顧問弁護士とハラスメント相談窓口
ハラスメント対策を考えている企業の多くは、コンプライアンス意識も高く、すでに弁護士と顧問契約をして日常的な法律問題に対する助言指導を受けていると思います。そのため、顧問弁護士がいる場合には、顧問契約とセットで合わせてその顧問弁護士に、ハラスメント・コンプライアンスの相談・通報をその顧問弁護士に外部委託するという方法が簡便で費用も抑えられることもあります。
実際に、いかり法律事務所でも、顧問契約をして頂いている企業様より外部窓口としての対応の委託を受けています。
一方で、私が弁護士同士の勉強会でハラスメント相談窓口対応に関する安全配慮義務違反が問われた事例を発表した際に、他の弁護士にアンケートを取る趣旨で尋ねたところ、「顧問弁護士をしている企業のハラスメント相談窓口は受けない」という弁護士もいました。
当該企業の顧問をしている弁護士がハラスメント相談窓口の委託を受けるということになると悩ましい問題が発生します。それは、利益相反です。
企業と労働者は、雇用関係においては対立することが多く、そのために労働者から相談を受けた後に、その労働者と企業との間で紛争となったときには、弁護士としては、既に労働者から相談を受けてしまった以上、その相談を受けた件について企業の代理をするとなれば利益相反になるのではないか?といったものです。その疑問は、半分あたっていて半分外れているといえます。
ハラスメント対策を定めたハラスメント防止法及びハラスメント対策ガイドラインを読み解き、その仕組みを考えることで一つの答えが出せると思います。
ハラスメント対策ガイドライン等は、相談窓口の設置を求めていますが、それはあくまでも会社の費用で運用されることが前提となっており、かつ、あくまで会社の一つの機関という位置づけになります。そのため、当該労働者から企業へ提供された情報については、会社が当該労働者との裁判などのトラブルにおいて利用しても構わないという位置づけになります。
しかし、パワハラ対策法等は、当該労働者のプライバシー保護を求めていますので、当該労働者からの相談内容や通報内容の取扱いに当たっては、企業は利用していいいがその情報に触れる人員を限定するなどプライバシー保護を図る必要があるといえます。
また、パワハラ対策法等は、当該労働者が相談や通報をしたことを理由とする不利益取り扱いを禁止しています。そのため一見すると当該労働者から提供された情報を当該労働者の不利益に利用することが禁止されていると勘違いをしそうになるのですが、それは違うと考えています。つまり、あくまでもパワハラ対策法等は、「相談や通報をしたこと」を理由とする不利益取り扱いを禁止しているのみであって、そこで提供された情報をどのように使うかまでは言及していませんので、当該労働者から提供された情報を当該労働者の不利益に利用することもできるのです。
最後に、当該相談者と企業との利益相反という問題ですが、これはハラスメント対策として設置する窓口の目的をどのように設定するかという問題になります。ほとんどの企業では想定しがたいところではありますが、当該労働者側の弁護士として当該労働者のために相談に応じて企業に不利益な助言までする徹底した労働者のための相談窓口とするのであれば、利益相反になるといえます。一方であくまでも法令の趣旨に従った対応をするための、会社の一機関としての外部窓口ということであれば、理屈上はその窓口担当の弁護士は会社の代理人として当該労働者から事実確認をするということになりますので、そもそも当該弁護士は会社の代理人であり、その後の紛争において企業を代理して当該労働者を相手に訴訟等の対応をしても法律上の問題はないといえます。ただし、労働者に誤解を与えないように、
したがって、パワハラ防止法等の趣旨目的に沿って、顧問弁護士に社外窓口を外部委託するということも可能だと言えます。
もっとも、顧問弁護士とは別に、ハラスメント相談や公益通報(コンプライアンス違反の通報)の窓口を設ける方が、望ましいといえます。
というのも、結局は、弁護士の意識としては対応しずらいということに変わりがないからです。また、労働者からの見え方としても、顧問弁護士とは別に弁護士を社外窓口としている方がより通報を容易にしてその窓口設置の効果が見込めるといえます。そのため、多少の費用がかかっても外部窓口としてのみ依頼をされる企業は多数いらっしゃいます。
なお、弁護士法人いかり法律事務所が提供するアンカーラインというハラスメント・公益通報社外窓口サービスは、顧問弁護士がいる企業でも外部委託しやすい料金設定をしています。
加えて、企業は、その業務内容に応じて、顧問弁護士との契約をしていることがほとんどだと思います。例えば、病院であれば医療問題や患者対応の相談などをメインとして顧問弁護士を選んでいたり、不動産業者であれば不動産取引の相談や明渡対応を弁護士に依頼していたりします。
その顧問弁護士がハラスメント問題に精通しているとは限らないということです。ここ近年は多少なりと弁護士業界においても専門性が重視されてきていますが、既存の顧問弁護士が適切に対応できないということもあります。そのため、顧問弁護士とは別に労働分野の中でもハラスメント相談窓口対応から調査などまで可能な別の精通した弁護士に依頼するメリットがあります。
弊所は、上記のとおり、ハラスメント対策・ハラスメント相談窓口について真剣に考えて、取り組んでいます。是非、一度お問い合わせください。