はじめに

1 遺言書の作成件数は年間約10万件

 遺言書は、法律実務家以外の一般の方にも周知され、比較的馴染みのある言葉ですが、遺言書を遺しておくケースは余り多くありません。
 
 たとえば、遺言書の1つである公正証書遺言の作成件数は、平成24年には8万8156件であり、その後少しずつ増加し平成30年には11万471件となりましたが、直近の令和3年には10万6028件と減少しており、公正証書遺言の作成件数については、例年概ね10万件前後で推移していることが分かります(日本公証人連合会HP参照)。

 令和4年6月3日に厚生労働省が公表した2021年の「人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、令和3年の65歳以上の高齢者の死亡者数は131万4149人であることが分かります。
 
 遺言書に対する関心は増加していると言われていますが、この高齢者の死亡者数に比べると、公正証書遺言以外の遺言書の作成件数を考慮したとしても、実際のところ、遺言書作成の件数はまだかなり少ないものと考えられます。

2 遺言書作成件数が伸び悩む原因

 遺言書作成件数が増加しない原因は多数あると思われますが、いくつか挙げると、自分には遺す財産もないから遺言書は必要ない、(相続人となる)子どもたちは仲が良いから自分が亡くなっても遺産分割で揉めることはない、遺言書を作成するとすぐに亡くなりそう、遺言で自身の死後の話をするのは縁起が悪い、だから遺言書を作成しないと考えていること等が原因となっているようです。

 遺言によりできることは財産の分配だけでありませんし、自分から見て仲の良い子供たち相続人が周囲の人々の思惑(相続人の配偶者など)も絡んで遺産分割で揉めることはあり得ます。
 また、遺言書を作成することを縁起が悪いと考える人もいるかもしれませんが、遺言書を作成しておくことは、遺された家族やこれまでお世話になった周囲の人々のためにもなるものです。
 
 死期が迫った時に作成しようとしても、病状が急速に悪化してそれどころでなくなったり、死ぬ間際に作成した遺言書が作成者の死後、親族によって、遺言書が正常な判断能力があるうちに作成されたものではないから遺言は無効であると主張する場合も考えられます。
 
 このように、さまざまな理由から遺言書を作成したくないと思っていること作成しようとしてもタイミングを逸していることが遺言書作成の件数が伸び悩む原因になっているようです。

3 遺言書は今から準備しておく

 人生は何時、何が起こるか分かりません。縁起が悪いと考える方もいるかもしれませんが、遺される方達のためにも遺言書を作成しておくべきです。
 遺言書は15歳以上であれば誰でも作成が可能であり(民法961条)、遺言書の作成対象者は高齢者の方に限るものでもありません。
 何度でも遺言書の内容を変更し、修正することができますので、遺言書の意義を正しく理解し、今から遺言書の作成準備をすすめておきましょう。

遺言書作成のメリット

 遺言者は、遺言書を作成し遺言により相続人の遺留分(最低限の相続分)を侵害しない範囲で遺産を分配することができます。
 遺言書を作成することにより遺産分割の際に相続人間で揉めるリスクを相当程度軽減することができます。

 その他にも特定の相続人に遺産を相続させたくない場合や相続人以外の第三者に財産を渡したい場合、税法上の特例の適用を受ける場合など多くのメリットがあります。

 遺留分侵害額請求により請求できる期間は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間と短期間であることから、遺留分侵害額請求権が行使されない場合も考えて、特定の相続人の遺留分を侵害した遺言書の作成が行われるケースもあります。

遺言書の意義と種類

1 遺言書とは

 遺言書とは、主に被相続人が生前に被相続人の相続財産について、相続人らに対して分配額や分割方法などを記載した書類をいいます。
 一般的に、遺言は「ゆいごん」と読んでいますが、法律実務家は「いごん」と読んでいます(弁護士など法律実務家は、ご相談者やご依頼者の方と話す際には馴染みのある「ゆいごん」を使い、法律実務家間では「いごん」と読んで使い分けていることがあるようです)。

