はじめに
1 債務整理の種類
債務整理には、個人再生や任意整理などいくつか方法がありますが、一般的には、「破産」という言葉の方がよく聞く言葉かもしれません。
破産手続きとは、一言でいえば、一部の債務をのぞき、裁判手続きを経て借金をなくしてもらう手続のことをいいます。
この破産手続きには、破産者(申立人)の財産のすべてを金銭に換えて、各債権者(破産債権者)に公平に分配する「管財手続」と、財産のすべてを金銭に換えても換価や分配のための費用にもならない場合に、換価や分配を行わず、破産手続きの開始と同時に手続きを終了させる「同時廃止手続」があります。
2 同時廃止手続の検討
後述するように、同時廃止手続は、破産管財人に対する説明義務や郵便物転送・住居制限もなく、破産管財人報酬などが発生しないことや財産報告集会なども実施されないため、予納金などの破産手続き費用や破産者の負担・制限が大幅に縮小されます。
そのため、破産者(申立人)や申立代理人としては、具体的な状況や管轄裁判所の運用状況を検討しながら、同時廃止手続による案件処理を目指すのが一般的となります。
その一方で、同時廃止手続は、債権者への分配などがなされないことから、債権者の債権回収の利益を損なうことになります。そのため、軽々に利用できる手続と考えるべきではありません。財産があるのにそれを隠して「同時廃止」手続きを求めると、刑罰を科されることもありますし、免責も許可されません。
破産法により規定されている手続とはいえ、本来返済すべき債務を免れ、債権者の利益を大きく損なう側面を有する以上、破産手続きを利用する申立人には、真摯かつ誠実な対応が望まれます。
本稿では、この破産手続の概要についてご紹介致します。
破産・免責手続とは
1 破産・免責手続
まず、破産手続とは、裁判所に自己破産を申し立て、債務者の財産を各債権者に換価・配当する等して(換価・配当可能な財産がある場合)残債務について免責される手続のことをいいます。
つぎに、免責手続とは、破産手続開始当時に債務者が負っていた債務について、支払義務を免除するかどうかを判断するための裁判所の手続のことをいいます。
破産手続と免責手続とは別の独立した手続きとして構成されることもありますが、自己破産の申立てがあった場合には、債務者が反対の意思表示をしない限り、同時に免責許可の申立てがあったものとみなされます。
免責手続と破産手続は同時に並行して行われることが可能であり、破産手続の終了前に免責許可又は不許可の決定がされることもあります。
(破産手続という大きな仕組みの中に、免責手続という処理が組み込まれていると考えておくとよいでしょう)
債権者が債務者の破産を申し立てた場合には、免責許可の申立ては、原則として破産手続開始決定後1か月以内にしなければなりませんが、福岡地裁の場合、破産手続開始申立書と免責許可申立書は同一の書式であり、両申立ては同時に行われています。
2 破産手続の種類
破産手続には、管財手続と同時廃止手続があります。
⑴ 管財手続
管財手続とは、管財人が中心となって行われる破産手続のことをいいます。
管財人は、破産手続開始決定と同時に裁判所によって選任され、殆どの場合、弁護士が選任されることになります。
管財手続となると、破産管財人の費用を裁判所へ予納しなければなりません。管財手続となった場合、破産管財人の費用だけでなく、申立人の代理人となる弁護士の費用も申立人が負担することになります。
⑵ 同時廃止手続
管財手続と異なり、管財人が選任されず、破産手続開始決定と同時に破産手続が終了し破産債権者への配当なく免責されることをいいます。
同時廃止手続とされると、管財人による十分な財産調査がされず、かつ債権者への配当がなく免責されるため、債権者が予定していた債権の回収が全くできず、債権者の利益を大きく損なうことになります。
同時廃止手続は、管財人の費用の予納が不要となるため、申立代理人の費用のみの負担で済むことになります。そのため、管財手続を利用するよりも申立人の負担が大幅に軽減されます。
⑶ いずれの手続が利用されるか
管財手続となるか同時廃止手続となるかは、原則として、破産者の資産(破産財団といいます)に属する財産が一定額(20万円以上)を超えるかどうかが基準とされています。
この破産財団に属する財産が上記一定額(20万円)を超えない場合には、原則として、同時廃止手続とされることになります。
なお、上記振り分けの基準は、各裁判所によって異なり、ある程度の幅を持たせている裁判所もあります。
破産・免責手続の大きな流れ
