしていると主張して、Yの正規労働者と同一の雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、また、不法行為に基づく損害賠償を求めて本訴を提起した。

判旨・判旨の要約 一部認容

 Xは、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間労働者であって、期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、その職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるものに該当すると認められる。 

 X・Y間の労働契約の実情によれば、Xら準社員と正社員の間には、配置の変更の範囲について違いがないことはないが、大きく異なっているとまではいえない
 
 Xを含む準社員の賞与と正社員の賞与の間には年間40万円以上の差があること、両者の週休日数には30日超の差があり、正社員が勤務した場合のみ時間外割増金が支払われること、正社員には退職金が支給されるのに対し、準社員には支給されないことの各待遇については合理的な理由があるとは認められず、短時間労働者であることを理由として行われているものと認められ、パートタイム労働法8条1項に違反するものと認められる。

解説・ポイント

 本裁判例のように、これまで同一企業内で働く正社員と職務内容や配置の変更の範囲が同じであっても、雇用形態が違うだけで基本給や手当などに大きな待遇差があるため労使間で紛争が発生することがありましたが、2020年4月に「パートタイム・有期雇用労働法」が施行され2021年4月1日からは中小企業にも適用されることとなり、本裁判例のような待遇差を設けることは禁止されました。 

 「パートタイム・有期雇用労働法」の施行により、①基本給や賞与、各種手当、福利厚生などで不合理な待遇差を設けることは禁止されることとなり、また、②事業主には待遇差の内容や理由について説明義務が課され、③不合理な待遇差に関するトラブル解決のため行政による紛争解決援助制度の利用が可能となりました。

 今後、使用者側の対応として、労働者の雇用形態や待遇の状況待遇差がある場合その理由の確認が必要となります。
 また、待遇差がある場合には、その待遇差が合理的であることを説明できるように整理することや、仮に合理的とは言いがたい待遇差が認められた場合には早急に改善することが必要となるので注意が必要です。