 なお、遺言書の作成は、厳格な方式が法定されており、方式に従った作成がなされていない場合には法的効力が否定されるので注意が必要です。
 たとえば、遺言は書面によらなければ法的な効力は認められません。そのため、口頭のみの遺言や録音テープ、ビデオ撮影による遺言では法的な効力は生じません

2 遺言書の種類(普通方式)

 遺言書の種類には大きく分けて普通方式によるものと、特別方式によるものがあります。普通方式の遺言書には、自筆証書遺言(民法968条)や公正証書遺言(民法969条・969条の2)、秘密証書遺言(民法970条~972条)の3種があります。

⑴ 自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは、遺言者自らが1人で作成できる遺言書のことをいいます。内容も存在も誰にも知らせる必要はなく、紙とペンがあれば作成できるので、作成方法が最も簡易で安価な遺言書といえます。

 他方で、遺言者自らが1人で作成するため法定の要件が具備されず法的効力が認められないおそれ紛失・偽造のおそれ家庭裁判所の検認手続が必要、遺言者の死後遺言書が発見されないおそれなどのデメリットがあります。

 もっとも、現在法務局において自筆証書遺言を保管できる制度を利用することができます(令和2年7月から運用開始)。この制度を利用することにより、文章の内容が不明である場合に無効となるおそれ(要件不備)以外の大きなデメリットがなくなります。

⑵ 公正証書遺言

 公正証書遺言とは、遺言者が公証人に対して口頭で遺言の内容を説明し、遺言の内容に沿って公証人が作成し公証役場に保管される遺言書のことをいいます。

 公証人は、裁判官や検察官、弁護士の経験を長年有する法曹資格者などが就任しているため正確な法律知識と豊富な実務経験を有しています。そのため、方式の不備などにより遺言書が無効となるおそれがありません。 
 また、自筆証書遺言と異なり、自書が不要であることや家庭裁判所の検認手続が不要であること、必ず公証役場に保管されることなどから公正証書遺言は最も安全かつ確実な遺言といえます。

 他方で、公正証書遺言はその作成に公証人と証人2人が必要となり、手数料もかかることから自筆証書遺言より時間と費用が発生することや遺言書の内容を公証人と証人に知られてしまうというデメリットがあります。

⑶ 秘密証書遺言

 秘密証書遺言とは、遺言者自ら作成した遺言書を封筒に入れて押印し、公証人が関与して遺言書の存在を証明する方法により作成する遺言書のことをいいます。

 秘密証書遺言は自筆証書遺言と同じように内容を誰にも知られることなく、パソコンなどを利用して自書以外でも作成できる点にメリットがあります。

 もっとも、法定の要件不備により法的効力が認められないおそれや、秘密証書遺言は遺言者自身が保管する必要があるため紛失・偽造のおそれ、公証人への証明依頼のための時間と費用が発生する等のデメリットがあります。

 秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の特徴を一部併有した折衷的な遺言といえますが、両遺言のデメリットもほぼ全て有しているため、デメリットが大きく現在では余り利用されていません

3 遺言書の種類(特別方式)

 特別方式の遺言には、死亡危急者遺言(民法976条)、伝染病隔離者遺言(民法977条)、在船者遺言(民法978条)、船舶遭難者遺言(民法979条)の4種があります。
 
 特別方式の遺言は、緊急性の高い状況で作成されることが予定されているため、普通方式の遺言と比べて法定の要件が緩和されており、遺言者が普通方式の遺言を作成できるようになった時から6カ月間生存するときに当然に失効することになります。

⑴ 死亡危急者遺言

 死亡危急者遺言とは、疾病その他の事由により死亡の危急が迫った者が行う遺言のことをいいます。
 死亡危急者遺言は、①証人3人以上の立会いが必要であること、②証人の1人に「遺言の趣旨」を口授すること、③口授を受けた証人は遺言の趣旨を筆記して遺言者及び証人に読み聞かせるか閲覧させること、④各証人の承認により署名・押印することにより行います。

