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 この判決は、企業内政治活動は、施設管理権を妨げ、従業員間の対立をもたらすなど企業秩序を乱すおそれがあるとして、就業規則による一般的規制を有効としつつ、企業秩序を乱すおそれのない特別の事情がある場合には、就業規則違反とならないと判断しました。

事案の概要

(1)Y公社の社員であるXは、「ベトナム侵略反対」などと書かれたプレートを着用して勤務した。
 Xの上司らは、プレートを取り外すように注意したところ、Xは、これに抗議する目的で、休憩時間中に、管理責任者の許可を得ずにビラ数十枚を配布した。
(2)Y公社は、Xのプレート着用行為及び上司の命令不服従、ビラ配布行為は、就業規則に違反し懲戒事由に該当するとして、Xを懲戒戒告処分に付した。
(3)Xは、本件懲戒戒告処分の無効確認を求めて提訴した。

第一審はXの請求を認容し、控訴審はY公社の控訴を棄却した。

判旨・判決の要約 破棄自判(第一審判決取消し、Xの請求棄却)

(1)職場内における従業員の政治活動、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれや企業施設の管理を妨げるおそれ、他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあるなど企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。
 したがって、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきである。
 もっとも、実質的に局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときには、就業規則違反があるとはいえない
(2) 本件プレート着用行為、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念する局所内の規律秩序を乱すものであった。
 また、本件ビラの配布、上司の適法な命令に抗議して、また、局所内の政治活動、プレートの着用等違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであって、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれのあったものであることは明らかである。

解説・ポイント

 元来、職場は業務遂行のための場であり、政治活動や宗教活動等といった従業員の私的活動のための場ではありません。
 それにもかかわらず、これらの活動が使用者の管理する企業施設を利用して行われる場合、その管理が妨げられるおそれのあることは否定できません。
 使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動や宗教活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきであると考えます。
 もっとも、政治活動や宗教活動は、憲法の保障する精神的自由の根幹ですので、上記禁止規定の違反について懲戒権を行使することには慎重さが求められます。当該活動の態様や経緯、目的等に照らし、実質的に見て、職場内の秩序風紀を乱すおそれのないときには、懲戒処分をすることは許されないというべきです。