【読むポイントここだけ】
この判決は、請負契約における発注者あるいは元請企業は、直接の労働契約関係にはない下請企業の労働者に対しても安全配慮義務があると判断しました。
【事案の概要】
(1)亡くなった労働者は、Y社に塗装工として雇用され、鉄骨塗装作業に従事していた。当該業務は、Y1社がY2社より下請けしたものであった。
(2)右労働者は、命綱を外している最中に足を踏み外し、地上に墜落して死亡した。
(3)亡くなった労働者の遺族Xらは、Y1社及びY2社に対して、労働契約に基づく安全保証義務違反及び不法行為を根拠に損害賠償請求をした。
第一審は請求棄却、控訴審はY1社及びY2社の安全保証義務違反を認めた。ただし、5割の過失相殺を認めた。
Xら遺族は上告し、過失相殺の是非、遅延損害金の始期や遺族固有の慰謝料請求について争った。
【判旨 判決の要約】一部棄却、一部破棄自判
(1)亡き労働者には本件損害の発生につき少なくとも5割の割合をもって過失があると認められる旨の原審の判断は是認することができる。
(2)債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であり、民法412条3項によりその債務者は債権者から履行の請求を受けた時にはじめて遅滞に陥る。
(3)亡き労働者とY1社らとの雇用契約ないしこれに準ずる法律関係の当事者でない遺族Xらが雇用契約ないしこれに準ずる法律関係上の債務不履行により固有の慰謝料請求権を取得するものとは解しがたいから、遺族Xらは慰謝料請求権を取得しない。
【解説・ポイント】
本判決の後、三菱重工業事件(最判平成3.4.11労判590号14頁)では、
①下請労働者が元請企業の管理する設備・器具等を使用し、
②元請企業の指揮監督を受けて稼働し、
③作業内容も元請企業の労働者とほぼ同じであったこと
を指摘して、安全配慮義務の成立を認めています。
その後の裁判例も、基本的にはこの判断要素に依拠して義務の存否を判断しています。
もっとも、労働契約関係に類似しているなどの「特別な社会的接触関係」が認められれば安全配慮義務の存在を肯定しうるので、必ずしもこの要素すべてを厳密に満たさなければ安全配慮義務が認められないということにはならないことに注意が必要です。