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この判例は、使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない政治目的のために争議行為を行うことは憲法28条の保障とは無関係なものであり正当性は認められないと判断しました。
事案の概要
(1)Xらは、Y社の従業員であり、また全日本造船機械労働組合三菱重工支部長崎造船分会の役員であった。
Xらは長崎県労働組合評議会の方針に従い、原子力船の入港及びこれに対する政府、長崎県らの方針・施策等に抗議して上記長崎分会の組合員243名に対し、Y社の中止申し入れを無視して30分ないし1時間の職場離脱をするように指令し、実行された。
(2)Y社は、Xらに対して企業にとって対処不能かつ何らの要求もない事項によるストライキは・・・職場秩序維持上看過できないとして、上記ストを指揮・補佐したXらを出勤停止5日ないし3日の懲戒処分に付した。
(3)Xらは、本件懲戒処分が正当な争議権行使に対してなされたもので、無効であるとして、その確認を求めて提訴した。
第一審:請求棄却
控訴審:控訴棄却
判旨・判決の要約 上告棄却
使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない政治目的のために争議行為を行うことは、憲法28条の保障とは無関係なものであると解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁昭和43年(あ)第2780号同48年4月25日大法廷判決・刑集27巻4号547頁)とするところであり、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違憲はない。
解説・ポイント
「争議行為」とは、団体交渉において要求を貫徹するために使用者に圧力をかける労務不提供を中心とした行為であり、労務不提供を伴わない「組合活動」とは異なります。
ストライキは、労務の不提供を伴いますので「争議行為」に当たりますが、政治ストライキの場合、政治的な主張を行うためのものであるため、通常のストライキとは異なって使用者が直接の名宛人となりません。つまり、使用者側では組合の要求にそもそも応えることはできません。
争議行為の正当性は、争議行為の主体、目的、手続、態様の4つの点から判断されることになりますが、政治ストは、使用者に対して労働条件や待遇とは直接関係のない要求事項を掲げるため、上記目的には正当性が認められないことになります。
本判決は、政治ストが目的において争議行為として正当性が認められないと判断した点に意義があるものといえます。