はじめに

1.全国の地裁への申立て状況

 「令和3年司法統計年報」(最高裁HP)によれば、全国の地方裁判所において新規に受理した破産、民事再生、小規模個人再生事件の合計件数は、下表のとおりとなります。

破産民事再生小規模個人再生
平成23年110,45132513,108
平成24年92,5553059,096
平成25年81,1362097,655
平成26年73,3701656,982
平成27年71,5331587,798
平成28年71,8401518,841
平成29年76,01514010,488
平成30年80,01211412,355
令和元年80,20214512,764
令和2年78,10410912,064
令和3年73,45711010,509

令和2年及び令和3年 司法統計年報(民事・行政編)

 2.福岡地裁への申立て状況

 平成29年から令和3年までの司法統計年報最高裁HP)によれば、福岡地方裁判所において新規に受理した破産、民事再生、小規模個人再生事件の合計件数は、下表のとおりとなります。

破産再生小規模個人再生
平成29年3,7294826
平成30年3,93421,021
令和元年3,98810994
令和2年3,7493958
令和3年3,6570762

平成29年から令和3年 司法統計年報(民事・行政編)

3.再生事件の新規申立てが少ない事情

 上記のとおり、破産の申立てや小規模個人再生の申立てと比べると、福岡地裁を含め全国的にみても民事再生の新規申立ては非常に少なく、近年は減少傾向にあることが分かります(なお、令和元年にやや件数が増加しているのはコロナ禍による倒産件数の増加が影響していることが伺えます)。

 また、個人債務者を対象とした再生手続として、小規模個人再生や給与所得者等再生が用意されていることから、上記民事再生手続の件数は、主に中小企業などの申し立て件数であることが分かります。

 民事再生手続の開始申立てに際しては、破産手続きにおける清算配当率を上回る弁済の確保が必要になることや事業継続に不可欠な資産の確保再生債権者からの再生計画案への同意の見込みなど事業の再生可能性を総合的に考慮する必要があり、これらの事情の判断には、専門的な法的・経営判断が必要となりますが、経済的に窮境にあるなかで、これらの事情を迅速・適切に考慮・判断することは容易ではありません。
 このように、他の倒産手続に比べて考慮すべき事情が多く、経済的窮境のか中にいる当事者にとって、実は利用しにくいことが民事再生の申立件数の減少につながっているものと考えられます。
 
 後述するように、民事再生手続を利用することにより、廃業することなく事業の継続・再建を図ることができ、廃業するよりも上手に倒産手続を利用することで、経営者の経営権や取引先との関係を維持しつつかつ企業の優れた人的資源を流出させることなく事業の再建を図れるなど多くのメリットを受けることが期待できます

 本稿では、「再建型」倒産手続である企業の民事再生手続についてその概要やメリット、留意事項についてご紹介致します。

民事再生とは

1.債務者の事業又は経済生活の再生が目的

 民事再生手続とは、経済的に窮境にある債務者が、債権者の多数の同意と裁判所の認可によって成立する再生計画に基づき、債権者との権利関係を調整し、その事業又は経済生活の再生を図る再建型の倒産手続のことをいいます(民事再生法1条)。
 
 要するに、裁判所の監督のもと破産することなく債務整理を行い事業又は個人の生活を再建再生する手続のことをいいます。

2.企業の民事再生とは

 企業が行う民事再生とは、裁判所の監督のもと、企業が破産することなく、事業を縮小し、事業活動を継続し続けるための再生手続のことをいい、主に中小企業向けの再建型手続として利用されます(もっとも、現在では、大企業や負債額が大きく、債権者数も多数に及ぶ大規模事件でも利用されています)。

3.会社更生手続と異なる点

 民事再生と会社更生は、いずれも破産することなく、事業継続を図る再建型の倒産手続である点で共通していますが、以下の点で異なります。

(1)対象となる債務者

 民事再生は債務者の限定がなく個人だけでなく会社も対象となりますが、会社更生は株式会社のみが対象となる点で異なります(会社更生法1条、2条1項、17条)。

(2)管財人選任の要否

 民事再生は原則として管財人の選任は必要とされず、取締役が権限を維持しつつ(民事再生法38条1項)、監督委員の監督の下に債務者自身が経営を行い、再生計画を立案することになりますが、会社更生は、原則として管財人の選任が必要とされ、管財人が事業の経営と財産の管理処分権を専有し(会社更生法42条1項、72条1項)、取締役はその経営権などの権限を失うことになる点で異なります。