⑵ 伝染病隔離者遺言

 伝染病隔離者遺言とは、伝染病のため行政処分により交通を断たれた場所にいる者が行う遺言のことをいいます。
 伝染病隔離者遺言は、①警察官1人及び証人1人以上の立会いが必要であること、②遺言者、筆者、立会人及び証人が各自遺言書に署名・押印することにより行います。

⑶ 在船者遺言

 在船者遺言とは、船舶中に在る者が船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いをもって作成する遺言のことをいいます。
 在船者遺言も伝染病隔離者遺言と同じように、①警察官1人及び証人1人以上の立会いが必要であること、②遺言者、筆者、立会人及び証人が各自遺言書に署名・押印することにより行います。

⑷ 船舶遭難者遺言

 船舶遭難者遺言とは、船舶遭難の場合に船舶中で死亡の危急が迫った者が行う遺言のことをいいます。
 船舶遭難者遺言は、証人2人以上の立会いの下、口頭により行います。証人は遺言の趣旨を筆記して署名・押印し、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求して確認を得ることが必要となります。

遺言書作成の方法・手続

 普通方式による遺言の作成方法および手続きは以下の通りとなります。
 特別方式の方法・手続きは上記「3遺言書の種類(特別方式)」をご確認下さい。

1 自筆証書遺言

⑴ 全文を自書すること

 遺言者は原則として遺言書の全文を自ら書かなければなりません
 自書であることを求める趣旨は、自書により本人の筆跡であることを確認して真意に基づくものであることを確認する点にあります。
 自書であれば外国語で作成してもよいですが、パソコンやタイプライター、点字器、コピーにより作成することはできません。

 カーボン紙による作成については争いがありますが「本人の筆跡が残り筆跡鑑定によって真筆かどうかを判定することが可能であって、偽造の可能性はそれほど大きくない」との原審の判断を認めた判例もありますので(最判H5.10.19判タ832-7)、微妙な事案の場合は弁護士などの専門家に相談してみるのがよいでしょう。

⑵ 日付を自書すること

 遺言者が自筆証書遺言を作成するにあたって、証人や立会人がいないため、日付の自書は不可欠となります。
 また、日付は遺言書全部が完成した日を表示するものでなければなりません。実際に遺言書を作成した日と遺言書に記載した日がズレている場合には、実務上、遺言書に記載された日付に遺言書が成立したものとして扱われています(最判S52.4.19金判535-45)
 
 なお、作成日の年号は、西暦でも和暦でも構いませんが「吉日」とすることは、作成日が特定できないため有効な遺言書とは認められなくなります。

⑶ 署名すること

 遺言者を特定するために署名する必要があります。
 署名は遺言証書に行う必要があり、遺言書が数枚にわたる場合でも1通の遺言書として作成されている場合は、署名は遺言証書1枚に行えば足りるとされています(最判S36.6.22民集15-6-1622)。
 
 なお、署名は遺言書を特定できればよく、通称やペンネーム、雅号などでもよいとされています。

⑷ 押印すること

 遺言書への押印は、遺言書作成の真正及び文書完成を担保するために必要とされています。
 押印は三文判でも拇印、指印でもよく、実印である必要はありません。押印自体は、遺言者本人の意思の下で行われていれば本人の依頼を受けた他人が押印したものでもよいとされています(大判S6.7.10民集10-736)。
 
 押印は遺言の本文が記載された用紙上になされていれば足り、必ずしも署名の直下になされている必要はありません。
 遺言書が数枚にわたる場合でも1通の遺言書として作成されている場合は、押印は遺言証書1枚に行えば足りるとされています(最判S36.6.22民集15-6-1622)。

