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 この判決は、自社年金を減額する規定の改定について、経済情勢の変動は、改定の必要性を実質的に基礎付ける程度に達している必要があり、改定の程度についても、変更の必要性に見合った最低限度のものであることが求められると判断しました。

事案の概要

(1) 会社は、福祉年金制度を創設し、会社が作成した福祉年金規程に基づき運営されていた。退職者は、退職時に、自己の希望で退職金の一部を自社年金の原資として会社に預け入れる年金契約を締結した。

(2) 退職者は、本件年金契約に基づき、年金を受給していた。

(3) 会社は、巨額赤字を計上したことを契機として、年金の支給額を減額する改定を行った。

(4) 退職者は、本件改定に基づく年金減額を不服として、改定前年金額との差額支払等を求めて提訴した。

第一審は退職者らの請求を棄却

判旨・判決の要約 控訴棄却

(1) 本件改定当時、会社の業績悪化により、福祉年金規程にいうところの「経済情勢に大幅な変動があった場合」との要件に該当し、給付利率を一律2%引き下げる必要性があったと認められる。

(2) 本件改定は、退職者らの退職後の生活の安定を図るという本件年金制度の目的を害する程度のものとまではいえないし、また改定に先だって加入者に対し給付利率の引下げの趣旨やその内容等を説明し、意見を聴取する等して相当な手続を経ているから、本件改定については、相当性もあった。  

解説・ポイント

 近時、年金制度を巡っては、企業における年金財政の悪化や厚生年金基金の解散など年金制度の給付額の減額・廃止の問題が顕在化しており、この問題は、現在最も深刻な労働条件の不利益変更の問題の一つとなっています。
 
 本件は、自社年金について争われた裁判例であり、年金規定の解釈として、給付率引き下げの必要性、内容の合理性、手続の相当性から年金給付率の減額を認めました。同様の理由から、自社年金の廃止や年金支給額の減額が認められた裁判例として名古屋学院事件(名古屋高判平成7年7月19日労判700号95頁)や幸福銀行事件(大阪地判平成10年4月13日労判744号54頁)、早稲田大学事件(東京高判平成21年10月19日労判995号5頁)などがあります。他方、自社年金の打ち切りや年金支給の減額は違法・無効とした裁判例として幸福銀行事件(大阪地判平成12年12月20日労判801号21頁)や港湾労働安定協会事件(大阪高判平成18年7月13日労判923号40頁)などがあります。