後遺障害とは,交通事故に遭って怪我をし,治療によっても怪我が完全に治らず,身体や精神の機能に永久に不完全な状態が残存することをいいます。後遺障害について,いくつか留意すべき点がございますのでご紹介いたします。
【後遺障害と認めてもらうために】残存した後遺障害について損害賠償を行うためには,残存した障害が後遺障害であることを自賠責保険に認定してもらう必要があります。この手続きを後遺障害等級の認定申請手続きといいます。
残存した症状の程度や部位によって1~14級まで等級が区分されており,後遺障害等級認定には基準が存在します。残存した後遺症が基準を満たしている場合には該当等級が認定され,その等級をベースに損害額が算定されることになります。事実,一番低い14級が認定されるだけでも数百万円の損害額が認められる可能性があります。そのため,自賠責保険により認定される等級がとても重要となります。
【症状固定とは】 症状固定とは,それ以上治療を続けても改善が見込めない状態のことをいいます。後遺障害等級認定の申請に際しては,症状固定時期が判明している必要があります。なぜなら,上記申請には,主治医の作成した後遺障害診断書の提出が必要となり,そこには症状固定時期が記されている必要があるからです。交通事故に遭い一定期間治療のため通院していると,相手方保険会社から「これ以上治療を続けても治療効果が見られない可能性があるので,ここらへんで治療を打ち切らせて下さい。」という打診が来ることがありますが,治療効果が認められないか否か,すなわち,症状固定時期の判断は,主治医による判断が重視されるものです。そのため,相手方保険会社が治療の改善を見込めないと判断したとしても,必ずしも,その判断に従う必要はありません。もっとも,相手方保険会社としても,いつまでも治療の効果が認められるか否か不明な治療費を払い続けようとはしません。事故状況にもよりますが,軽度な事故ならおよそ3か月ほどで,また,重度な事故ならおよそ6か月ほどで治療の打ち切りを打診してきます。
【治療打ち切りの打診があったら】被害者の方が弁護士に依頼している場合は,弁護士が相手方保険会社と交渉しますので,治療打ち切りの時期は比較的先延ばしになり,本当に治療の改善が見込めない時期まで相手方保険会社の負担で治療を受けることができます。また,症状固定となったら,その後は,怪我の状況にもよりますが,後遺障害等級の認定を申請することになります。
他方,被害者の方が弁護士に依頼していない場合は,ご自身で相手方保険会社と交渉する必要がありますが,相手方保険会社の担当も交通事故を専門に扱っているため,交渉により治療打ち切りの時期を延長してもらうことは容易ではありません。弁護士に頼まず,ご自身で交渉するとしても,一度は弁護士など法律の専門家に相談して対応を検討する必要があると思います。交通事故の法律相談は多く,どの法律事務所でも初回は無料で相談に応じてくれることが多いので,いくつかの法律事務所を訪ねて情報を収集することが重要です。
【治療を打ち切られたら】治療の打ち切り時期と症状固定時期は一致しているのが理想的ですが,被害者自身で交渉した場合のように,現実的には相手方保険会社から早々に治療を打ち切られることがあります。治療打ち切り後,すなわち,症状固定後の治療費については,加害者(相手方保険会社)に支払い義務はなくなります。そのため,治療打ち切り後も治療を続けたい場合には,被害者の方は,健康保険の利用などによって治療を続けるしかありません。健康保険などを利用して支払った治療費や通院交通費等の積極損害は,自賠責保険によって交通事故との間に因果関係があると認められれば,これらは支払ってもらえます。もっとも,自賠責保険に治療費等を支払ってもらうためには,「被害者請求」と呼ばれる請求をする必要があります。この被害者請求を行うためには,被害者の方ご自身で,交通事故証明書や診断書,レセプトなど様々な書類を準備する必要があります。他方,弁護士に依頼していれば,弁護士がすべての必要書類を過不足なく収集し被害者請求を行うことになります。また,弁護士に依頼している場合も依頼していない場合も,被害者請求と後遺障害等級の認定の申請は,提出資料の多くが重複するため,被害者請求と併せて後遺障害等級認定の申請をすることになります。
【後遺障害が認められるために】交通事故にあった場合,被害者の方の多くは,整形外科と整骨院に通院されることが多いと思いますが,実務上,整形外科のみに通いつづる方が自賠責保険により後遺障害等級が認定されやすい傾向にあります。整骨院の施術費を相手方保険会社に支払ってもらう場合には,整形外科の主治医の許可が必要になりますので,整骨院に通う場合や後遺障害等級認定の申請も視野に入れている場合は注意が必要です。できれば,先にも述べたように,一度弁護士に相談してから整骨院に通院するか否かを決定するのがよいと思います。
【後遺障害等級が認められたら】後遺障害等級が認められると,傷害慰謝料が大幅に増額します。また,損害の費目に逸失利益が追加されるため,全体の損害額も,大幅に増額することが見込まれます。損害額の計算にあたって,弁護士は,いわゆる「赤本」と呼ばれる,公益財団法人日弁連交通事故相談センターが発行する,「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」に従い全損害額を算出致します。この基準は,「弁護士基準」と呼ばれ,自動車損害賠償責任保険の支払基準である自賠責基準や任意保険会社が各社で定めている支払基準である任意保険基準よりも算出される損害額が多額になります。弁護士に依頼せずに被害者の方がこの弁護士基準に従って損害額を算出してもその主張が通ることはほとんどありません。そのため,弁護士費用を差し引いたとしても,後遺障害が認定された場合には,弁護士に依頼して交渉を任せる方が,ご自身で交渉するよりも最終的には多くの損害額を認めてもらえる可能性が大きいといえます。