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 この判決は、タクシー乗務員の歩合給について、当該歩合給が時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものでもなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことを理由として、当該歩合給が労働基準法37条所定の割増賃金として支払われたものとは認められないと判断しました。

事案の概要

(1)タクシー乗務員らの労働時間は、午前8時から翌日午前2時まで(そのうち2時間は休憩時間)であった。タクシー乗務員らの賃金は、タクシー料金の月間水揚高に一定の歩合を乗じた金額を支払うというもので、時間外・深夜労働を行った場合にも、歩合給以外の賃金は支給されていなかった。また、歩合給のうち、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外・深夜労働の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものであった。

(2)タクシー乗務員らは、勤務するタクシー会社において、午前2時以降の時間外労働及び深夜労働の割増賃金が支払われていないとして、これらの割増賃金と付加金の支払いを求めた。

第一審はタクシー乗務員らの請求を認容し、控訴審は原判決を一部変更した。

判旨・判決の要約 破棄自判

(1)当事者双方の主張からすれば、タクシー乗務員らの午前2時以降の就労についても、それがタクシー乗務員らと当該乗務員が勤務するタクシー会社との間の労働契約に基づく労務の提供として行われたものであること自体は、当事者間で争いのない事実となっていることは明らかである。

(2)当該乗務員らに支給された歩合給の額が、時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、労働基準法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきである。当該タクシー会社は、当該乗務員らに対し、労働基準法37条及び労働基準法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある。

解説・ポイント

 法所定の割増賃金に代えて一定額の手当を支払うことも、法所定の計算による割増賃金額を下回らない限りは適法です。例えば、営業社員の時間外労働手当を営業手当として固定額で支払うことも、法所定の割増賃金額を上回っていれば適法とされます(大阪地判昭63.10.26労判530号40頁)。
 
 ただし、法所定の計算によらない場合にも、割増賃金として法所定の額が支払われているか否か判定できるように、割増賃金相当部分とそれ以外の賃金が明確に区別されることが必要です(東京地判平3.8.27労経速1437号24頁)。