1 受任通知書の発送
自己破産を申立代理人に依頼すると、申立代理人は各債権者に受任通知書を発送します。
弁護士などから受任通知書が送付された場合、債権者は正当な理由なく、債務者に弁済を請求することはできません(貸金業法21条1項9号)。
これに違反した場合には、刑事罰や行政処分の対象となります。
受任通知書の送付により、これまで続いていた債権者からの督促が止むため、この間に裁判所へ予納しなければならない管財人の費用などを積み立てていくことが可能になります。
これまで利息の返済などに充てていた資金が自由に利用できるようになるためです。
2 申立書類の作成
⑴ 申立権者
破産の手続は、裁判所への申立てによって始まります。
申立人となることができるのは、債権者及び債務者、法人の場合には理事、取締役、清算人などです。
債務者自身が自ら破産を申し立てる場合を自己破産、会社の取締役等が申し立てる場合を準自己破産と言います。本稿では、この自己破産にフォーカスして解説しています。
⑵ 申立書
破産開始手続の申立ては書面により行われます。
申立書には、一般的に、申立ての趣旨や破産手続開始原因事実などのほか、債務者の収入・支出状況、破産開始原因事実が生ずるに至った事情等を記載する必要があります。
債務者など債権者以外の者が申立てをする場合には、原則として、申立てと同時に、債権者一覧表を提出しなければなりません。
申立書のほか添付書類として、直近の確定申告書や源泉徴収票の写しなどの提出が必要となります。
3 破産手続開始の決定
⑴ 公告及び通知
破産手続開始原因が存在し、かつ申立て棄却事由がない場合には、書面により破産手続開始決定がなされます。
破産開始手続開始決定と同時に以下の事項が定められます。
1.破産管財人の選任
2.財産状況報告集会・計算報告集会・破産手続廃止に関する意見聴取のための集会各期日
3.免責についての意見申述期間
破産手続開始決定がなされると、上記事項のほか、破産者に対して債務を負担している者及び破産者の財産を所持している者は、破産者に弁済し、又はその財産を交付してはならないことなどが公告及び通知されます。
なお、同時廃止手続の場合にも、破産債権者に対して破産手続開始の申立てがされたことや破産債権者からの意見をもらう意見申述期間が通知され、官報に掲載されます。
⑵ 同時廃止決定
破産財団(破産者の資産)をもって破産手続きの費用を支弁することが出来ないと認めるとき(つまり手続費用の支払もできないほど困窮しているとき)は、裁判所が職権により、破産手続き開始決定と同時に破産手続きが廃止されます(破産手続き完了に至らないまま終了するということです)。これを同時廃止決定といいます。
⑶ 免責許可の申立てがあった場合
免責許可の申立てがあった後、裁判所は同申立てを認めるか調査を行います(免責手続)。調査において申立人に審尋を行い、説明を求めたり、必要な資料の提供を求めたりします。審尋において申立人が虚偽の説明や説明を拒んだりすると、免責不許可に繋がる可能性が高くなるため注意しなければなりません。
なお、裁判所は、免責許可の申立てを認めるかについて、「免責不許可事由調査命令」により弁護士ら破産管財人に調査させることがあります。この場合、破産管財人は、期限(おおよそ3ヶ月)までに「免責についての調査報告書」などを提出する必要があります。
4 破産債権の届出・調査・確定
⑴ 破産債権の届出・調査
破産手続開始決定がなされると、次に破産者の負債を調査・確定することになります。
破産手続開始決定により、債権届出期間などが公告、通知されるので、破産債権者は同期間内に書面により債権の届出を行うことになります。
債権届出期間は、一般的に、破産手続開始決定の日から2週間以上4月以下の間で定められます。
破産債権者より債権届出があると、その後、債権届出のあった破産債権の存否等について調査が行われます。
具体的には、まず破産管財人が届出のあった破産債権について認否などを行います。破産管財人が作成した認否書に対しては、破産債権者らも書面で異議を述べることができます。また、必要があると認めるときは、裁判所自ら債権調査期日において債権調査を行うこともできます。
⑵ 破産債権の確定
債権調査期間内又は期日において、破産管財人が破産債権を認め、かつ他の破産債権者から異議が出なかった場合には破産債権が確定することになります。破産債権者らから異議が出た場合には、裁判上の手続によって破産債権が確定することになります。
5 破産債権者への配当
⑴ 破産財団