企業の民事再生の特色

1.3つの特色

 企業の民事再生手続の主な特徴として、管財人の選任が原則不要であること(DIP型の手続)、手続の迅速性が特に求められること、債権者の自主的判断が強調されることの3点が挙げられます。

(1)DIP型の手続

 DIPとは、Debtor In Possession(所有権のある債務者)の略語で、管財人を選任することなく再生手続を利用する債務者(再生債務者)自身が主体的に倒産手続を行うことを意味します。
 
 DIP型の手続とは、要するに、管財人に事業の経営権を握られず、再生債務者である取締役が経営者として自ら営業力や技術力を再建に活かすことが可能となる手続のことをいいます。

(2)手続の迅速性

 手続の迅速性は、債務整理いずれの手続においても等しく求められるものですが、再生手続においては、手続追行中に(時間の経過とともに)優良な取引先・商圏や優秀な人的資源が失われるおそれがあり、再建手続きが遅れると、事業の継続、再建活動が難しくなる場合があります。
 そのため、企業の再建手続においては、迅速な手続の履行が強く求められます。

(3)債権者の自主的判断の強調

 再建手続は、再建の当否のような経営判断が必要になる場面もあることから、裁判所主導で行うよりも、直接利害関係のある債権者に再建の当否・方法について判断させることが相当と考えられています。
 そのため、再建手続においては、債権者が自主的に手続情報の開示を求め、再建の当否・方法について判断していくことになります。

2.民事再生を利用するメリット・デメリット

 再生手続の手法として、裁判外で第三者の介在なく債権者・債務者間での話合いによる合意に基づいてなされる倒産処理手続である私的整理を利用するか又は裁判所の関与の下行われる民事再生手続を利用するかは、事業の内容、資金繰りの状況、金融機関や取引先などの主要な債権者の状況・事情などを考慮して判断することとなります。
 
 たとえば、民事再生では、原則としてすべての債権者を平等に扱わなければならず、取引業者を含むすべての債権者を対象とした債務免除や返済の繰り延べなどが行われることになります。
 そのため、再生債務者の信用不安や風評被害の発生、取引先からの取引拒否並びに取引条件の変更要請など、資金繰りが難しくなり、再生債務者の事業価値の急速な劣化を招くおそれが懸念されます。
 民事再生手続を利用する際にはこのような不都合も考慮に入れなければなりません。 

 他方で、民事再生法上の弁済禁止効により、すべての債権者に対する旧債務が一時的に棚上げされ、資金繰りの改善が見込まれ、また、裁判所の関与により手続の透明性が確保されやすくなるなど、再生計画成立の期待が大きくなるという側面もあります。
 民事再生を利用する際には、このようなメリット・デメリットを考慮してその利用を判断しなければなりません。

企業の民事再生手続の流れ

 民事再生手続の対象者はすべての法人及び自然人であり、再生債務者が企業であっても異なりません。
 以下のような手続を経て、再生計画の定め又は民事再生法によって認められた権利を除き、免責(支払を免れることをいいます)されることとなります(民事再生法178条)。

1.民事再生手続開始の申立てから開始決定まで

(1)裁判所に申立てを行う

 民事再生手続開始の原因は法定されており(民事再生法21条1項)、申立権者である債権者又は債務者は、手続開始原因を疎明し(同法23条1項)、手続費用を裁判所に予納して(同法24条1項)手続開始の申立てを行うことになります。

(2)保全処分・中止命令等が発令される

 民事再生手続の申立てが受理されると、裁判所は、再生債務者の財産の散逸を防止するため、仮差押え・仮処分その他の保全処分(民事再生法30条)や担保権実行の中止命令(同法31条)、包括的禁止命令(同法27条)などを発令することとなります。
 なお、実務上は弁済禁止の保全処分の発令が一般的です。

