第1 会社や職場での病気や怪我

 企業では,従業員が,業務中に事故に遭うなどして労働災害の被害に遭うことがあります。例えば,機械操作を誤ってケガする場合のほか,営業担当者やトラック運転手が社用車で交通事故の被害に遭う場合、通勤途中に事故に遭う場合などです。
 また、昨今では、怪我だけはなく,職場の長時間労働やパワハラなどに起因する精神疾患や自殺についても労働災害として問題になることが増えています。
 このような場合、企業はどのような責任を負うのでしょうか。

第2 労働基準法上の災害補償

 労災事故が発生した場合、使用者は労働基準法に基づく災害補償責任を果たさなければなりません(労働基準法第75条~第88条)。しかし、労災保険に加入している場合は、労災保険による給付が行われ、使用者は労働基準法上の補償責任を免れます(同法84条1項参照)。 したがって、労災保険に加入していない場合は、労働基準法上の災害補償責任を負うことになりますが、ほとんどの事業者が労災保険に加入しているため労働基準法の災害補償責任はあまり利用されていません
  ただし、労災によって労働者が休業する際の休業1~3日目の休業補償は、労災保険から給付されないため、労働基準法で定める平均賃金の60%を事業主が直接労働者に支払う必要があります。

第3 労災保険給付

1 労災保険とは?

 労災事故が発生した場合、労災保険に加入している場合、労働者は労働者災害補償保険法に基づいて労働基準監督署長あてに労災保険給付の請求を行っていきます。 労働基準監督署に備え付けてある請求書を提出することにより、労働基準監督署において必要な調査を行い、保険給付が受けられるという仕組みになっています。
 給付が認められるためには、労働災害の業務遂行性と業務起因性の2つが認められなければなりません。業務遂行性は、当該災害が業務を遂行する際に発生したことをいい、通常の業務中だけなく、業務遂行に必要な行為又は付随する行為もこれに含まれます。たとえば、通勤中の事故も業務遂行性が認められています。一方、業務起因性は、業務と労災によって被った負傷・病気・死亡との間に因果関係が認められることを指します。
 以上2つの条件を充足すると、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護保障給付などが支払われますが、上限額の設定があります。慰謝料は支払われません。

2 労災保険申請に伴う企業側の対応について

 企業の対応としては、まず、業務災害が発生し、従業員が死亡した場合や負傷して休業した場合には所轄の労基署に労働者死傷疾病報告書を提出する必要があります(労働安全衛生規則97条)。
 次に、申請者である労働者や遺族より、労災申請に必要な情報や資料等の提供を求められた場合には、協力することが望ましいです。その際に、労災申請書に「事業者証明印」の押印を求められる場合がありますが、申請書の内容に異論がある場合は、押印しないという対応も可能です。事業主証明印がなくても労災申請は受理されます。特に、精神疾患やこれによる自殺の労災申請については、業務起因性が争われるケースが多く、慎重な対応が求められます。
申請後には、労基署からの調査が実施された場合には、これに応じる必要があります。 

第4 民法上の損害賠償責任

1 民法上の損害賠償請求

 労災保険より労働者の治療費、休業損害、遺失利益などが支払われますが,慰謝料については支払われず、また給付額に上限額の設定があるなど、労働者の被った全ての損害が支払われるわけではありません。
 他方, 使用者は,労働者に対して安全配慮義務違反(民法415条)や不法行為(民法709条)に基づいて労働者の損害について賠償する義務を負います。損害の範囲は、労災保険とは異なり、慰謝料を含む相当因果関係のあるすべての損害となります。 なお、労災保険から給付を受けている場合にはその部分は減免されます(労働基準法第84条2項)。
 そこで、労働者は使用者に対して、労災保険で補填されない損害について民法上の損害賠償請求がなされることがあります。

2 民事上の損害賠償請求に対する企業側の対応

 企業は、労働者の請求内容に対して、事実関係の確認・調査を行い、労災事故の業務遂行性や業務起因性、使用者の安全配慮義務違反があったのか、主張されている損害の有無及び範囲についても検証します。使用者は損害賠償責任を負う場合は支払いに応じる必要がありますが、一方で、反論すべき点があれば反論し、また、減額交渉するなどの対応をとることになります。
 特に、死亡事故や自殺など、労働者が命を落とした場合には、その請求損害額は億単位又はこれに近い高額な金額になることもあるため、法的論点についてしっかりとした検討と適切な対応が必要となります。
 交渉で解決しない場合には、労働者は次なる一手として訴訟提起をしてくるでしょう。

第5 労災問題は福岡のいかり法律事務所の弁護士にご相談ください

 このように労災事故をめぐる問題は複雑であり、訴訟リスクもあるため、適切な解決のためには,法的知識を必要とします。福岡のいかり法律事務所では, 弁護士が事故発生直後のアドバイスから,初動調査,その後の交渉・訴訟等についても幅広く対応しておりますので,お気軽にご相談ください