はじめに

 経営者であれば、事業を立ち上げ、会社を成長発展させていくことを目的として経営していることは間違いありませんが、事業の業績悪化だけでなく、感染症の蔓延や自然災害の発生など外部環境の大きな変化や後継者の不在といった企業の内部問題などにより、これまで通りに事業を継続していくことが困難になる場合が想定されます。 

 本意ではなくとも、事業を廃止し清算手続を行うためには、適切な時期に適切な検討と決断が必要となります。事業を廃止し清算する倒産手続には、通常清算特別清算破産手続などの方法がありますが、本稿では、上記清算方法のうち、裁判所の関与のもとで実施される法人の破産手続の概要と具体的な手続きの流れなどについてご紹介致します。

法人の破産手続とは

1 制度の概要

 法人の破産手続とは、破産法に基づき、裁判所によって選任された破産管財人が、支払不能又は債務超過に陥った債務者の財産を管理・換価処分し、換価処分して得た金銭を各債権者に弁済又は配当する清算型の法的整理手続のことをいいます。清算とは、会社解散後に、それまでに発生した債権債務などを整理する活動のことをいいます。

 分かり易く言うと、法人の破産手続とは裁判所の関与の下で会社をたたみ、会社の負債をチャラにすることをいいます。

 なお、法人の破産手続は、裁判所の関与の下に行われる倒産処理手続の中でも清算型の倒産手続として位置付けられます。

2 破産手続の特徴

 破産手続は、私的整理手続のように、債権者と債務者が裁判外で協議によって債務の弁済方法や財産の処分などについて決定していく場合とは異なり、裁判所の関与の下で法令に基づいて手続が進行していき、債権者の自治が働かないことが特徴として挙げられます。
 
 また、破産手続は、法人格を維持したまま債務者の経済的な再建を図る再生手続や更生手続とは異なり、債務者のすべての財産・債務・法律関係等が清算され、法人格が消滅することも特徴として挙げられます。
 
 さらに、破産手続は、会社法に基づき清算手続き中の株式会社だけが利用できる特別清算手続とは異なり、個人・法人の双方が対象となり、すべての債務者が利用できる手続であることも特徴として挙げられます。

3 破産手続の種類

 破産手続には、次の2つの手続があり、法人の破産手続の多くの場合は、破産管財人が選任される管財手続により進行します。

1.同時廃止手続
2.管財手続

 同時廃止手続とは、破産手続開始決定時点で、破産財団をもって破産手続の費用を支弁する(賄う)のに不足すると認めるときに、破産手続開始決定と同時に破産手続を終了する手続のことをいいます(破産法216条1項)。
 管財手続とは、裁判所によって破産管財人が選任され、この破産管財人が中心となって破産手続が進行する手続のことをいいます。

 法人の破産手続の場合は、一定の破産財団(会社の残余財産のこと)の存在が想定されることや利害関係人が多く、適切な資産の調査・管理・換価が必要となる蓋然性が高いため、原則として、破産管財人を選任し、破産手続を進めていくこととなります。

 なお、実務上は、申立時に上記同時廃止手続と管財手続のいずれかを選択して申し立てることになりますが、同時廃止手続を選択しても、同時廃止手続が相当でないと判断される場合には、管財手続に移行する場合があることに注意が必要です。

破産手続の流れ

1 基本的な流れ

 破産手続の基本的な流れは、次の通りとなります。以下、この流れに沿って手続の概要についてご紹介致します。

1.破産手続開始の申立て
2.破産手続開始要件の審査
3.破産手続開始決定破産管財人の選任
4.債権の届出・調査・確定
5.債権者集会
6.配当手続
7.破産手続の終結

2 破産手続開始の申立て

(1)開始原因

 破産手続の開始原因は、「支払不能」や「支払停止」「債務超過」となります(破産法15条1項、同2項、16条1項)。
 
 「支払不能」とは「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」にあることをいいます(破産法2条11号)。
 「支払停止」とは「債務者が弁済期の到来した債務を一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に表示すること」をいいます。例として、手形の不渡りや債務の支払が出来ない旨の通知などが挙げられます。
 「債務超過」とは「債務者がその債務につき、その財産をもって完済することができない状態のこと」をいいます(破産法16条1項カッコ書)。

