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この判決は,民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには,同種行為等の長期間の反復継続,労使双方の排除意思の不存在,当該労働条件の決定権限を有する者等の規範意識の存在の3つの要件を要すると判断しました。

事案の概要

(1)労働組合は,自動車教習所を経営する会社との間で,労働協約を取り交わした。労働協約では,特定休日が祭日と重なった場合,特定休日の振替は行わないものとされていた。
(2)組合員は,長期間にわたり,労働協約に反して,特定休日の振替えの取扱いを受けていた(取扱い①)。
(3)就業規則には,所定内実稼働時間に対して支払われる能率手当に関する規定があった。
(4)組合員は,長期間にわたり,就業規則に反して,能率手当の支給を受けたことがあった(取扱い②)。
(5)新たに就任した勤労部長は,取扱い①②を労働協約,就業規則どおりに実施することとしたため,組合員らは,従来どおりの取扱いに基づく未払賃金等の支払を求めて訴えを提起した。

第一審は組合員の請求を一部認容

判旨・判決の要約 一部認容,一部棄却

(1)取扱い①がなされた端緒やその理由は明らかではないし,会社において,労働協約の明文に反する取扱いが従業員一般に広く行われていることの明確な認識があったとは認められない等の事情を総合考慮すると,労働協約,就業規則を改廃する権限を有する会社において,明確な規範意識を有していたものとは認め難い。
(2)新任の勤労部長が,取扱い②を知って直ちにこれが誤りであるとして,以後就業規則等の定めどおり戻すことにしたことなどの事情を総合考慮すると,会社において,就業規則等の原則規定に反する取扱いをするという明確な規範意識があったものと認められない。 

解説・ポイント

就業規則等に矛盾する場合には,労使慣行に就業規則や労働協約よりも優越する効力を認めることについて,その法的妥当性を検討しなければなりません。その際,就業規則や労働協約と労働契約との関係では,労働契約の内容である労働条件の決定等について,現行の労働契約法等の規定や判例法理を踏まえる必要があります。