⑸ 財産目録の作成

 不動産の地番・地籍や預貯金債権の金融機関名・口座番号等を記載する財産目録は、自書による必要はなく、パソコンや遺言者以外の第三者の代筆による作成が認められています。
 ただし、財産目録として添付する書類各ページには遺言者の署名及び押印が必要とされます(民法968条2項後段)。

⑹ 記載内容を加除・訂正する場合

 遺言書の記載を加除・訂正する場合、偽造・変造防止のため、以下の手順を踏むことが必要とされます。

① 削除部分を二条線で消す
② ①の二条線の上に印鑑を押す
③ 加除・訂正後の正しい文言を記載する。
④ 余白に加除・訂正した箇所と文字数を付記する
⑤ 加除・訂正した文字数の脇に署名する

 所定の方式に従った修正を行わないと修正自体が無効となります。
 このように、遺言書の記載内容を修正することはとても面倒なので、遺言書作成前に予め下書きをしておくことが重要です。

⑺ 遺言書が数枚にわたる場合

 遺言書の偽造・変造を防止するためにホチキスで綴じるなどして、各ページにページ番号をふり、契印を押すなどするとよいでしょう。

⑻ 適切な場所に保管する

ア 貸金庫などに保管する

 自筆証書遺言は、他人が知ることがない場所に保管されなければなりませんが、遺言者の死後遺言書が発見されないという事態も避けなければなりません。
 そこで、信頼できる人に保管を依頼したり、貸金庫などに保管して保管場所を信頼できる人に伝えておくという方法が考えられます。

イ 自筆証書遺言保管制度を利用する

 令和2年7月より自筆証書遺言を法務局において保管する遺言書保管制度が創設されました。
 法務局における遺言書保管制度を利用した場合、公正証書遺言の場合と同じように、遺言書の紛失や破棄、隠匿、改ざん等の危険を防止することができ、家庭裁判所による検認の手続きも不要となります。
 周りに遺言書の適切な管理を任せることのできる者がいない場合には、自筆証書遺言保管制度を利用して法務局に保管することを検討してみるとよいでしょう。
 
 自筆証書遺言保管制度の概要、手続き、手数料など詳しい内容は法務省HPをご覧下さい。

2 公正証書遺言

⑴ 公証人が作成する

 公正証書遺言は遺言者が公証人に遺言の内容を伝えて、公証人が作成することになります。

⑵ 具体的な作成手順

 公正証書遺言は以下の手順に従って作成されることになります。

ア 証人2人以上の立会い(民法969条1号)

 証人2人の立会いが必要となります。
 未成年者や推定相続人、受遺者、受遺者の配偶者、直系血族などは利害関係人にあたるため証人となることができません。
 証人は、遺言の手続きの最初から最後まで立ち会わなければならず、遺言者の「口授(くじゅ)」と公証人の筆記内容に誤りがないかを確認できる状況で立ち会わなければなりません。

イ 遺言者が遺言の趣旨を公証人に「口授」する(民法969条2号)

 「口授」とは遺言者が口頭で遺言の内容を伝えることをいいます。
 そのため、遺言者は原則として口頭で公証人に遺言の内容を説明することが必要となります。耳や口が不自由な方の場合は、筆談や通訳人、手話などにより遺言の内容を伝えることになります。

 遺言者が公証人の質問に対し、言語をもって陳述することなく、単に肯定又は否定の挙動を示したに過ぎないときや遺言者が頷くだけでは「口授」があったとはいえないので注意が必要です(最判S51.1.16家月28-7-25、最判S52.6.14家月30-1-69)。

ウ 公証人が遺言者の「口授」を筆記する(民法969条3号)

 公証人は遺言者から聞いた遺言の内容について、遺言者の意思を確認し、戸籍や不動産の登記簿謄本などの必要な資料に基づいて作成作業(筆記)が行われます。

エ 筆記した内容を確認させる(民法969条3号)

 公証人は筆記内容を遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧させて筆記内容が正確なことを確認させることになります。
 読み聞かせる行為は、公証人自身がしなくてもよく、公証人の立会いの下で第三者に行わせることもできると考えられていますが(通説)、遺言者の真意を担保する観点から公証人自身に読み聞かせや閲覧を行わせるべきです。