(2)申立権者

 破産手続の申立権者は、「債権者」又は「債務者」となります(破産法18条1項)。
 法人の破産手続の場合には、一般社団法人・一般財団法人の場合には「理事」が、株式会社又は相互会社の場合には「取締役」が、合名会社、合資会社又は合同会社の場合には「業務執行社員」が、以上の各法人については「清算人」が、その他の法人については「理事等」がそれぞれ申立権を有しています(破産法19条1項1~3号、2項)。
 
 いわゆる「役員」と呼ばれる人たちが、会社をたたむ際の主要な申立人となるというイメージです。

(3)申立の時期及び方法

 破産手続開始の申立ての時期について、制限はありません。解散した法人については、残余財産の引渡し又は分配が終了するまでであれば、破産手続開始の申立てが可能です。
 
 破産手続開始の申立ては、破産申立書を債権者一覧表と共に裁判所に提出して行うこととなります(破産法20条1項、2項)。債権者が多数の場合や、営業所が全国に点在している場合などの大規模な事件や破産手続開始の申立てによる影響が大きな事件の場合には、その後の運用が各地方裁判所により異なることがありますので、事前に裁判所に相談するのが大切です

(4)申立費用

 破産手続開始の申立てに際しては、申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならず(破産法22条1項)、期限までに費用の予納がない場合には、申立てが棄却されることとなります。
 
 なお、予納費用については、破産財団となる財産及び負債の状況や債権者数、その他の事情を考慮して決められることとなります(破産法24条1項)。

3 破産手続開始要件の審査

 申立が受理されると、破産法で定められた法律要件を満たすかについて、書面審査や破産債務者への審尋などが行われます(破産規則15条)。必要に応じて、裁判所は職権で調査を行うこともできます(破産法8条2項)。

4 破産手続開始決定・破産管財人の選任

(1)破産手続開始決定

 破産手続開始の申立てがあった場合には、破産手続開始原因が認められ、次のいずれかの破産障害事由がある場合を除いては、裁判所は破産手続開始の決定を行うこととなります(破産法30条1項)。

1.破産手続の費用の予納がないとき
2.不当な目的で破産手続開始の申立てがあったとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき

 なお、上記2については、例えば、真に破産手続の開始を求める意思や真に破産手続を進める意思がないのに、一時的に債権者から取り立てを免れるなど時間稼ぎのために破産手続を利用する場合などが挙げられます。

(2)破産管財人の選任

 上記破産開始決定がなされると同時に、破産管財人が選任され、債権届出期間、第1回債権者集会(財産状況報告集会)期日、債権調査期日又は債権調査期間が定められ、公告されることとなります(破産法31条1項、同32条1項2号・3号)。

 破産管財人が選任されると、破産財団に属する破産者の財産の管理・処分権は破産管財人に専属し、破産者はその管理・処分権を失うこととなります(破産法78条1項)。
 また、破産管財人選任後には、破産債権者は、破産者に対する債権の取り立てができなくなります破産管財人は、資産を調査・管理し、財産を換価処分して、破産財団の維持・増加を図るという使命が課されています。破産財団の維持増加の例として、契約関係の処理や否認権の行使、法人役員への責任追求などが挙げられます。
 
 破産管財人には、強力な調査・管理権限が与えられる一方で重要な説明義務を負います。破産管財人から求められた説明や検査を拒んだり、重要な財産開示を拒絶したりすると刑罰が科される場合があるので注意が必要です(破産法268条1~4項、269条)。

 なお、先に説明したように、同時廃止手続とされた場合には、破産管財人は選任されず、破産開始手続と同時に破産手続は廃止されることとなります(破産法216条1項)。

5 債権の届出・調査・確定

(1)債権の届出

 破産債権者は、破産手続に参加しようとする場合には、開始決定において定められた破産債権届出期間内に、その債権の額・原因、優先的破産債権、約定劣後破産債権であるときはその旨など、破産法所定の事項を裁判所に届け出なければなりません(破産法111条1~5号)。
 要するに、破産債権者は、配当手続に加わるために所定の手続によって、自ら債権者であることを裁判所に明らかにする必要があるということです。

