読むポイントここだけ
この裁判例は、内部告発の正当性は、内容の真実性、告発の目的、内部告発の当該組織にとっての重要性、手段・態様の相当性という4要素の総合考慮により判断されるものであり、本件内部告発は、正当な行為として法的保護に値し、内部告発者への不利益な取扱いは違法であり許されないとしました。
事案の概要
(1) Y社は貨物自動車運送業務等を営む株式会社であり、XはY社に入社しました。Xは入社後、運送業界において、ヤミカルテルが取り決められていく様子を知りました。Xは、新聞社に本件ヤミカルテルが結ばれていることを告発し、本件ヤミカルテルに関する新聞記事が掲載されました。
続いてXは、公正取引委員会や労働組合、運輸省などに本件ヤミカルテルの存在を訴えました。
その結果、公正取引委員会の一斉立入検査が行われ、運輸省は、Y社を含む運送会社10社に対し特別監査を行い、これらの運送会社に厳重警告処分を行いました。
(2) Xが内部告発の当事者であることがY社に明らかになった後、Xは旧教育研修所に異動となり、雑務のみ与えられるようになりました。その後も、Xは異動がありましたが、仕事の内容は、旧研修所での仕事と大きく異なることはありませんでした。Xは、内部告発者であることが発覚して以降、一度も昇格することはありませんでした。
(3) Xは、Y社による一連の不利益取扱いは、正当な内部告発への報復であり、雇用契約上の平等取扱義務違反、債務不履行又は不法行為に該当すると主張し、賃金差額相当額、慰謝料、謝罪文を求める訴えを提起しました。
判旨・判決の要約 一部認容、一部棄却
(1)内部告発の真実性
本件内部告発に係る事実は真実であったか、少なくとも真実であると信ずるに足りる合理的な理由があったといえる。
(2)内部告発の目的の公益性
本件ヤミカルテルは、公正かつ自由な競争を阻害しひいては顧客らの利益を損なうものであり、告発内容に公益性があることは明らかである。
(3)内部告発方法が組織に与える影響
告発先が全国紙の新聞社であり、告発に係る違法な行為の内容が不特定多数に広がることが容易に予測されたことから、少なくとも短期的にはY社に打撃を与える可能性がある。
(4)内部告発の手段・方法の相当性
管理職でもなく発言力も乏しかったXが、十分な内部努力もしないまま外部の報道機関に内部告発したことは無理からぬことというべきであり、内部告発の方法が不当であるとまではいえない。
(5)正当性の有無:結論
告発に係る事実が真実であるか、真実であると信じるに足りる合理的な理由があること、告発内容に公益性が認められ、その動機も公益を実現する目的であること、告発方法が不当とまではいえないことを総合考慮すると、Xの内部告発は正当な行為であって法的保護に値する。
(6)不法行為責任・債務不履行責任
Y社の行為は、人事権の裁量の範囲を逸脱する違法なものである。
また、Y社の行為は、正当な内部告発によっては人事権の行使において不利益に取り扱わないという信義則上の義務に違反したものというべきである。
解説・ポイント
公益通報者保護法は、通報を理由とする不利益取扱いから通報者を保護する民事ルールであり、一定の要件の下、通報を理由とする解雇、免職、派遣労働契約の解除を無効とし、その他不利益取扱いを違法とするものです(公益通報者保護法3条・5条)。
公益通報者保護法は、平成16年6月に公布され、平成18年4月から施行されています。本件は、公益通報者保護法の施行前に問題となった事案ですが、公益通報者保護法の施行前は、一般法理により一定の場合に内部告発が正当化されています。
この取扱いは、仮に公益通報者保護法の要件を満たさなかった場合も同様です。すなわち、告発内容、告発の目的、手段・態様の相当性を総合考慮して、告発行為の違法性が阻却されるかが検討されることになります。