はじめに
死亡事故については、遺族の方から依頼を受けることになります。
遺族の方は、大切なご家族が亡くなったことで精神的に辛いにもかかわらず、加害者の保険会社との過失割合や損害額の交渉対応をしなければならないとなると心身ともに疲弊していきます。場合によっては、世帯の生計を維持する一家の支柱となる被害者が亡くなり経済的に困窮することもあります。
そのうえ、相手保険会社の提示金額が一見多額に見えてもそうではないことも多くあります。そのため、死亡事故については、全件弁護士が積極的に依頼を受けて遺族に法的助言を提供し、サポートする必要があると考えています。
交通事故で死亡した場合の遺族の損害賠償請求
1 積極損害
積極損害とは、被害者が交通事故によって生じた直接的な損害、一般的には、加療のために支出する費用のことをいいます。
たとえば、交通事故と因果関係のある治療関係費や付添看護費、入通院交通費、入院雑費、葬儀関係費用、弁護士費用などが挙げられます。
葬儀関係費用については、判例上、葬儀費用のほか、墓碑建設費、仏壇購入費用なども対象となります。
葬儀費用の基準は、通常130万円~170万円とされており、現実の支出した費用が基準額に満たない場合には、現実の支出額(実費)が損害額となります。葬儀関係費用が認められるためには、入院雑費のように入院の事実から認定されるということはなく、葬儀関係の領収書類をすべて提出して初めて認定されることになります。
なお、法要、仏壇・位牌購入費などは一定額が損害額として対象となりますが、香典返しや弔問客への接待費などは損害として認められない傾向にあります。
2 消極損害
消極損害とは、被害者が交通事故によって生じた間接的な損害、すなわち、加療が必要になったため、会社を休み休んだ分の賃金が得られなかったり、後遺症が残ったため事故後これまで通り働けなくなったことによる損害のことをいいます。
たとえば、休業損害や逸失利益などが挙げられます。
(1)休業損害
休業損害額は、原則として、事故当時の被害者の現実の収入、給与額などを基準として算定され、実際に休業して収入減となっていることが必要です。
事故に遭わなくても得られた収入は、ここで言う休業損害にはあたりません。死亡事故においても、即死した場合等を除き、通常、入通院などによる加療期間があるため、休業損害は発生することになります。
そのため、被害者の相続人となる遺族は、被害者の被った休業損害を加害者(加害者が保険に加入している場合は保険会社)に対して賠償請求することになります。
(2) 休業損害の算定方法
一般的な休業損害額の計算式として、基礎収入日額に休業日数を積算して算定する方法があります。基礎収入額の認定方法については、給与所得者や事業所得者、家事従事者、学生・生徒、無職者、会社役員など休業した被害者の属性によって扱いが異なります。
たとえば、家事従事者が休業損害を請求する場合、基礎収入の算定基礎として事故時(後遺障害がある場合は症状固定時、死亡事案の場合は死亡時)の賃金センサス(厚労省「令和5年賃金構造基本統計調査」)を用いることがあります。
(3) 休業損害を算定する期間
休業損害を算定する期間は、症状固定・治癒までの期間が原則となります。
たとえば、給与所得者が受傷や治療のため解雇又は退職となった場合には、無職となった以降も現実的に稼働困難な期間が休業期間とされます。
3 逸失利益
逸失利益とは、被害者が将来にわたって得られるであろう利益のことをいいます。そのため、死亡による逸失利益とは、被害者が生存していれば、得られたであろう経済的利益のことをいいます。
交通事故による死亡事案について、被害者の相続人となる遺族は、通常、加害者に対して被害者の逸失利益を賠償請求することが可能となります。
(1)逸失利益の算定方法
死亡による逸失利益は、被害者の基礎収入額(基礎年収)×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数によって算定されます。
基礎収入額は、原則として事故前の実際の収入額となり、実際の収入額以上の収入を得られると認められる場合には、その金額を算定基礎とします。
家事従事者や無職者など実際の収入がない場合には、賃金センサスの平均賃金額を基礎として算定できる場合があります。
なお、就労可能年数は、原則として、満67歳となるまでの期間とされますが、高齢者の場合は平均余命年数の2分の1の年数とされています。
死亡慰謝料
慰謝料とは、精神的損害に対する金銭賠償のことをいいます。死亡による慰謝料は、被害者の年齢や家族構成などその属性により、以下の金額の範囲で決定されます。
