パワハラ対策指針・ガイドラインのポイント

パワハラ対策指針・ガイドラインが厚生労働省より公表されています。
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
しかし、一般的には内容を読み込むのはとても大変です。そこで、ポイントだけを整理した記事を作成していますので、こちらをご覧ください。
→ パワハラ対策指針・ガイドラインのポイント

パワーハラスメント・パワハラとは?

この記事では、パワハラ対策対策の前提として理解をしておくべき、パワーハラスメントとは何かについて、厚生労働省のパワハラ対策指針・ガイドラインをベースに詳細に解説します。

パワーハラスメント・パワハラの定義

職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう とされています。

「職場」とは?

 「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる。

「労働者」とは?

 「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てをいう。
 また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者についても、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律( 昭和60 年法律第88号) 第47条の4の規定により、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、法第30条の2第1項及び第30条の3第2項の規定が適用されることから、労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者についてもその雇用する労働者と同様に、3(1)の配慮及び4の措置を講ずることが必要である。
 なお、法第30条の2第2項、第30条の5第2項及び第30条の6第2項の労働者に対する不利益な取扱いの禁止については、派遣労働者も対象に含まれるものであり、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該者に派遣労働者が職場におけるパワーハラスメントの相談を行ったこと等を理由として、当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等、当該派遣労働者に対する不利益な取扱いを行ってはならない。

「優越的な関係を背景とした」言動とは?

「優越的な関係を背景とした」言動とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。
<具体例>
⑴職務上の地位が上位の者による言動
⑵同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
⑶同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
→このように上司部下の関係においてのみ当てはまるものではなく、同僚や部下からのパワハラということもあり得ますので、注意が必要です。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは?

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。
<具体例>
⑴業務上明らかに必要性のない言動
⑵業務の目的を大きく逸脱した言動
⑶業務を遂行するための手段として不適当な言動
⑷当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
<判断基準・判断要素>
この判断に当たっては、様々な要素( 当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等) を総合的に考慮することが適当である。
また、その際には、個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要である。
<注意点>
この要件の該当性判断は、難しいところがあり、業種などによって変わってくるところです。
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しないので、パワハラにならないように意識をしつつも、必要な業務上の指導は、相当な範囲で行うようにする必要があるといえます。

「労働者の就業環境が害される」とは?

「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。
<判断基準>
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である。

まとめ

 職場におけるパワーハラスメントは、上記パワーハラスメントの定義の①から③までの要素を全て満たすものをいいます。一方で、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
 個別の事案についてその該当性を判断するに当たっては、業務上の必要性・相当性の要件該当性の判断において、総合的に考慮することとした事項のほか、当該言動により労働者が受ける身体的又は 精神的な苦痛の程度等を総合的に考慮して判断することが必要である。
 このため、個別の事案の判断に際しては、相談窓口の担当者等がこうした事項に十分留意し、相談を行った労働者( 以下「相談者」という。)の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、相談者及び行為者の双方から丁寧に事実確認等を行うことも重要である。
 これらのことを十分踏まえて、予防から再発防止に至る一連の措置を適切に講じることが必要である。

パワハラ・パワーハラスメントの具体的事例

 職場におけるパワーハラスメントの状況は多様ですが、代表的な言動の類型としては、以下 のイからヘまでのものがあり、当該言動の類型ごとに、典型的に職場におけるパワーハラスメントに該当し、又は該当しないと考えられる例としては、次のようなものがあります。
 ただし、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、次の例は限定列挙ではないことに十分留意し、以下の<相談に応じ適切に対応するための体制の整備>にあるとおり広く相談に対応するなど、適切な対応を行うようにすることが必要です。
 なお、職場におけるパワーハラスメントに該当すると考えられる以下の例については、行為者と当該言動を受ける労働者の関係性を個別に記載していませんが、(4)にあるとおり、優越的な関係 を背景として行われたものであることが前提である。

イ 身体的な攻撃(暴行・傷害)

(イ) 該当すると考えられる例
 殴打、足蹴りを行うこと。
 相手に物を投げつけること。

(ロ) 該当しないと考えられる例
 誤ってぶつかること。

ロ 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

(イ) 該当すると考えられる例
①人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。

(ロ) 該当しないと考えられる例
①遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。
②その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。

ハ 人間関係からの切り離し( 隔離・仲間外し・無視)

(イ) 該当すると考えられる例
①自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
②一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。

(ロ) 該当しないと考えられる例
①新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。
②懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。

ニ 過大な要求( 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

(イ) 該当すると考えられる例
①長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
②新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
③労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

(ロ) 該当しないと考えられる例
①労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。
②業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。

ホ 過小な要求( 業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

(イ) 該当すると考えられる例
①管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
②気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。

(ロ) 該当しないと考えられる例
労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。

ヘ 個の侵害( 私的なことに過度に立ち入ること)

(イ) 該当すると考えられる例
①労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

(ロ) 該当しないと考えられる例
①労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
②労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。

この点、プライバシー保護の観点から、ヘ(イ)②のように機微な個人情報を暴露することのないよう、労働者に周知・啓発する等の措置を講じることが必要である。

パワハラ・パワーハラスメントの具体例のまとめ

パワーハラスメントに該当するかどうかは、パワハラの定義に該当するかどうかを検討することになりますが、それだけではなかなか判断が難しいといえます。そのため、パワーハラスメントの代表的事例については理解をした上で、具体的事例においてパワハラに該当するかどうかを判断していく必要があります。
<パワハラ典型例のまとめ>
イ 身体的な攻撃(暴行・傷害)
ロ 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
ハ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
二 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12