 もっとも、配当の見込みがない場合にまで、破産債権の届出や調査を行う必要性は乏しいため、破産手続開始決定の時点で配当の見込みがなく破産手続廃止の見込みがある場合には、債権届出期間や債権調査期間及び期日を定めないことができるものとされています(破産法31条3号)。
 
 なお、「知れたる債権者」つまり、破産債権者であることが裁判所にも明らかである場合には「債権届出書」と記載された書面が破産債権者に届きますので、この債権届出書に所定の事項を記載して裁判所に提出することとなります。

(2)債権の調査・確定

 破産手続開始後、債権届出がなされて(破産法111条)、破産債権票が作成され(破産法115条)、債権調査が行われます。
 具体的には、破産管財人は、届出のあった債権届出書や疎明資料などを審査して、債権調査期日において、認否予定書により(破産規則42条1項)届出された破産債権の種類や額などの認否を明らかにすることとなります。
  
 破産債権の調査において、破産債権の額又は優先的破産債権、劣後的破産債権もしくは約定劣後破産債権であるかどうかの別について破産管財人が認めず、又は届出をした破産債権者が異議を述べた場合、当該債権が認められるべきと考える破産債権者は、裁判所に、破産債権査定申立てを行うことができます(破産法125条1項)。この破産債権査定申立てがあった場合には、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、破産債権査定決定を行うことになります。つまり、破産債権であるか否かについて、裁判所が判断を下すということです。

6 債権者集会

 債権者集会は、破産手続開始から一定期間経過後に開催され、破産管財人から破産手続開始に至った事情や破産者及び破産財団に関する経過及び現状など所定の事項についての報告が行われることとなります(破産法31条1項2号、157条、158条)。

7 配当手続

(1)配当手続とは

 配当手続とは、破産債権に関する債権調査が終了し、破産債権者に分配することができるほどの破産財産を構成することができた場合に公正・適正に破産財産を分配する手続のことをいいます。
 配当の種類には、中間配当最後配当追加配当があり、最後配当に代えて簡易な方法で行うことのできる簡易配当同意配当があります。

(2)中間配当・最後配当とは

 中間配当とは、破産財団に属する財産の換価処分の終了前に、配当に適当な破産財団がある場合に最後配当に先立って行うことのできる配当手続のことをいいます。
 最後配当とは、一般調査期間経過後又は同期日終了後に、破産財団に属する財産の換価の終了後に行われる配当手続のことをいいます。

(3)簡易配当・同意配当とは

 簡易配当とは、破産財団が少ない場合などに利用される最後配当の手続よりも簡易な配当手続のことをいいます。
 同意配当とは、配当に関して破産債権者の同意が認められる場合に利用される配当手続のことをいいます。

(4)追加配当とは

 追加配当とは、最後配当、簡易配当又は同意配当後、新たに配当に充てることのできる破産財産が発見された場合に補充的に行われる配当手続のことをいいます。

8 破産手続の終結

(1)破産手続終了の種類

 破産手続終了には、破産手続終結決定破産手続廃止決定があり、破産手続廃止決定には、同時破産廃止(破産法216条)、異時破産廃止(破産法217条)及び同意破産廃止(破産法218条・219条)があります。
 法人の破産手続の場合には、破産手続終結決定異時破産廃止決定により破産手続が終結されるのが一般的です

(2)破産手続終結決定とは

 破産手続終結決定とは、配当手続の終了後、債権者集会において、破産管財人から配当報告がなされた後に行われる決定のことをいいます(破産法220条1項)。破産手続終結の決定により会社の法人格は消滅し、これにより法人の債務も消滅することとなります。

(3)同時破産廃止とは

 同時破産廃止とは、破産手続開始決定の時点で、破産財団によって破産手続の費用を支弁する(賄う)ことができないときに、破産手続開始決定と同時に破産手続を終了する決定のことをいいます。同意破産廃止決定が行われると、その時点で破産手続は終了することとなります。

