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この判決は、起訴休職命令が有効となるためには、職務の性質・公訴事実の内容・身柄拘束の有無など諸般の事情から、休職命令の内容と休職命令を受けた労働者の不利益の程度などを比較衡量することが必要であり、休職命令の措置が必要性・合理性を欠き、公序良俗違反や権利濫用に当たる場合には無効になると判断しました。
事案の概要
(1) Y航空会社に入社し、機長資格操縦士であったXは、客室乗務員Aと男女の関係になっていた。
(2) AがYを退職後、XはAに対して傷害を負わせたとの被疑事実により逮捕され公訴提起されたがその後略式命令を受けて釈放された。Xは、略式命令に対して裁判を請求し無罪判決を受けた。
(3) Yは、Xが略式命令を受けた直後、Xに対して乗務停止の措置をとり、その後、Xが刑事訴追を受けたことを理由にY就業規則に従い、Xを無給の休職に付した。なお、本件刑事事件の無罪判決後、Xは休職処分を解かれて復職している。
(4) Xは、Yに対して休職処分が無効であること、及び減額された賃金等の支払を求めて訴訟を提起した。
判旨・判決の要約 一部認容、一部棄却(確定)
(1) 起訴休職制度の趣旨は、刑事事件で起訴された従業員をそのまま就業させると、職務内容又は公訴事実の内容によっては、職場秩序が乱されたり、企業の社会的信用が害され、また、当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずることを避けることにある。
したがって、従業員が起訴された事実のみで形式的に起訴休職の規定の適用が認められるものではなく、職務の性質・公訴事実の内容・身柄拘束の有無などを諸般の事情に照らし、起訴された従業員が引き続き就労することにより、Yの対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがある場合でなければならず、また、休職によって被る従業員の不利益の程度が懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合でないことを要するというべきである。
(2) 本件休職処分の時点では、Xが逮捕されて略式命令を受けた日から約1か月を経過していることからして安全運行に影響を与える可能性を認めるに足りる証拠はない。
したがって、Xの労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがあるものとは認められない。本件休職処分は無効というべきものであり、Xは民法536条2項により賃金請求権を失わない。
解説・ポイント
休職とは、労働者に就労させることが不適切な場合に、使用者が労働者との労働契約を存続させつつ一時的に労働義務を消滅させることであり、起訴休職とは刑事事件で起訴された者をその事件が裁判所に係属する期間又は判決確定までの期間休職とすることをいいます。起訴休職のほか、傷病休職や事故欠勤休職、出向休職、自己都合休職などがあります。
休職期間中の賃金については労働契約や就業規則などの定めにより決定されますが、本件のように、起訴されたからといって直ちに就労不能となるわけではなく、休業措置を執る必要がない場合もあります。
その一方で、起訴休職を命じられた労働者は休職期間中無給となり、日常生活のための資金に困り、大きな不利益を被ることもあります。会社の社会的信用や職場秩序の維持、休職となった労働者の被る不利益などを考慮した結果、休職命令が公序良俗に反したり、権利濫用に当たる場合には、当該休職命令は無効となります。そして、このような会社の帰責事由に基づく休職の場合には、労働者の賃金請求権は失われません。
本件でも、起訴休職命令を(権利濫用により)無効と判断し、休職期間中の賃金請求権を認めています。
使用者が有効に休職命令を行うには、①労働契約や就業規則など契約上の根拠が規定されており、②当該休職命令が公序良俗違反や権利濫用などに当らないことが必要となることに注意が必要です。
起訴休職の命令を行うためには、実務上、企業の社会的信用や職場秩序の維持、当該労働者の職務遂行などから、起訴された労働者の就労を禁止することがやむを得ないと認められるとき、又は勾留や裁判所への出頭のため就労が不可能、困難であるときのいずれかに当たることが必要とされています。
なお、本件のように、企業外での男女関係のもつれから生じた私的行為が起訴につながった事例は不倫関係が発生しているぶん「職場秩序が乱されたり企業の社会的信用が害される」と考えられやすい側面があるといえます。
しかし、懲戒処分に関しての判断ではありますが、裁判例も職場の同僚間の不倫関係について、企業の社会的信用や職場秩序が乱されたと判断することについては慎重な判断をとっています(繁機工設備事件・旭川地判平成元・12・27労判554号17頁)。