会社分割のメリット

 会社分割は、平成12年商法改正で創設された組織再編の手段です。
 会社分割は、事業譲渡と異なり、債権者の承諾を必要とせずに分割会社の債務を承継会社や設立会社に承継させることが出来る点にメリットがあります。 
 事業の買収や業務提携などの手段として活用されることが期待されています。 

 なお、事業譲渡において、事業の譲受会社が譲渡会社の債務を免責的に引き受ける場合は債権者の承諾が必要となり(民法427条3項)、権利の譲渡については、対抗要件(民法177条、178条、467条等)を具備しなければ当該権利を第三者に対抗することができなくなる場合もあります。

会社分割の意義・種類

1 会社分割とは

 会社分割とは、ある会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継させることをいいます。
 以下、承継させる側の会社を「分割会社」、分割会社の権利義務の全部又は一部を承継する側の既存の会社を「承継会社」、承継するために新設する会社を「設立会社」といいます(会社法2条29号、30号参照)。

2 吸収分割と新設分割

 会社分割のうち、承継会社が分割会社の権利義務を承継することを「吸収分割」といいます(会社法2条29号)。
 また、会社分割のうち、分割会社がその権利義務の全部または一部を設立会社に承継させることを「新設分割」といいます(会社法2条30号)。

会社分割の効果

1 分割会社に権利義務を承継する

 吸収分割の場合は、吸収分割契約で定めた効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、分割会社の権利義務を承継することになります(会社法758条7号、759条1項)。
 新設分割の場合は、設立会社の設立登記(会社法924条)による成立の日に、新設分割計画の定めに従い、分割会社の権利義務を承継することになります(会社法764条1項)。

 分割会社のメリットとして挙げたように、分割会社の債務を免責的に承継会社や設立会社に承継させる場合や、分割会社の契約上の地位を承継させる場合にも、債権者や契約の相手方の承諾は必要としません

 もっとも、一定の場合、分割会社又は承継会社の債権者は、会社分割に対して異議を述べることができます。
 経営状況の良くない分割会社が不採算事業に関する権利義務だけを分割して承継会社又は設立会社に承継させるなど、会社分割を濫用して債権者が不利益を被ることがないようにする必要があるからです。

2 分割会社に対価を交付する

 承継会社や設立会社は、分割会社に対して対価(分割対価)を交付することになります。
 吸収分割の対価の種類は吸収分割契約により定められ(会社法758条4号、759条8号)、新設分割の対価は設立会社の発行する株式や社債などに限られます(会社法763条1項6~9号、764条8項、同条9項)。

会社分割の手続

1 吸収分割契約の締結・新設分割計画の作成

 吸収分割を行うためには、分割会社は承継会社と吸収分割契約を締結し(会社法758条)、新設分割を行うためには、分割会社は新設分割計画(会社法763条1項)を作成する必要があります。
 
 これら吸収分割契約又は新設分割計画で定める事項は、会社法(758条、763条1項各号)に定められ、その概要は次の通りとなっています。

① 吸収分割契約の当時会社の商号・住所(新設分割計画の場合は不要です)
② 会社分割の対価の種類・内容
③ 資本金・準備金に関する事項
④ 効力発生日(新設分割計画の場合は不要です)
⑤ 設立会社の定款で定める事項・設立時取締役の氏名・設立時取締役以外の設立時役員・会計監査人の氏名・名称(吸収分割契約の場合は不要です)
⑥ 新株予約権の取り扱いに関する事項
⑦ 分割会社から承継する権利義務に関する事項
⑧ 分割対価を分割会社の株主に対して交付する旨の定め

2 事前開示

 吸収分割及び新設分割いずれの場合も、吸収分割契約など備置開始日から効力発生日後6か月を経過する日までの間、一定の事項を記載(又は記録)した書面(又は電磁的記録)を本店に備え置き、各当事会社の株主及び債権者、新株予約権者のために閲覧できる状態にしておかなければなりません(会社法782条、789条)。

 株主や債権者らに会社分割に関する情報を提供し、会社分割を承認するかどうか、株式買取請求権や差止請求権などを行使するかどうかなど、これらの判断、権利行使の機会を与える必要があるからです。

株主総会の承認

1 原則

 吸収分割及び新設分割を行うためには、原則として、各当事会社の株主総会の特別決議による承認を必要とします(会社法783条1項、795条1項、804条1項、309条2項12号)。また、種類発行株式会社においては種類株主総会の承認を受ける必要があります。

2 株主総会の承認が不要な場合

⑴ 簡易組織再編

 当事会社の規模が小さく株主に与える影響が小さい場合には株主総会は不要とされます。これを簡易組織再編といいます。 

 たとえば、会社分割の場合ですと、吸収分割における存続会社等が交付する対価の額が、当該存続会社等の純資産額の20%以下の場合(定款で引き下げが可能です)、当該存続会社等の株主総会の承認は不要とされています(会社法796条2項、会則196条)。
 ただし、「差損」が生じる場合など一定の場合には株主総会決議を省略することはできません(会社法796条2項ただし書、795条2項、796条3項)。
 
