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この判決は、所持品検査が適法であるといえるためには、検査を必要とする合理的理由に基づいていること、一般的に妥当な方法と程度で行われること、制度として画一的に実施されるものであることをあげた上で、これらの要件を満たす検査が就業規則その他明示の根拠に基づいて行われるものであれば労働者に受忍義務があると判断しました。
事案の概要
(1) Xは陸上運輸業を営むY社の電車運転士で、労働組合のA支部に所属する組合員だった。
Y社では、就業規則により、乗車賃の不正隠匿を摘発・防止する目的から乗務員の鞄等の携帯品や着衣・帽子及び靴の内部にわたる検査が行われており、相当の成果を収めていた。摘発された際に、隠匿箇所も着衣・鞄・靴の中が目立って多かった。
(2) Xは、乗車勤務終了直後、所持品検査を受けるよう指示を受けて補導室に赴いたが「靴は所持品ではない、本人の承諾なしに靴の検査はできないはずだ」といって、検査員の指示に従わず、脱靴に応じなかった。そのため、Y社は就業規則違反を理由にXを懲戒解雇処分に付した。
(3) Xは、懲戒解雇処分の無効を主張し、労働契約上の地位の確認を求めて訴えを提起した。
第一審・控訴審ともに訴えが棄却された
判旨・判決の要約 上告棄却
(1) 所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上常に人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ従業員組合又は当該従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもって、当然に適法視されうるものではない。
(2) (そのため、所持品検査を行うのであれば)所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。
所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行われるときは、従業員は、特段の事情がない限り、検査を受忍すべき義務があり、かく解しても所論憲法の条項に反するものでない。
(3) 就業規則所定の所持品検査には、このような脱靴を伴う靴の中の検査も含まれるものと解して妨げなく、Xが検査を受けた本件の具体的な場合において、その方法や程度が妥当を欠いたとすべき事情は認められない。
解説・ポイント
本判例では、手荷物検査などの所持品検査を適法に実施するためには、
①所持品検査を必要とする合理的理由があること、
②一般的に妥当な方法と程度で実施されること、
③制度として職場従業員に対して画一的に実施されること、
④就業規則その他明示の根拠に基づくものであること、
の4つの要件が必要であり、就業規則等に所持品検査に関する規定がなければ、同意しない者に対してこれを実施することができないと判断しています。
したがって、仮に情報漏洩防止などの観点から、使用者が会社への出入りの際に、従業員の所持品検査を行うための就業規則上の規定を設けるのであれば、所持品検査に関する一般的な規定とあわせて、必要最小限度の私物以外の物品を会社に持ち込んではならないことや会社の物品を社外に持ち出すためには許可が必要であることなども規定しておくことが、従業員の理解も得やすく、また後々の紛争回避のために適切妥当な対応ではないかと考えられます。
使用者の適法な所持品検査命令に労働者が従わなかった場合、本件のように、業務命令違反にあたるとして懲戒処分を行うこともできますが、違反行為に対して処分の内容が重すぎる場合には、懲戒権の濫用と評価される場合もありますので注意が必要です。