特定調停は、自己破産や任意整理などと異なり、余り聞き馴染みのない債務整理手続きです。本稿では、債務整理手続きの1つである特定調停の手続の概要について紹介します。

特定調停とは

1 意義

 特定調停とは、一言でいうと、経済的破綻のおそれのある個人又は法人である債務者が、裁判所を介して多数の債務者と負債総額や支払方法等を交渉し、合意した内容に沿って分割弁済していく債務整理手続のことをいいます。

 「特定債務者等の調整の促進のための特定調停に関する法律(以下「特定調停法」といいます。)では、以下のように定義されてます。

「特定調停」とは、「特定債務者」が民事調停法2条の規定により申し立てる「特定債務等の調整」にかかる調停のことをいい、当該調停の申立ての際に特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述があったものをいいます(特定調停法2条3項)。

 上記「特定債務者」とは、金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務超過に陥るおそれのある法人のことをいいます(同法2条1項)。

 上記「特定債務等の調整」とは、特定債務者及びこれに対して金銭債権を有する者その他の利害関係人の間における金銭債務の内容の変更、担保関係の変更その他の金銭債務に係る利害関係の調整であって、当該特定債務者の経済的再生に資するためのものをいいます(同法2条2項)。 

2 手続の概要

⑴ 債務者の経済的再生を図る

 特定調停の手続は、個人・法人を問わず、経済的に破綻している状態にある債務者が、裁判所を介して多数の債権者及び利害関係人との間で集団的な債務整理を行うことにより、債務者の生活や事業の経済的再生を図る手続であり、民事調停の特例として定められた制度です。

⑵ 法律知識がなくても利用できる

 特定調停の手続は、弁護士等のように十分な法律知識を有しない債務者でも、窓口に備え付けられた申立書などの書式を使って、債務者自らが申立てを行い、債務整理の交渉を進めていくことができる簡易な手続きです。

⑶ 特定調停法は民事調停法の特別法である

 特定調停の手続は、裁判所を中立的第三者として債務整理を行う手続きですが、特定調停手続は「特定調停法」により規律されており、民事調停法の特別法とされています。
 そのため、特定調停法や同規則に規定のない事項は、民事調停法や同規則に従うことになります(同法22条、同法規則9条)。 

申立手続

1 申立方法

 特定調停を申し立てるには、調停申立書という書面を特定調停手続による調停を求める旨を明らかにした上で、債権者の住所のある地区を受け持つ簡易裁判所に提出することになります。
 その際、毎月弁済が可能な金額や支払を猶予してほしい期限についても明らかにする必要があります。

 なお、事業者が特定調停を申し立てる場合には債権者との交渉の経緯を、会社などの法人が特定調停を申し立てる場合には労働組合の名称や所在地、代表者名、連絡先なども明らかにする必要があります。

2 準備する資料

 特定調停を申し立てるときには、債務の弁済が困難であることや支払不能であることを明らかにする資料として、資産の一覧表や債権者及び担保権者の一覧表、生活や事業の状況が分かるもの、借入れの内容やこれまでの返済の内容が分かる資料の提出が必要となります。 

 たとえば、生活の状況が分かるものとしては、給与明細や家計簿、通帳などの写しが必要となります。
 また、事業者や法人の事業内容が分かるものとしては、貸借対照表や損益計算書、資金繰表、事業計画書、会計帳簿など財務諸表の写しが必要となります。
 
 その他、借入れの内容が分かるものとして消費貸借契約書などの写しが、これまでの返済内容が分かるものとして領収証などの写しが必要となりますが、裁判所から必要な書類について指示があった場合には、その指示に従って提出しなければなりません。

申立費用

 特定調停の申立てには、申立手数料(収入印紙)と裁判所からの郵便物発送のために使用する手続費用(郵便切手)が必要となります。 

 たとえば、東京簡易裁判所に特定調停を申し立てる場合には、以下の申立手数料と手続費用が必要となります。申立て時に特定調停申立書ほか必要書類と併せて提出しなければなりません
 特定調停手続の案内に関する東京簡易裁判所のホームページはこちらからご確認頂けます。

1 申立手数料(収入印紙)について

⑴ 個人が申し立てる場合

 債権者1人(社)につき500円分の収入印紙が必要となります。
 なお、債権者1人(社)に対する債務額の残元本額によっては、追納が必要となる場合があります。

⑵ 事業者や法人が申し立てる場合

 債務額元本が高額である場合が多く、算出方法が複雑になるため、裁判所調停受付係に確認する必要があります。

2 予納郵券について

 債権者1人(社)につき430円分(84円切手5枚、10円切手1枚)が必要となります。
 なお、手続きの進行状況により追加で提出しなければならない場合があります。

標準的な手続の流れ

1 申立書及び申立受理通知書の送付

 調停の申立てがあると、裁判所から相手方(債権者)に申立書(副本)及び申立受理通知等を送付します。

 申立受理通知書の送付に際して、裁判所から債権者らに対して申立人との間の消費貸借契約書の写しや取引履歴に基づく利息制限法所定の制限利率による引き直し計算書の提出が依頼されることになります。