破産財団とは、破産債権者に対する配当の基礎となる債務者(申立人)の資産のことをいいます。
破産手続の目的は、この破産財団を換価して得られた金銭を、確定した破産債権に配当することにあります。そのため、同時廃止手続は、破産手続きの目的に沿わない例外的な手続きと考えることもできます。
⑵ 中間・最後配当
破産債権が確定すると、破産財団が換価され、破産債権者に配当されることになります。
破産手続における配当は、1回に限らず、債権調査期間経過後または同期日終了後に、裁判所の許可を得て行われる中間配当や破産財団に換価すべき財産がなくなった場合に行われる最後配当があります。
6 免責許可決定
⑴ 免責許可決定とは
免責許可決定とは、破産者の破産に至った経緯、現在の生活状況その他諸般の事情を考慮して、破産者に更生の機会を与えるため、一部の非免責債権を除き、全ての破産債権に対する支払いを免除する裁判所の決定のことをいいます。
破産手続開始の申立てをしたり、「同時廃止」による破産手続開始決定を受けただけでは、支払いは免責されません。
支払責任を免れるためには、裁判所から免責許可決定を受け、その決定に誰からも不服が出ないよう確定することが必要となります。
なお、免責は、免責不許可事由がない限り、許可されます(破産法252条1項)が、免責許可決定は、破産者に書面で通知され、官報に掲載されることになります。
⑵ 免責許可決定の効果
免責許可決定が官報に掲載された後2週間以内に不服がない場合には、免責許可決定が確定し、免責の効力が発生します。免責許可決定の確定は、一般的に、免責許可決定から約1か月後とされています。
免責許可決定を受けると、破産者(申立人)は全ての破産債権(申立人からすると債務)に対する支払いの責任を免れることができます。
なお、免責許可決定が確定した時は、個別に債権者に通知されないため、差し押さえなどがなされている場合は、破産者から執行裁判所に届け出る必要があります。
⑶ 非免責債権
破産債権のうち、不法行為に基づく損害賠償請求権や租税債権など一部の債権は非免責債権とされ免責されません。これら非免責債権は、免責許可決定後も必ず支払いが必要になります。
7 破産手続の終結
⑴ 債権者集会の申立て
配当できる資産がある場合、最後配当が終了すると、破産管財人は遅滞なく計算報告書を裁判所に提出し、債権者集会の申立てを行うことになります。
債権者集会により計算報告書が承認されると、破産管財人の任務は終了します。
一般的に、破産債権者は上記債権者集会に出席しないので、裁判所が破産管財人より計算報告書が提出されたことを公告し、所定の期間内に破産債権者らから異議が出なかった場合に計算報告が承認されたものとみなされます。
⑵ 破産手続終結の決定
上記計算報告のための債権者集会の終結または異議申述期間の経過により、裁判所は破産手続終結の決定を行います。これにより破産手続は終結となります。通常、先に説明した免責許可決定と同じ日に、この破産手続終結の決定が行われます。
破産・免責手続のデメリットと注意点
1 破産・免責手続のデメリット
破産(免責)手続のメリットが借金・負債の帳消しであることは明らかなので、ここではデメリットについてご紹介します。
⑴ 信用情報機関に事故情報として登録
信用情報機関に事故情報(いわゆるブラックリスト)として登録されるため、一般的に7~10年間もの長期間にわたり、クレジットカードが作れない、住宅、自動車のローンが組めない状態になります。
⑵ 換価できる財産の処分
換価できる財産は債権者らへ配当されるため、ほとんどの財産が処分されます。
たとえば、不動産、自動車などの高額な財産、99万円以上の現金、20万円以上の保険の解約返戻金、160万円以上の退職金などは換価処分されます。
上記金額を超えない生活に最低限必要な資産(一定額の現金・預貯金、現在居住している賃貸物件の敷金など)は、申立人の自由財産として手元に残すことができます。
⑶ 特定の職業への就職の制限
破産手続の申立てを行うと、破産手続が終了するまで特定の職業に就くことが出来なくなります。
たとえば、警備員、保険の外交員、古物商、宅地建物取引士、その他士業に就くことができなくなります。
⑷ 転居の制限
破産手続中に転居するためには裁判所の許可を得なければなりません。
破産管財人の調査が困難となる遠隔地に転居して、申立人が財産を隠匿、処分することを防ぐ趣旨です。
⑸ 郵便物の転送