(4)異時破産廃止とは

 異時破産廃止とは、破産手続が開始されたものの、破産債権者に対して配当を行うことができる破産財団を構成することができなかった場合に、破産手続を終了させる決定のことをいいます。

(5)同意破産廃止とは

 同意破産廃止とは、破産手続の廃止について、債権届出期間内に届出を終了した破産債権者の全員の同意を得ているときや、同意しない破産債権者がいる場合に、他の債権者の同意を得て裁判所が相当と認める担保を提供しているときに破産手続を終了させる決定のことをいいます。

破産手続の登記

1 破産手続開始の登記

 法人の破産手続が開始された場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、破産手続開始の登記を当該破産者の本店又は主たる事務所の所在地を管轄する登記所に嘱託することとなります(破産法257条1項)。

2 破産手続終了の登記

 法人の破産手続が終了した場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、破産手続終結の登記を当該破産者の本店又は主たる事務所の所在地を管轄する登記所に嘱託することとなります(破産法257条7項)。
 この破産手続終結の登記がなされた場合、破産手続が終結すると法人格が消滅するとされているため、その法人の登記記録は閉鎖されることとなります(商業登記規則117条3項1号、2号)。
 
 なお、残余財産が存在することが判明した場合には、当然には法人格は消滅せず、清算人を選任のうえ清算手続を行うこととなります(会社法478条2項)。

法人の破産手続のメリット・デメリット

1 法人の破産手続のメリット

 個人の破産手続と異なり、非免責債権などなく(免責という観念もありません)、法人格が消滅するため、法人の債務をすべて消滅させることが破産手続のメリットとして挙げられます。
 また、個人の破産手続と同じように、破産手続の開始決定があると、その後は破産債権者からの取り立てがストップし、返済の催促から解放されることもメリットとして挙げられます。

2 法人の破産手続のデメリット

 法人格は消滅し、会社自体がなくなるので、雇用していた従業員の解雇が必要となりますが、従業員の解雇に伴い、30日前の解雇予告給与・退職金の支払再就職のサポートなどが必要となってきます。
 また、法人の債務を保証していた経営者は法人の破産手続と同時に自己破産することになります。自己破産すると、免責手続が終了するまでは一定の職業へ就くことができなくなる等の資格制限を受けることとなります。
 自己破産した経営者に起こり得る問題としては、経営者自身の収入の減少が多く挙げられます。

まとめ

1 法人の破産手続は弁護士に

 破産手続の申立ては、本稿でご紹介した申立権者であれば、自ら行うこともできますが、法人の破産手続きは必要な書類を決められた期限内に作成し、提出する必要があるなど多くの手間や時間がかかります。また、手間や時間がかかるだけでなく、破産債権者や破産管財人とのやり取りなどで、専門的・法的判断が必要となることがあります。
 これらの手続は、法人の債務整理を専門分野の1つとしている弁護士への依頼を検討することが大切です

2 事業廃止の検討・決断は早めに

 本稿でも述べたように、破産手続を利用するには、弁護士に依頼してもしなくても相当額の費用が必要となります。そのため、事業の廃止・清算を決断するのであれば、経済的に余裕がある内に早めに準備を進めていくことが大切です
 会社の負担を最小限に抑え、最大限の回収を図り、経営者として最後の大きな仕事がこの清算手続になりますが、会社の財務状況によっては、破産以外にも会社更生・再生手続など他の倒産手続きを利用できる場合があります
 会社の事情に応じた清算手続きを適切に検討・実施するために、弁護士など専門家の意見・助言を聞きながら手続を進めることを強くおすすめ致します。

3 破産手続のご相談は弁護士法人いかり法律事務所へ

 法人の破産手続についてご相談されるのであれば、まずは事業所最寄りの法律事務所に問い合わせてみてはいかがでしょう。福岡にも多くの法律事務所がありますが、弁護士法人いかり法律事務所には、破産手続をはじめ会社の倒産手続に精通した弁護士が多数所属しています。
 福岡で事業の廃止・清算方法をご検討であれば、まずは無料法律相談をご利用の上弁護士法人いかり法律事務所にご相談下さい