 他にも、分割会社が承継会社又は設立会社に承継させる資産の額が、当該分割会社の純資産額の20%以下である場合(定款で引き下げが可能です)には、当該分割会社において株主総会の承認は不要とされています。

⑵ 略式組織再編

 分割会社が承継会社の議決権の90%以上を有している場合のように、一方の当事会社が他方の当事会社の議決権の90%以上を有する場合(定款で引き上げが可能です)には、当該他方の当事会社(議決権を保有されている会社)では株主総会の承認は不要とされています。
 株主総会を開催する意味がないからです(承認されることが明らかであると考えられるからです)。

反対株主の株式買取請求権

1 会社から退出する機会を確保

 会社分割に反対する株主は、株式会社に対して、自己の保有株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。これを反対株主の株式買取請求権といいます(会社法797条、806条)。
 
 反対株主に、保有株式を公正な価格で売却し会社から退出する機会を確保する趣旨です。ただし、株主に与える影響の少ない簡易組織再編の場合には、この請求権は認められません。

2 公正な価格

 株主買取請求権を行使した場合の「公正な価格」とは、会社分割によって企業価値が増加した場合には、当該増加分が各当事会社の株主に公正に分配されたとすれば、基準日において株式が有する価値(公正分配価格といいます)のことをいいます。
 
 一方、会社分割によって企業価値が増加しない場合には、「公正な価格」とは、基準日における「ナカリセバ価格」をいうとされています。基準日における「ナカリセバ価格」とは、会社分割を承認する株主総会がなかったならば当該会社が有していたであろう株式の価格のことをいいます。

会社分割の差止め

 会社分割が法令又は定款に違反する場合に、株主が不利益を受ける恐れがあるときは、株主は会社に対して、当該会社分割をやめることを請求することができます(会社法796条の2第1号、805条の2)。
 
 なお、略式組織再編の場合は、対価の著しい不当性も差止事由とされています。略式組織再編においては、反対株主の買取請求権が認められず、株主の利益を不当に害することになるからです。

会社分割と債権者保護

1 債権者の利益を損なうおそれ

 会社分割を利用して経営不振の会社が不採算事業に関する権利義務だけ分割して承継会社又は設立会社に移転する、または優良事業に関する権利義務だけ移転すると、債務の履行が確保されず、債権者の利益が害されるおそれがあります。
 そこで会社法は債権者の利益を保護するために、会社法は一定の債権者のために債権者異議手続を定め、一定の場合に当事会社に連帯責任を認めています。

2 異議を述べることのできる債権者たち

 会社分割後、分割会社の債権者は分割会社に対して債務の履行を請求することが出来なくなる場合、債権者の利益を保護する必要があります。
 分割会社の債務が免責的に承継されることにより、分割会社に対して債務の履行を請求することが出来なくなる債権者は、会社分割に対して異議を述べることができます(会社法789条1項2号、810条1項2号)。
 
 他方、会社分割後も分割会社に対して債務の履行を請求できる債権者(残存債権者といいます)は、その利益を害されないため、会社分割に対して異議を述べることはできません。
 
 なお、分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合(詐害的会社分割といいます)には、残存債権者は、設立会社又は承継会社に対して、承継した財産の価格を限度としてその債務の履行を請求することが認められています(会社法761条4項・764条4項)。

 この他、分割会社が分割対価である承継会社・設立会社の株式を株主に分配する場合における分割会社の債権者や、承継会社の債権者も会社分割に対して異議を述べることが出来ます(会社法789条1項2号第2かっこ書・810条1項2号第2かっこ書、799条1項2号)。
 会社分割により承継した財産の多寡により債権者の利益に大きな影響を与えることになるからです。

3 債権者異議手続を行う

 債権者に異議を述べる機会を与えるため、当事会社は会社分割に関する一定の事項及び債権者は一定期間内(1か月以上)に異議を述べることが出来ることを官報に公告することになります。

 また、知れている債権者には格別の催告をしなければなりません(会社法799条2項・810条2項・会則199条・208条)。ただし、公告を官報のほか定款所定の日刊新聞氏または電子公告により行った場合には格別の催告は不要とされます(会社法799条3項・810条3項)。
 
 所定の期間内に異議を述べなかった債権者は会社分割を承認したものとみなされます(会社法799条4項・810条4項)。
 一方、異議を述べた債権者に対しては、当事会社は弁済や相当の担保の提供などをしなければなりません(会社法799条5項・810条5項)。

会社分割の効力発生

 吸収分割の場合は、吸収分割契約で規定した効力発生日(会社法790条)に、新設分割の場合は、設立会社の成立の日(設立登記の日)に効力が発生することになります。
 なお、吸収分割の場合、効力発生後一定期間内に吸収分割の登記をすることが必要となりますが、これは効力発生要件ではありません(会社法923条)。

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 会社分割をはじめ組織再編の手続きは非常に複雑で、多くの場面で高度の法的判断が必要となります。そのため、組織再編には弁護士など専門家のアドバイスを受けながら進めることが不可欠だといえるでしょう。

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