オ 遺言者及び証人が署名・押印する(民法969条4号)

 遺言者及び証人は筆記が正確なことを確認した後、各自遺言書に署名・押印することになります。遺言者が自ら署名できない場合は、公証人がその旨を付記して署名に代えることができます。

カ 公証人が署名・押印する(民法969条5号)

 公証人は以上ア~オの方式に沿って遺言書が作成された旨を付記して、遺言書に署名・押印することになります。その後、遺言書は公証役場で原本を保管することになります。公正証書遺言は原本と正本、謄本の3部が作成され、正本と謄本は遺言者に返されることになります。

⑶ 作成手順が異なる場合

 高齢者や病気の遺言者に対する公正証書遺言として、上記⑵の作成手順によらず作成される場合があります。
 
 たとえば、遺言者からの依頼により予め公証人が遺言証書を作成し、その後遺言者から口授を受け、口授の内容が予め作成した遺言証書と内容が同じであることを公証人が確認し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させた上で、遺言者及び証人が正確性を確認し、署名・押印するという手順で公正証書遺言が作成される場合があります。
 実務ではこのような順序で作成された公正証書遺言も、全体として方式を踏んでいれば有効として取り扱われています(最判H16.6.8金法1721-44)。

⑷ 公正証書遺言作成のために必要な資料

 公正証書遺言作成のためには以下の資料が必要となります。

①遺言者の印鑑証明書交付後3か月以内のもの)
②遺産をもらう人が相続人であるときは遺言者との続柄が分かる戸籍謄本、その他の場合は住民票の写し
③遺産に不動産がある場合は、登記簿謄本及び固定資産評価証明書
④証人の住民票の写し

3 秘密証書遺言

⑴ 遺言者が遺言証書に署名・押印する

 遺言者は作成した遺言証書に署名・押印することが必要となります(民法970条1項1号)。
 自筆証書遺言と異なり、遺言者の自書は必要とされておらず、パソコンでの作成や他人の代筆により作成も認められています。また、証書中の日付の記載も必要とはされていません。

⑵ 封紙へ封印する

 遺言者は遺言証書を封紙に封じ、証書に用いた印象を用いてこの封紙に封印することが必要となります。

⑶ 公証人及び証人に申述する

 遺言者は、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、これが遺言者自らの遺言書であることと、筆者の氏名・住所を述べる必要があります(民法970条1項3号)。
 公正証書遺言の作成時と同様、未成年者や推定相続人、受遺者、受遺者の配偶者、直系血族などは利害関係人にあたるため証人となることができません。
 
 なお、ここで言う「筆者」とは、現実に筆記を行った者をいいます。
 遺言証書を他人に代筆して貰った場合は、その「他人」が筆者となります。遺言証書を他人に代筆して作成して貰った場合、遺言者が自ら作成したと申述することは認められていません。

⑷ 遺言者及び証人と共に署名・押印する

 公証人は、遺言証書を提出した日付と遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに封紙に署名・押印することが必要となります(民法970条1項4号)。
 自筆証書遺言とは異なり、遺言証書中に日付が記載されている場合も、公証人が封紙に記載した日付が秘密証書遺言作成の日付となります。

⑸ 記載内容を加除・訂正する場合

 秘密証書遺言の加除・訂正は、自筆証書遺言の加除・訂正の方法に準じて行う必要があります(民法970条2項、968条3項)。

遺言書作成にかかる費用

 普通方式による遺言書の作成にかかる費用の目安は以下のとおりとなります。

1 自筆証書遺言

 遺言者自らが遺言書を作成する場合には費用は発生しません。
 もっとも、要件不備により遺言が無効となるリスクがあるため、予め弁護士などの専門家に遺言書の内容をチェックして貰うか、遺言書の作成を依頼した方がよいでしょう。

