はじめに
離婚後や長期にわたり配偶者と別居をしていると、生活費だけでなく子どもの養育にかかる費用についても問題となる場合があります。
本稿では、母子家庭や父子家庭で児童を養育している方たちが、養育費のための収入源の1つとして請求を検討する児童扶養手当の概要と受給手続きについて紹介し、併せて離婚の際に請求する養育費との関係についても解説致します。
児童扶養手当制度とは
1 児童扶養手当とは
児童扶養手当とは、一言でいえば、生別や死別などにより母子家庭や父子家庭となった世帯の親や子の養育者に支給される手当のことをいいます。
この児童扶養手当制度は、母子家庭や父子家庭など一人親世帯の家庭生活の安定と自立の促進に寄与するために設置されたもので、制度制定当初は母子世帯を対象としていましたが、平成22年8月より父子家庭も対象となりました。
2 児童手当との違い
児童手当とは、国内に居住している児童を養育する一定額の所得以下の親や養育者に支給される手当のことをいい、同じような名称で児童の養育費として支給される点で共通しますが、児童手当は、児童扶養手当のように、対象が母子家庭や父子家庭などの一人親世帯に限定されておらず、所得に関する一定の要件を満たす親、子の養育者であれば広く支給される手当である点で異なります。
なお、児童扶養手当と児童手当は併給されますが、遺族年金、障害年金などの公的年金や労災補償などを受ける場合は児童扶養手当との間で併給調整がなされる点に注意しなければなりません。
児童扶養手当の受給資格者
1 対象「児童」とは
「児童」とは、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者や20歳未満の障害のある者のことをいいます。
2 受給資格者とは
児童扶養手当は、次のいずれかに該当する児童を監護している母(父)、又は母(父)に代わってその児童を養育している方に支給されます。ただし、後述するように、定められた額以上の所得があるときは支給されません。
1.父母が婚姻(事実婚を含む)を解消した児童
2.父(母)が死亡した児童
3.父(母)が施行令に定める程度の障がいの状態(年金の障害等級1級程度)にある児童
4.父(母)の生死が明らかでない児童
5.父(母)から1年以上遺棄されている児童
6.父(母)が裁判所からのDV保護命令を受けた児童
7.父(母)が法令により引き続き1年以上拘禁されている児童
8.母が婚姻によらないで懐胎した児童
たとえば、夫と法律上離婚していなくとも、夫が引続き1年以上子どもを遺棄している場合には、「父から1年以上遺棄されている児童」に当たると判断され、母に同手当の受給資格が認められる可能性があります。
なお、後述するように、都道府県知事等に対して所定の認定請求手続きを行わない限り、受給資格者に該当しても支給されません。
3 受給資格者に該当しない場合
次のいずれかに該当する場合には、児童扶養手当は支給されません。児童を養育するに足りる所得、養育環境があると考えられるからです。
1.母(父)が婚姻の届出をしていなくても事実上の婚姻関係(内縁関係など)にあるとき
2.手当を受けようとする父(母)、又は養育者が日本国内に住所を有しないとき
3.対象児童が日本国内に住所を有しないとき
4.対象児童が里親に委託されたり、児童福祉施設(母子生活支援施設・保育所・通所施設を除く)や少年院等に入所しているとき
5.平成15年4月1日時点において、母が支給要件のいずれかに該当してから5年を経過しているとき(母子に限る)
児童扶養手当の請求手続
1 請求手続の流れ
児童扶養手当を受給するためには、都道府県知事等に対して認定請求を行い、受給資格、手当額について認定を受ける必要があります(「認定請求主義」児童扶養手当法6条1項)。受給資格者に該当しても手当の受給には認定請求の手続きが不可欠ということです。
認定請求の手続きは市町村役場において行いますが、認定に際して都道府県知事等(実際には都道府県庁の職員等)から必要に応じて、受給資格の有無及び手当の額の決定のために必要な事項に関する書類の提出を求められることがあります(児童扶養手当法29条1項)。
受給資格が認められると、児童扶養手当認定通知書及び児童扶養手当証書が交付されるます。他方、受給資格がないと判断された場合には、認定請求却下通知書が交付されます。
なお、上記手当の支給に関する処分については、都道府県知事に対して審査請求を行うことができます(児童扶養手当法17条)。
2 請求に必要な書類
児童扶養手当の認定請求にあたり必要となる書類は次の通りとなります(児童扶養手当法施行規則1条)。
1.戸籍謄本(請求者及び児童)
2.世帯全員の住民票の写し
3.請求者の所得証明書
4.印鑑
5.請求者名義の銀行通帳(送金先口座の分かるもの)
その他、請求理由が遺棄や生死不明、拘禁等の場合には、その事実を照明する資料が必要となります。
児童扶養手当額
1 児童扶養手当の月額
児童扶養手当の月額は、次の通りとなっています(令和4年4月現在)。
所得制限により、養育する親などの所得が一定額以上ある場合には手当の支給額が逓減(少しずつ減らされること)されることになります。
(1)全部支給の場合
1人目の子・・・月43,070円
2人目の子の加算額・・・月10,170円
3人目以降の加算額(1人につき)・・・月6,100円
(2)一部支給の場合
1人目の子・・・月10,160円から43,060円
2人目の子の加算額・・・月5,090円から10,160円
3人目以降の加算額(1人につき)・・・月3,050円から6,090円
(3)具体例
全額支給について例を挙げると、例えば、3人の子がいる場合には、43,070円+10,170円+6,100円で、一月あたり合計59,340円が支給されることになります。
