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 本判例は、労働者が深夜酩酊して他人の家に侵入し、住居侵入罪として罰金刑に処せられ、従業員賞罰規則の「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」の条項に該当するとして懲戒解雇に処せられたが、この懲戒解雇処分は、行為の態様、刑の程度、職務上の地位などの諸事情より無効と判断されたものです。

事案の概要

(1) Y社の従業員であるXは、飲酒後、他人の居宅に忍び込み、住居侵入罪で2500円の罰金刑を受けた。

(2) Y社は、Xの犯行が従業員賞罰規則の懲戒解雇事由に該当するとして、Xを懲戒解雇した。

(3)Xは、雇用関係存続確認の訴えを提起した。

第一審・控訴審ともにXの請求を認容した。

判旨・判決の要約 上告棄却

 問題となるXの右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2,500円の(軽微な)程度に止まったこと、Y社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、Xの右行為が、Y社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというほかはない。

解説・ポイント

 企業「外」の行動は本来、労働者の私生活上の行為であり、使用者が懲戒をもって臨むことはできないはずのものです。

 しかし、労働者は信義則上、使用者の業務利益や信用・名誉を棄損しない義務(誠実義務)を負うので、原則として企業外の行動を規制できないものの、それが「企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有する」場合は懲戒事由となります(最一小判昭和58年9月8日労判415号29頁等)。

 労働者の私生活の非行が会社の名誉や信用を損なうような悪質なものである場合には、企業秩序違反や就業規則違反を理由に懲戒処分の対象とされることがあります。ただし、労働者の私生活については、プライバシー保護の要請が強く働くので、私生活の非行が懲戒事由に該当するかどうかは厳格に判断する必要があります。

 本件のように、私生活上の軽微な非行に対して、懲戒処分が相当性を欠く場合には懲戒権の濫用として無効とされることがあるので注意が必要です。