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 この裁判例は、企業運営上の必要性を理由とする使用者の解雇の自由は一定の制約を受けるとして、就業規則のやむを得ない事業の都合による解雇に該当するか否かは、客観的に合理的な理由があるか否かに帰するとして、人員削減の必要性、②解雇理由の恣意性、③被解雇者選定の合理性を考慮事情とすると判断しました。

事案の概要

(1) Y社は、酸素及び窒素等の製造販売その他の付帯事業の経営を目的とする株式会社であり、東京本店のほか近隣各市に複数の出張所及び工場を有している。Xらは、Y社の川崎工場のアセチレンガス製造部門に勤務しており、訴外A組合の組合員である。

(2) Y社は、アセチレン部門の収支が赤字に転落するなど経営が悪化したため、取締役会で、川崎工場のアセチレン部門の閉鎖を決定し、A組合に同決定の趣旨を通知し、就業規則の「やむを得ない事業の都合によるとき」に基づき同部門の従業員Xら全員に対し解雇通告をし、同部門を閉鎖した。

(3) Xらは、解雇の効力を争い、地位保全等の仮処分を申請した。

第一審は、Y社の解雇回避措置が不十分であるとして解雇を無効とした。

判旨・判旨の要約 原判決取り消し、Xらの申請却下

(1) 解雇は、労働者から生活の手段を奪い、あるいはその意思に反してこれまでより不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせることがあるばかりでなく、その者の人生計画を狂わせる場合すら少なくないので、労働者を保護するために解雇の自由も一定の制約を受ける

(2) 本件解雇が就業規則にいう「やむを得ない事業の都合によるとき」ものに該当するか否かは客観的に合理的な理由があるか否かに帰するが、第1に、右事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくものであること、第2に、右事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは右配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に恣意によってなされるものでないこと、第3に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、以上の3個の要件を充足することを要し、特段の事情がない限り、それをもって足りる。

(3) 解雇につき労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し解雇権の濫用にわたると認められるとき等は、解雇の効力は否定されるが、これらは解雇の効力の発生を否定する事由であって、その事由の有無は解雇事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならない。

(4) アセチレン部門の業績不振は一時的なものではなく、同部門の収支の改善はほとんど期待することができず、これを放置すれば会社経営に深刻な影響を及ぼすおそれがあったので、同部門の閉鎖は企業の運営上やむを得ない必要があり、かつ合理的な措置であった。
 また、同部門の従業員を配置転換するとすれば、現業職及びこれと類似の職種である特務職に限られるが、他部門において当時いずれについても過員であり欠員が生じる見込みもなかった。
 さらに、他部門とは独立した事業部門であるアセチレン部門の廃止により企業全体の過員が一層増加したので、同部門の管理職以外の従業員47名全員を解雇対象者に選定したことは一定の客観的基準に基づく選定であり、その基準も合理性を欠くものではない。

(5) 以上より、本件解雇は就業規則にいう「やむを得ない事業の都合による」ものといえる。

解説・ポイント

 整理解雇とは、使用者が経営不振などの経営上の理由により人員削減の手段として行う解雇をいいます(いわゆるリストラ)。
 
 本裁判は、解雇の客観的合理性の判断要素として、①人員削減の必要性、②解雇理由の恣意性、③被解雇者選定の合理性の3つを挙げており、整理解雇法理の解雇回避努力義務(解雇以外の別の手段の検討)については明示せず(他の部門も過員であったため配置転換が難しいとの言及にとどまる)上記整理解雇法理の4要件(4要素)よりも緩やかに判断しています。
 
 しかし、整理解雇は他の類型の解雇とは異なり、労働者側の事由を直接の理由とした解雇ではないため、一般の解雇と比べてより具体的で厳しい制約が課されなければなりません

 実務上、整理解雇が有効と認められるためには、解雇の客観的合理性と社会的相当性という一般的かつ抽象的な2つの要件をより具体化する形で、人員削減の必要性解雇回避努力義務履行の有無被解雇者選定の合理性解雇手続の相当性の4要件(4要素)の充足が必要とされます(整理解雇法理)ので、整理解雇を行う場合には慎重な検討が必要となります。