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この裁判例は、違法・不当な目的で子会社の解散決議がなされ、かつ、同社が偽装解散されたと認められる場合には、子会社従業員は、親会社による法人格の濫用の程度が顕著かつ明白であるとして、親会社へ継続的、包括的な雇用契約上の責任を追及できる、と判断しました。
事案の概要
(1) Y1社は、タクシー事業等を営むA社を全株式の取得により完全子会社化し、自社取締役らをその経営陣や管理職に送り込んでA社の重要な業務の判断を全て行っていた。
(2) Y1社の完全子会社としてタクシー事業を営み、A社代表取締役でもある訴外Bが代表取締役を務めるY2社は、Y1社の支援等を得て、A社の営業区域に参加した(タクシー業務を始めた)。
(3) Y2社タクシー乗務員69名中50数名は、A社内での募集に応じた非組合員であった。
(4) Y1社から支援を大幅に縮小されたA社は、A社タクシー乗務員らを構成員とするX1組合との団体交渉において、会社再建のための乗務員の賃金を減額する新賃金体系への変更申し入れを行ったが、変更の申し入れは拒絶された。
そのため、Y1社は、取締役会でA社解散決議を行い、A社は、A社従業員全員約60名に対し就業規則に基づく解雇の意思表示を行った。
(5) 本件被解雇者X2ら約50名は、本件解雇の無効を主張して、主位的にY1社に対する労働契約上の地位確認等、予備的にY1社らへの不法行為に基づく未払賃金相当額の損害賠償等(第1事件)と、Y2社に対する労働契約上の地位確認等(第2事件)を求める訴えを提起した。
第一審は、第1事件におけるX2らの主位的請求を斥け予備的請求を一部認める一方、第2事件ではX2らの請求をほぼ認めた(X2・Yら双方が控訴)。
判旨・判決の要約 原判決一部変更(X2らの請求一部認容、一部却下、一部棄却)
(1) 親会社による子会社の実質的・現実的支配がなされている状況下で、労働組合の壊滅等、違法・不当な目的で子会社の解散決議がなされ、かつ、同社が偽装解散されたと認められる場合には、子会社従業員は、親会社による法人格の濫用の程度が顕著かつ明白であるとして、親会社へ継続的、包括的な雇用契約上の責任を追及できる。
(2) A社の法人格は完全には形骸化していないものの、Y1社は、A会社を実質的・現実的に支配していたと認められ、A社の解散は、新賃金体系の導入に反対したX1組合を排斥するという不当な目的を決定的な動機として行われ、当該解散は、Y1社がA社の法人格を違法に濫用したと解される。
A社とおおむね同一の事業をY2社が継続していることに加え、Y1社は、A社からX1組合を排斥する目的でA社を解散し、その事業をY2社に承継させたことからすると、A社の解散は偽装解散といわざるをえず、X2らはY1社に雇用契約上の責任を追及できる。
解説・ポイント
本件解散は、親会社が主に子会社の労働組合を排斥する目的で子会社を解散させたことから、法人格を違法・不当な目的で濫用した偽装解散に該当すると判断しました。
偽装解散にあたる場合、解散された子会社従業員の労働契約上の地位は、実質的に同一の事業を営む別会社に承継されるものとされます(本件でいえば、Y2社に承継されることになります)。
しかし、法人格否認の法理の趣旨が、正義・衡平の原理にあることからすれば、法人格を濫用した親会社が、解散された子会社従業員の労働契約上の地位を承継するべき(雇用契約上の責任を負うべき)でしょう。
今回紹介した裁判例は、Y1社への雇用契約上の責任追及を認めたことから、法人格否認の法理の趣旨に沿った判断を行ったものと考えられます。