なお、後述のとおり、実際の支給は2ヶ月に一度となります。
1人目の子に対する手当額は、毎年、総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数に従い、翌年の4月以降改定されますが(児童扶養手当法5条の2第1項)、2人目以降の子に対する加算額については、自動改定はありません。
2 児童扶養手当の支払方法
児童扶養手当の支給は、認定請求をした日の属する月の翌月分から始まり、支給事由が消滅した月で終了します(児童扶養手当法7条1項)。
児童扶養手当法の一部改正に伴い、令和元年11月分の児童扶養手当から支払回数が「2か月分ずつ年6回」となり、手当の支払は、1月・3月・5月・7月・9月・11月の11日(支払日が金融機関の休日にあたる場合は、その直前の営業日)に、それぞれの支払月の前月までの2か月分が指定された金融機関の受給者口座に振り込まれることになります。
児童扶養手当の所得制限
1 所得の計算方法
児童扶養手当は、受給資格者に一定額以上の所得がある場合には、その所得額により、手当の全部又は一部が支給されないという所得制限があります。
所得の確認は住所地の市町村役場から交付される所得証明書などによりなされ、所得の計算方法は次のとおりとなります。
所得額=年間収入額+養育費(※1)-必要経費(給与所得控除額等)-80,000円(社会保険料相当額)-下記(※2)の主な控除(該当する場合に適用します)
※1 児童の父(母)から、その児童の養育に必要な経費について、母(父)又は児童が受け取る金品等を受け取った場合、その金額の8割相当額として算定されます。
※2主な控除
受給資格者が障害者の場合・・・270,000円
受給資格者が寡婦(夫)の場合・・・270,000円(みなし適用あり)
受給資格者が特別寡婦の場合・・・350,000円
受給資格者が特別障害者の場合・・・400,000円
受給資格者が勤労学生の場合・・・270,000円
2 所得制限限度額(平成30年8月~)
扶養親族等(父母・祖父母・子・兄弟など)の数により請求者の所得の上限が定められています。この上限額を超えた所得があると、支給額が逓減されることになります。
(1)請求者本人が全額受給できる場合
扶養親族の数0人の時・・・所得が1,920,000円未満であることが必要
扶養親族の数1人の時・・・所得が2,300,000円未満であることが必要
扶養親族の数2人の時・・・所得が2,680,000円未満であることが必要
扶養親族の数3人の時・・・所得が3,060,000円未満であることが必要
扶養親族の数4人目以降・・・1人につき380,000円を加算した額未満であることが必要
(2)請求者が受給額が一部制限される場合
扶養親族の数0人の時・・・所得が490,000円未満であることが必要
扶養親族の数1人の時・・・所得が870,000円未満であることが必要
扶養親族の数2人の時・・・所得が1,250,000円未満であることが必要
扶養親族の数3人の時・・・所得が1,630,000円未満であることが必要
扶養親族の数4人目以降・・・1人につき380,000円を加算した額未満であることが必要
なお、扶養親族の数0人とは、扶養義務が課されるのは、本来の親族のうちの一部である3親等内の親族であるため、4親等の子を養っているような場合などが想定されます。
養育費との関係
1 養育費の支払義務は消滅しない
離婚に際して養育費の支払義務が当事者間の協議事項となることがありますが、児童扶養手当法2条3項において、「児童扶養手当の支給は、婚姻を解消した父母等が児童に対して履行すべき扶養義務の程度又は内容を変更するものではない」と規定されていることや児童扶養手当の制度趣旨は、児童を養育する親などが扶養義務を尽くしても、養育がなお困難である場合に公費によって支援する点にあることから、児童扶養手当の受給資格があるからといって、離婚した相手配偶者の養育費の支払義務が消滅することにはなりません。
2 養育費の算定における取扱い
児童扶養手当を受給している場合に、離婚後の養育費の算定において、手当受給者の収入に手当も含めて養育費を算定するかが問題となります。
この点に関して明確に判示した判例はありませんが、実務上は、児童扶養手当や児童手当などの公的扶助は、私的扶助が受けられない世帯に対する補充的なものであり、養育費分担義務を低減させるものとして手当の受給資格者の基礎収入に加算するべきではないと考えられています(東京高決平15・8・15家月56・5・113参照)。
このように、養育費の算定の際に、児童扶養手当の受給が考慮されない扱いとなっていますが、他方で、離婚相手から高額の養育費が先に支払われていると、当該養育費が児童扶養手当の支給額の決定に際して消極的に考慮される可能性があります。
そのため、養育費の請求と児童扶養手当の支給を検討する場合には、両者の関係についても確認しておくことが大切です。
まとめ
児童扶養手当の受給手続きについては、ネットや役場の職員に聞いて進めることもできますが(福岡市役所からの児童扶養手当に関する案内はこちら)、離婚相手から養育費などを支払わせることは容易ではありません。また、養育費と児童扶養手当の関係にも注意しなければなりません。
子どもの養育費をはじめ離婚後の生活について気になることがあれば、児童扶養手当など公的扶助の取扱いや養育費との関係について、まずは弁護士など専門家に相談してみることが大切です。
弁護士法人いかり法律事務所には、離婚・男女問題の相談・解決実績が多数ございますので、離婚・男女問題について何か気になることがあれば、まずは無料法律相談をご予約の上、お気軽にお問い合わせ下さい。