(3)監督委員らが選任される

 また、民事再生手続の申立てが受理されると、再生手続を利用する再生債務者の業務・財産管理状況などの調査、否認権の行使、再生計画の履行の監督などを行う監督委員(民事再生法54条以下)や裁判所が必要と認める際に特定の事項の調査を行う調査委員(同法62条以下)、再生債務者が行うことが適切でない場合に財産管理や処分を行う保全管理人(同法79条以下)らが選任されることとなります。

(4)債権者説明会が開催される

 実務上、再生手続開始申立て直後に、監督委員ら同席の上、再生債務者により債権者説明会が開催され、債権者への情報提供や債権者の意向確認などが行われることとなります。

(5)開始決定が行われる

 裁判所は、手続開始原因があり、かつ、申立棄却事由がない場合には、手続開始決定を行うこととなります(民事再生法33条)。
 この開始決定により、再生債務者に債権を有する再生債権者は、再生手続によらなければ弁済を受けることができなくなります(同法85条1項)。
 再生債権者にとっては債権の満額回収が難しくなるため注意が必要です。

 各地方裁判所の運用状況によりも異なりますが、例えば、東京地裁では、申立てから手続開始まで2週間程度、再生計画認可まで6カ月程度の期間が必要とされています。

2.開始決定から再生計画の認可まで

(1)債権調査が行われる

 開始決定が行われると、再生債権者は手続開始決定時に定められた債権届出期間内に債権の届出を行う必要があります(民事再生法94条)。
 再生債務者は、届出のあった債権について認否を行い、再生債権者は他の届出のあった債権について異議を述べることができます(同法101条、102条)。

(2)再生計画案を裁判所に提出する

 再生債務者らは、債権届出期間満了後、裁判所の定める期間内に再生計画案を作成して裁判所に提出する必要があります(民事再生法163条1項)。
 再生計画とは、要するに、債務の何割かを免除したり、期限を大幅に猶予することによって圧縮・猶予された債務の現実的な弁済計画のことをいいます。

(3)再生計画案が認可される

 再生計画案が裁判所又は債権者集会による決議により可決されると、再生手続や再生計画に違法な点がなく、再生計画遂行の見込みがない等の事由がない限り、裁判所は再生計画を認可することになります(同法188条)。
 再生計画の認可の確定により、再生債務者は一部の債権を除き、免責されることになります(同法178条)。

(4)再生手続が終了する

 再生計画の認可の決定が確定すると、再生手続は原則として終了することになります。ただし、監督委員や管財人が選任されている場合には、再生計画に沿った履行の確保のため、一定期間のあいだ、再生手続きは終了しないことになります(民事再生法188条)。
 また、再生債務者が再生計画の履行を怠った場合には、(実務上ほとんどありませんが)裁判所により再生計画が取り消されることがあります(同法189条)。

弁護士費用

 当法律事務所では、企業の民事再生手続に関する弁護士費用は、個別の事案に応じて具体的な費用の見積もりをさせていただいております。
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まとめ

 民事再生手続は広く利用されているとの話もありますが、司法統計年報にあるように、近年、民事再生の新規申立件数は明らかに減少傾向にあります。
 本稿では企業の民事再生手続の新規申立件数が減少傾向にある事情について独自に考察し、再建型の倒産手続の選択肢として利用が期待される同手続活用のメリットや留意事項などについて紹介致しました。
 
 本稿で紹介したように、企業を消滅させることなく、また経営者が経営権を維持しつつ、事業を縮小して再建が図れる民事再生手続には多くのメリットがあります。他方で、民事再生手続を利用することによる取引先や商圏への信用不安などデメリットも懸念されるところであり、再生手続利用の際には注意しなければならない点も多くあります。
 
 現状を正しく把握し、事業継続か否か、どのような方針をとるかなど、その判断が経営者の重要な役割とはいえ、弁護士など専門家の助言を受けずに判断するのは容易ではありません。
 民事再生手続や会社更生手続、法人破産など採用するべき倒産手続きについて検討する場合には、まずは倒産手続きに詳しい弁護士に相談した上で判断することが大切です。 

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