第1 はじめに

 新型コロナウィルス感染症の影響により,経営状態が悪化したことで事業縮小を余儀なくされ,やむなく従業員を解雇しなければならないと判断する企業も少なからずあると思います。
 しかし,たとえ新型コロナウィルス感染症の影響によるものであろうと,解雇は解雇です。解雇は雇用主がいつでもできるというものではなく,厳しい法規制がかけられています。したがって,きちんとした手続を踏んでいなければ,後々被解雇者から解雇の効力を争われ,思わぬ負担を強いられることになりかねません。
 本稿では,そうした不利益を受けないために,整理解雇についてどのようなことに気をつければよいか紹介します。

第2 新型コロナウィルス感染症と「整理解雇」

1 そもそも「整理解雇」とは何か

解雇の中でも特に,雇用主が経営不振などの経営上の理由により人員削減の手段として行うものを「整理解雇」といいます。

典型的なものは売上減少を理由としたリストラですが,新型コロナウィルス感染症による売上減少であっても,それを理由に解雇を行う場合,「整理解雇」に該当します。

2 「整理解雇」の4要素

そして,整理解雇は,その有効性が通常の解雇よりもかなり厳格に判断されます。というのも,整理解雇は,労働者側に非がなく雇用主の都合で行われるものだからです。

整理解雇の有効性に関する判例については枚挙に暇がありませんが,まとめると,次の4つの要素を考慮して判断しています。

①人員削減の必要性

②解雇の必要性(解雇回避努力)

③人選の合理性

④手続の妥当性

以下では,それぞれの要素についての具体的な解説や注意点を述べていきます。

第3 整理解雇の4要素

1 人員削減の必要性

⑴ 総論

 まず,そもそも人を減らす必要があるのか,という点が問題となります。この点については,裁判例上は,たとえば売上が何%以上減っている必要がある,とか,企業実態の細かい部分はあまり重視されず,雇用主の判断が尊重される傾向にあるようです。
 もっとも,売上がむしろ右肩上がりであるとか,整理解雇を行ったにもかかわらず,その直後に新規採用を行っているとか,明らかに矛盾した行動をとっている場合は,人員削減の必要性がなかったものと判断される可能性が高くなります。

⑵ 新型コロナウィルス感染症を理由とする整理解雇の場合

 新型コロナウィルス感染症による売上減少を理由とする整理解雇の場合であっても,特別に緩やかに判断されるとか,逆に厳格に判断されるということはないでしょう。
 したがって,整理解雇時のキャッシュフローといった,会社の経営状況を客観的に示すことができる資料が準備しておく必要があり,かつそれで十分といえます。

2 解雇の必要性(解雇回避努力)

⑴ 総論

 次に,人を減らす必要はあるけど,解雇する必要があるのか,という点が問題となります。整理解雇を行う目的は人件費の削減ですから,解雇以外の方法によって目的を達成できるならば,解雇する必要はない,という考えに基づくものです。
 たとえば,残業を減らす,新規採用を控える,配転・出向させる,非正規従業員を雇止め・解雇する,希望退職者を募る,等といった方法があります。
 こういった措置を十分に講じることなく整理解雇に踏み切った場合,その解雇は無効とされる可能性が高くなります。

⑵ 新型コロナウィルス感染症を理由とする整理解雇の場合

 特に,新型コロナウィルス感染症を理由とする売上減少に対しては,厚生労働省の雇用調整助成金や中小企業庁の持続化給付金(2020年5月1日より申請開始)を始めとした,様々な経済的支援策が講じられています。解雇を回避するためにこのような経済的支援策を受けることを検討したか,実際に申請したか,という点も考慮されると考えられますので,むしろ平時より整理解雇しにくい状況にあるといえるでしょう。

3 人選の合理性

⑴ 総論

 さらに,人を減らす必要があり,解雇する必要もあるけど,誰を解雇すればいいか,という点が問題となります。解雇というものは労働者の生活に対して大打撃を与えるものですから,経営不振だからといってこれにかこつけて以前から辞めさせようと思っていた労働者をやめさせよう,というのはもってのほかで,できるだけ公正に選ぶ必要があるということです。なるべく,被解雇者が納得できる合理的で公正な基準を用いるべきであるといえます。
 では,どのような基準を用いるべきでしょうか。この点,裁判例上は,「勤務成績」,「勤続年数」,「労働者の生活上の打撃の程度(たとえば,扶養家族の有無・人数)」を基準とするのが合理的であるとされています。反対に,「責任感」や「協調性」といった抽象的な基準は,合理的でないと判断される可能性が高いといえます。
 もっとも,ここに挙げた基準も一例にすぎません。企業によって,またタイミングによって,合理的な基準が何かは当然変わってくるでしょう。

⑵ 新型コロナウィルス感染症を理由とする整理解雇の場合

 新型コロナウィルス感染症を理由とする整理解雇の場合も同じです。たとえば,国内にいくつかある事業所のうち,1つの事業所の売上減少が特に著しく,当該事業所を閉鎖せざるを得ないという場合,当該事業所の労働者を整理解雇の対象とすることは合理的といえるでしょう(もちろん,当該事業所の労働者に対し,解雇回避努力を尽くしたのであればの話です)。

4 手続の妥当性

⑴ 総論

 最後に,人員を減らす必要があり,解雇もやむなし,その対象者の選び方も合理的だけど,ちゃんと労使間で協議がされたか,という点が問題となります。整理解雇をすること自体がどれだけ合理的だったとしても,労働者側に十分に説明されているか,納得を得るために誠意をもって協議したか,というのも非常に大事だということです。
 このような手続は,労働協約や就業規則に定められている場合はもちろんのこと,そうした規定がなくても,信義則上行わなければならないと解されています。整理解雇というのは,もっぱら雇用主側の問題で労働者の生活に大打撃を与えるものですから,労働者が納得している,あるいは納得を得るために誠意を尽くした,ということが重視されるということです。

⑵ 新型コロナウィルス感染症を理由とする整理解雇の場合

 新型コロナウィルス感染症を理由とする整理解雇の場合もやるべきことは変わりません。売上が減少しており,解雇以外の策がなく,人選が合理的であることを労働組合あるいは労働者に誠意をもって説明するのみです。
 その際,会社の売上状況や回復の見込み,給付金の申請状況等といった客観的資料を示すのが望ましいといえるでしょう。

第4 まとめ

 以上のように,新型コロナウィルス感染症の影響により売上が減少したからといって,整理解雇が特別扱いされるわけではありません。上記4要素を検討せず,漫然と整理解雇を行えば,被解雇者からその効力を争われ,解雇期間中の賃金支払を請求され,その対応に追われ本来の業務に支障が生じ,余計に経営状態が悪化するおそれもあります。
 そのような事態に陥らないためにも,きちんと上記4要素を検討する必要があります。そして,少しでも不安を感じられるのであれば,早い段階で弁護士に相談した方がよいでしょう。