破産手続中は、申立人の郵便物はすべて破産管財人へ転送されてしまいます。転送された郵送物は破産管財人に開封されてしまうため、申立人のプライバシーが制限されますが、配当可能な財産の隠匿等を防ぐ趣旨です。
⑹ 官報への掲載
破産申し立てを行うと、政府発刊の官報に氏名等が掲載されるため、申立人のプライバシーが制限されることになります。
2 注意点
⑴ 保証人への請求
自己破産の申立てにより申立人が免責されたとしても、(連帯)保証人がいる場合には、これらの保証人に本人の債務について支払請求がされます。
これらの保証人も免責されるためには、保証人自身が申立人とならなければなりません。
⑵ 偏頗(へんぱ)弁済の禁止
近親者や友人など親しい人に優先的に債務の弁済を行うなど、特定の債権者に対して弁済を行うことはできません。
債権者には平等に配当される権利があるので、仮に特定の債権者に対して弁済を行った場合(偏頗弁済)には、その債権者から破産管財人へ弁済したものを返してもらうことになります。
⑶ 所有財産の処分の禁止
財産の申立人が所有している財産は、債権者らへ配当するための原資となるものです。
申立人が自由に所有財産を処分できてしまうと、配当原資が減少し、債権者の利益を損なうことになります。仮に申立人が所有財産を処分してしまった場合には、破産管財人に対して処分した金額を支払わなければならなくなります。
なお、適正な金額で売却したとしても、破産管財人に詐害行為(債権者への配当を阻害する行為)とみなされる可能性があるので注意が必要です。
⑷ 裁判所への説明義務
裁判所及び破産管財人に対して虚偽の説明や財産の隠匿(隠すこと)を行うことは免責不許可事由に該当するため、これらの行為を行うと自己破産を申立てても免責不許可となる可能性が高くなります。
仮に、財産を隠匿したのちに隠匿した財産が分かると、これらの財産は全て破産管財人に回収されることになります。
なお、申立時に手元に残したい財産である旨の説明を行えば、自由財産として手元に残せる可能性があります。
⑸ 免責不許可となる可能性
自己破産の申立てを行ったとしても、必ず免責許可決定があるわけではありません。先に説明した偏頗弁済や、虚偽の説明、財産の隠匿、浪費などがあった場合には、免責不許可となる場合があります。
また、過去7年以内に免責許可決定があった場合にも免責不許可事由とされるため、短期間でくり返し破産の申立ては出来ないことになります。
破産・免責手続にかかる費用
1 管財人と申立代理人の費用
破産手続きにかかる費用には、大きなものとして、破産管財人の費用と申立人代理人の費用があります。福岡地裁の場合は、破産管財人への予納費用として20万円が必要となります。
申立人代理人の費用、要するに弁護士の報酬は、法律事務所によって異なりますが、おおむね33万円(税込)前後となります(事業者や法人を除きます)。
当法律事務所では、申立代理人の報酬として33万円(税込)で破産手続きのご依頼を承っていますが、支払方法などについては、ご相談頂ければ個別に対応しています。
なお、負債総額が大きい場合や財産関係が複雑な場合は予納金がさらに高額となる場合があるので注意が必要です。弁護士などに相談する際に、見積額を確認してみるとよいでしょう。
2 予納費用を納付しないと
管財人への予納費用を裁判所に納付しないと、破産手続きの申立ては却下されてしまうので注意が必要です。
予納費用の捻出は申立人にとって1つのハードルとなりますが、上述したように、受任通知書を破産債権者に送ることにより、破産債権者からの督促が止むので、受任通知後、申立て迄の間に蓄財していくことが可能となります。
予納費用の具体的な準備方法については、申立代理人となる弁護士などに相談しながら決めていくとよいでしょう。
まとめ
弁護士法人いかり法律事務所では、破産手続の申し立てをはじめ、個人再生手続や任意整理など債務整理手続について多くの相談及び解決実績があります。
借金やローンなど負債がかさみ、債権者への弁済が難しくなっている、債務整理を検討しているけれどもどのような申し立てがあるのか分からない、債務の弁済が困難だけれど事業を継続したい、弁護士に債務整理を依頼したいけれど弁護士費用を支払えないなど、様々なお悩みを抱えている方がいらっしゃると思います。
当法律事務所は、初回無料法律相談を実施していますので、まずは無料法律相談をご利用のうえ、ご自身にとって最も適切な債務整理の手続きをご検討下さい。
ご依頼頂く場合の弁護士費用についてもご相談を承りますので、まずはお電話やメール、LINE等で当法律事務所までお問い合わせ下さい。