【読むポイントここだけ】
この判決は、労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができると判断しました。
【事案の概要】
(1) Xは、Y社の尼崎第二発電所に勤務する従業員であり、かつY社の従業員で組織される労働組合の組合員であった。
(2) Xは、勤務時間外にビラを尼崎地区のY社社宅に配布したところ、本件ビラ配布行為が就業規則の懲戒事由に該当するとして、Y社から譴責の懲戒処分を受けたため、Xは、懲戒処分の無効などを主張して訴えを提起した。
第一審は、本件譴責処分は無効として請求を認容した。控訴審は、本件譴責処分は適法であり有効であるとして控訴を認容した。
【判旨 判決の要約】上告棄却
(1)労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い・・・職場外でなされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許される。
(2)本件についてみるに、右ビラの内容が大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲してY社を非難攻撃し、全体としてこれを中傷誹謗するものであり、右ビラの配布により労働者の会社に対する不信感を醸成し企業秩序を乱し、又はそのおそれのあったものとした原審の認定判断は・・・違法があるものとすることはできない。
Xによる本件ビラの配布は、就業時間外に職場外であるY社の従業員社宅において職務遂行に関係なく行われたものであるが、前記就業規則所定の懲戒事由にあたると解することができ・・・裁量権の範囲を超えるものとは認められない。
【解説・ポイント】
企業「外」の行動は本来、労働者の私生活上の行為であり、使用者が懲戒をもって臨むことはできないはずです。
しかし、労働者は信義則上、使用者の業務利益や信用・名誉を棄損しない義務(誠実義務)を負うので、原則として企業外の行動を規制できないものの、それが「企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有する」場合は懲戒事由となります。
また、労働組合が行うビラ・組合ニュース・インターネット上の掲示板への記入等における言論活動といえども無制限に許容されるものではなく、その「内容が企業の経営政策や業務等に関し事実に反する記載をし又は事実を誇張・歪曲して記載したものであり、その配布によって企業の円滑な運営に支障を来すおそれがある等の場合には、使用者は企業維持のために」、このような言論活動を理由として労働者に懲戒を科すことができ、損害賠償を求めることができます。