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この裁判例は、使用者の行った変更解約告知について、①労働条件変更の必要不可欠性、②労働条件変更の必要性が労働者の受ける不利益を上回っていること、③解雇回避努力義務を尽くしていることの3つの要件を満たしている場合には、新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することも適法となると判断しました。
事案の概要
(1) Y社は、スウェーデンに本店を置く航空会社である。Xらは、Y社日本支社の従業員であり、雇用契約において業務内容や勤務地を特定されていた。
(2) Y社の経営悪化に伴い、日本支社の経営も悪化した。Y社は、日本支社の再建策として、日本人全従業員に対し、早期退職募集と再雇用の提案を行い、割増退職金を支給することを発表した。
そして、再雇用後の新雇用条件として、①年俸制の導入、②退職金制度の変更、③労働時間の変更、④契約期間を無期から有期とすることなどが提案された。
(3) 早期退職には全従業員140名のうち115名が応じたが、Xら25名はこれに応じなかった。Y社は、新組織での再雇用の可能性のある18名に対して、新ポジション及び新賃金を明示して早期退職と再雇用への応募を促したが、応募はなかった。そのため、Y社は、Xらに対して解雇の意思表示を行った。
(4) Xらは、Y社の従業員としての地位保全及び賃金の仮払いを求めて申し立てをした。
判旨・判旨の要約 申立て却下
(1) 労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更を伴う新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。
(2) 経営悪化が激しいY社では、事務所の閉鎖や営業組織の縮小などにより、全面的な人員整理・組織再編が必要不可欠となり、各労働者の職務及び勤務場所の変更が必要不可欠となっていた。
従来の賃金水準及び退職金の支給基準も著しく高く新しい制度を設ける必要があったなど、いずれもその変更には高度の必要性が認められる。
一方、Y社による代償措置として相当額の早期退職割増金支給を提案したことも考えると業務上の高度の必要性を上回る不利益があったとは認められない。
(3) 以上によれば、Y社が、Xらに対して新条件の再雇用契約の締結を申し入れたことは、会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性は、右変更によってXらが受ける不利益を上回っているものということができるのであって、当時の事情のもとにおいて、再雇用の申入れを受け入れなかったXらを解雇することはやむを得ないものであり、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされていたものと認めるのが相当である。
解説・ポイント
この裁判例は、変更解約告知を行い解雇を適法と判断しました。
変更解約告知とは、労働条件の変更を申入れ、これに応じない場合には労働契約を解約する旨の意思表示をいいます。
その本来の目的は、解雇それ自体というより、解雇の脅威を背景にした労働条件の変更にあることと考えられます。
日本では、使用者は配転などによって労働義務の内容を相当程度変更することができ、就業規則の改定によって集団的に労働条件を変更することも可能です。そのため、労働条件変更のために変更解約告知という手段を用いる必要性はさほど高くありません。
変更解約告知をめぐっては、変更解約告知に対し労働者が異議をとどめて承諾することを認め、雇用を継続しながら労働条件変更の効力を争うことができるかという問題があります。
この点、相手方の申込みに対して条件を付けた承諾を否定する民法528条により異議留保付き承諾を否定する見解もありますが、民法528条は、契約の成立に関する規定であり、継続的契約である労働契約の内容を変更する申し込みには同条の適用はないと考えることもできます。
変更解約告知に対する異議留保付き承諾を認めることによって、労働者が労働条件変更の承諾か解雇かという二者択一の選択を迫られることを回避することができるようになるため、労働者保護の観点から異議留保付き承諾は肯定されるべきでしょう。
この考え方によれば、労働者が異議留保付き承諾をした場合、変更された労働条件が合理的であれば承諾の効果が有効に発生し、労働条件変更に合理性がないときには変更拒否を理由としてなされた解雇は合理的理由を欠き無効となることになります。