2 期日の指定

 その後、簡易裁判所により調停(話合いの)期日が指定されます。
 調停期日では、調停委員が、特定債務者である申立人から生活や事業の状況、収入、返済方法などを聴取した上で債権者の考えを聴いて、公正かつ妥当な残債務の総額の確定、弁済方法について調整していきます。

3 手続の終了

 調停の結果、合意が成立した場合には、調停成立により特定調停の手続は終了することになります。調停調書に合意内容が記載されたときは、その記載は確定判決と同一の効力が認められます。以降、特定債務者は、合意内容に従って弁済を行うことになり、合意内容にない債務の取立てを受けることはなくなります。
 他方、双方の折り合いがつかないときは、合意ができないまま特定調停手続は終了することになります。

 なお、特定手続が申立から終了するまでに約2か月程度の期間を要します。その間、申立人は2回程度裁判所に出頭することになります。

他の制度との違い

 簡単にではありますが、他の制度との特徴的な相違点を以下に紹介します。

1 民事調停との違い

 特定調停は、民事調停と異なる点として、一定の経済的破綻状態にある債務者からの申立事件に限られること、多数の債権者との集団的な債務整理が可能であること、民事執行手続の執行停止要件が緩和されていること、調停事項は公正かつ妥当で経済的再生に資する内容でなければならないこと、調停委員には法律・税務・企業財務・資産評価等に関する専門的な知識・経験を有する者(弁護士や税理士など)が選任されることなどが挙げられます。  
 
 このような多くの相違点があるのは、特定調停の実質が再建型の破産・倒産手続であることによるものと考えられます。  

2 任意整理との違い

 特定調停は、任意整理と同様に利息制限法による引き直し計算(利息制限法の上限金利を基準として、その超過部分の支払部分は元本に充当すること)が行われますが、特定調停は、裁判所を介して再生計画について合意内容を形成することや調停当事者の取引履歴の開示が明文上義務付けられている(特定調停法10条)ことなどが、任意整理と異なります。

3 個人再生手続との違い

 特定調停は、個人再生手続と同様に個人債務者の将来の所得を弁済原資として、裁判所を介し経済再生計画を図る債務整理手続ですが、特定調停の方が個人再生手続きよりも簡便迅速であり、原則として申立て手数料を負担するだけで利用できる点で安価である点などが、個人再生手続きと異なります。

弁護士に依頼する場合

1 調停成立の期待が大きい

 特定調停の手続は、債務者本人が裁判所を介して債権者らと交渉し、債務整理の手続きを行うことを予定していますが、弁護士を代理人として申立手続を行うこともできます。

 特定調停の手続は、個人再生手続きなど他の債務整理手続きより簡易で迅速な経済的再生計画を期待することができますが、申立て時に準備しなければならない書類が多数あることや、原則として債務者本人が裁判所に出頭しなければならないこと、多数の債権者と再生計画(支払方法、債務の総額の確定)の交渉を行わなければならないこと等から、一定の手間と時間がかかり、債務者本人で手続を進める場合、調停が成立しないおそれがあります。 

 弁護士に依頼すれば、このような時間や手間を要することなく、調停が成立しないこともほとんどなくなります。安全かつ確実に調停を成立させたいのであれば、債務者本人で申立を行うよりも、弁護士に依頼することを検討した方がよいと思います。少なくとも自ら申立てを行う前に、弁護士に相談して手続きの内容や方法を確認するべきです。

2 弁護士費用

 弁護士法人いかり法律事務所では、弁護士費用として以下の料金設定でご依頼を承っておりますが、弁護士費用については個別に相談に応じていますのでまずは無料法律相談をご利用のうえご相談下さい

目安:特定調停手続:55万円~

まとめ

 いかり法律事務所は、特定調停手続の申し立てをはじめ、個人再生手続や任意整理、自己破産など債務整理手続について多くの相談及び解決実績があります。
 借金やローンなど負債がかさみ、債権者への弁済が難しくなっている、債務整理を検討しているけれどもどのような申し立てがあるのか分からない、債務の弁済が困難だけれど事業を継続したい、弁護士に債務整理を依頼したいけれど弁護士費用を支払えないなど、様々なお悩みを抱えている方がいらっしゃると思います。
  
 当法律事務所は、初回無料法律相談を実施していますので、まずは無料法律相談をご利用のうえ、ご自身にとって最も適切な債務整理の手続きをご検討下さい。
 ご依頼頂く場合の弁護士費用についてもご相談を承りますので、まずはお電話やメール、LINE等で当法律事務所までお問い合わせ下さい。