たとえば、被害者が、その収入によって世帯の生計を維持している場合(一家の支柱)には、2700万円~3100万円、一家の生計を経済的に支える立場にはなくとも、一家の支柱と並ぶ重要な地位を占めるなど、一家の支柱に準じる場合には、2400万円~2700万円、独身や被扶養者の立場にあるような場合は2000万円~2500万円の範囲で決定される傾向があります。
1 被害者自身の慰謝料
慰謝料請求権の主体は、被害者本人です。
被害者が交通事故により死亡した場合、たとえ即死であった場合も被害者本人が精神的損害を被ったことにより生じる損害と考えて慰謝料請求権が発生します(民法709条、710条)。
2 遺族の慰謝料
近親者は、被害者が交通事故により死亡したことについて、固有の慰謝料請求権が認められています(民法711条)。これは、生命を侵害する不法行為は、被害者だけでなく、その近親者に対しても、大切な家族を失ったという多大な精神的苦痛を被らせることから、近親者自身にも固有の慰謝料請求を認めたものです。
「近親者」とは、直接には、民法711条に列挙されている被害者の「父母、配偶者及び子」を指していますが、これらに該当しない者であっても、被害者との間にこれらの者と実質的に同視すべき身分関係を有し、被害者の死亡により、甚大な精神的苦痛を受けた者は、民法711条の類推適用により、加害者に対して慰謝料請求を行うことができます。
3 増額請求できる場合
通常の場合に比べて精神的苦痛をより感じられる事情が認められる場合には、慰謝料を増額して請求することができる場合があります。
たとえば、飲酒運転や赤信号無視、著しいスピード違反、センターオーバーなど事故態様が極めて悪質な場合や、ひき逃げ、救護義務違反など事故後の対応が不誠実な場合などが増額事由とされています。
具体的にどういった場合に増額請求ができるか、その有無や程度は事案により異なりますので、増額請求の可否などについて気になる場合には、交通事故に強い弁護士などの専門家に相談してみることが大切です。
損害賠償請求権の時効
1 5年に伸長
2020年4月1日改正後の民法では、人の生命又は身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、損害及び加害者を知った時(権利を行使することができることを知った時)から5年(改正前は3年)、不法行為の時(権利を行使することができる時)から20年(改正前と同じ)に伸長されました。
2 いつから適用?
生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間については、施行日の時点で改正前の民法による不法行為の消滅時効が完成していない場合には改正後の新しい民法が適用されることになります。
弁護士に依頼するメリット
1 交通事故被害における情報格差をなくす
交通事故の被害にあった場合に弁護士に依頼するメリットは、端的にいえば、損害賠償の額が大幅にあがるという点にあります。
これは死亡事案だけでなく、後遺障害事案や後遺障害には至らない傷害事案でも同じです。弁護士が入ることによって、通常、相当軽微な事故を除けば、1.5倍から2倍程度に上がることもあります。
交通事故の被害にあった場合、加害者の保険会社が提示してくる示談金額は、通常、自賠責基準か任意保険会社基準によるものです。
一方、弁護士は裁判所基準によって損害賠償額を算定しますので、ほとんどのケースで損害賠償額が大幅に上がることになります。
なお、実務上、弁護士に依頼せず、弁護士以外の方が自ら裁判所基準を利用して損害賠償額を算定したうえ加害者の保険会社と交渉しても、示談に至ることは難しいようです。
2 裁判になっても安心
加害者又は加害者の入っている保険会社と示談金などで訴外で折り合いがつかない場合には、通常、裁判に移行することになります。
提訴する場合には、裁判所に書面や証拠を提出することが必要になります。
書面の作成は専門的で難しく、書面の作成に必要な調書やカルテなどの証拠の収集も必要となります。そのうえ、裁判になると、終結までに何年もかかることもあります。
その点、弁護士は裁判のプロですから、書面の作成から期日の出廷まですべて代わりに行うことができますので、被害者の遺族本人が訴訟を追行するよりも、物心両面で負担が非常に小さくなります。
3 福岡の交通事故に強い法律事務所
死亡事故案件では、交通事故状況の確認が難しいことが多いのですが、いかり法律事務所では、事故状況を独自に調査するとともに、外部の調査会社とも連携して、徹底した調査を行います。
福岡の弁護士法人いかり法律事務所は、交通事故案件について裁判により解決した実績が豊富にありますので、訴外で示談に至らず、裁判になった場合にも安心して解決までお任せいただけます。
死亡事故案件について、加害者への損害賠償請求を検討されている方は、福岡の弁護士法人いかり法律事務所へご相談ください。