 弁護士に遺言書の作成を依頼した場合、書面作成料として11万円(税込)から数十万円の費用が発生します

 自筆証書遺言作成のメリットは、費用が発生しない又は少なくて済む点にあるので、予め自ら作成した遺言書について無料法律相談などを活用してリーガルチェックして貰うなど、出来るだけ費用を抑えるように工夫するとよいでしょう。

2 公正証書遺言

⑴ 公証人手数料

 公正証書遺言を作成する場合には、公証人手数料が発生します。
 
 たとえば、目的財産の価額が100万円以下の場合は、公証人手数料は5000円となります。また、目的財産の価額が500万円を超え1000万円以下の場合は、公証人手数料は17000円となります。
 
 このように、公証人の手数料は、遺言の目的となる財産の価額により異なります。公証人手数料については、日本公証人連合会HPをご確認ください。
 公証人手数料の算出にあたり、目的財産の相続又は遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、その価額に対応する手数料を求めた上でこれらの手数料額を合算して、当該遺言公正証書全体の手数料を算出することになります。

⑵ 弁護士費用

 公正証書作成遺言は公証人が作成しますが、公証人に作成を依頼する前に予め遺言書の案文を遺言者自らが準備することになります。
 この際、遺言書の案文の作成を弁護士に依頼すると書面作成手数料が別途発生することになります。 

 弊所に公正証書遺言の作成をご依頼いただく場合の費用は、33万円~(税込み)となっております。事案によっても見積額は変わって参りますので、お気軽にご相談ください(初回相談、お見積もりは無料)。
 
 弊所にて公正証書遺言の作成のご依頼を頂く場合、弁護士がご依頼者様と面談を行いご希望に沿った案文を作成することは勿論のこと、その他にも、必要となる資料の収集(戸籍、不動産登記など)、公証人役場との日程調整や事前の案文確認・修正作業、証人としての立会いなど、公証役場での公正証書遺言に必要な業務についてはすべて弊所で行います。

3 秘密証書遺言

 秘密証書遺言は遺言者自らが作成するため書面作成については費用は発生しません。もっとも、公証人への申述など公証人の関与が必要となるので公証人手数料が発生します。
 秘密証書による遺言方式に関する記載についての手数料は、定額で1万1000円(手数料令28条)とされています。

4 遺言執行者への報酬

⑴ 遺言執行者が必要な場合

 遺言内容を法的に実現するために執行行為を必要とするものがあります。
 たとえば、①遺言による認知(民法781条2項)、遺言による相続人の廃除(民法893条)などは必ず遺言執行者が行わなければなりません(民法1012条)。

⑵ 遺言執行者は弁護士が適任

 遺言の内容を実現するための執行行為は、未成年者や破産者を除いて誰でも可能ですが、執行行為には登記手続きや各種裁判手続きなど法的知識が必要となる場合があります。
 遺言者の遺志に沿った遺言書の内容を公平な立場で適切に実現するためには、法律の専門家である弁護士が行うのが望ましいと考えます。 

 弁護士に遺言執行者として執行行為を依頼する場合には、弁護士費用が発生することになります。弁護士費用は相続財産の価額に応じて異なりますが、たとえば、相続財産の価額が300万円以下の場合であれば33万円(税込)のように、多くの事務所では旧弁護士会報酬基準規程に沿った報酬基準を定めています

遺言書に関するご相談は弁護士法人いかり法律事務所へ

 相続人の範囲や相続財産を調査し、遺言者の希望に沿った最適な遺言書を作成し、又はそのアドバイスを行うことは法律の専門家である弁護士が最も得意とする業務の1つです。

 弁護士法人いかり法律事務所には遺言書の作成、遺言の執行行為など遺産分割・相続問題の相談・解決実績が豊富な弁護士が多数在籍しています。遺言書の作成や遺言の執行などについて少しでも気になることがありましたら、まずは無料法律相談をご予約の上、お気軽にご相談下さい。