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この判決は,使用者がハラスメント行為の発生を予見できたにもかかわらず,それを漫然と放置したり,事後の適切な調査等の事後措置を怠った場合には,使用者固有の不法行為責任,債務不履行責任に基づき損害賠償義務を負うと判断しました。
事案の概要
(1)男性編集長の下で雑誌編集業務に従事していた女性社員は,雑誌編集の経験と能力を有していたことから,次第に業務の中心的役割を担うようになった。
(2)疎外感をもつようになった男性編集長は,当該女性社員の評価を低下させるような異性関係に関する発言をするようになった。
(3)男性編集長が女性に転職を勧めたことをきっかけに両者の関係は悪化した。
(4)男性編集長の上司らが当該女性社員と面談し,話し合いがつかなければ退職してもらうことになる旨を述べたところ,この女性社員は退職する意思を表明した。
(5)当該女性社員は男性編集長及び会社に対して不法行為に基づく損害賠償請求をした。
判旨・判決の要約 一部認容
(1)男性編集長の不法行為責任
男性編集長は,一連の行為により,女性が退職せざるを得ない結果を招くことは,十分に予見し得た。そのため,女性にとって,働きやすい職場環境のなかで働く利益を害するものである。したがって,男性編集長は不法行為責任を負う。
(2)会社の使用者責任
男性編集長の女性に対する一連の行為は,会社の「事業の執行に付き」行われたものと認められ,使用者としての責任を負う。男性編集長の上司らの行為についても,職場環境を調整するよう配慮する義務を怠ったものといえ不法行為性が認められ,会社は使用者責任を負う。
解説・ポイント
本件のように,事後対応が不適切であったために被害者が退職を余儀なくされたようなケースでは,使用者が多額の損害賠償責任を負う可能性があります。また,被害者がセクハラに起因して精神疾患に罹患した場合も,逸失利益の賠償が認められる結果,賠償額が高額になる可能性があります。
セクハラの申告があった場合,これを放置することは論外であり,加害者と被害者を切り離した上で迅速な事実調査を行い,適切な処分を行うことが求められます。この裁判例以前にも,ホテルの会計課女性職員に対する上司課長の性的行為の強要を刑法の強制わいせつ罪に該当する犯罪行為であり,セクハラの典型例であるとして不法行為責任が肯定されています。