ここだけ読むポイント

 本判決は、試用期間における解約権は「後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨」であるから、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認めれられるとした上で、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認される場合に限定されるとした。
 典型的な例としては、①特定の職業能力・資格が必要とされる業務に採用した労働者の能力不足、②通常業務上の単純なミスの多発などである。

事案の概要

⑴ 就業規則によれば試用期間は3か月以内とされていた。
⑵ 学生運動の経験者は採用しないとの方針があった。
⑶ 試用期間中に学生運動をしていたことなどが判明して本採用を拒否した。

契約上の地位の確認を求めて訴え提起

第1審 本採用拒否は解雇権濫用にあたるとして請求認容
原審 思想信条の記載を求めることは違法、本採用拒否も違法

判旨・判決の要約 破棄差戻

 企業者が、採用決定後における調査の結果により、または使用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが・・・客観的に相当であると認められる場合に許容される。

解説・ポイント

 本採用拒否について、不適格性を理由とする拒否については、内定取り消しの事案でも無効とされており(最高裁昭和54年7月20日第二小法廷判決、大日本印刷事件)、既に労務の提供を開始している試用社員に対する本採用拒否とすることは困難です。
 本採用拒否の有効性の判断においては、当該労働者の能力や資質がどの程度低いのか、改善の見込みがあるのかが重要となります。そのため、労働者の能力や資質を具体的かつ客観的に明らかにし、指導等を行う場合には指導の内容とその結果を記録する必要があります。また、特定の技能を持った人材を中途採用するに当たっては、募集や面接の段階から、企業がいかなる能力について、どの程度の水準に達している労働者を求めているのかを具体的かつ客観的に明示することが重要です。