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この判例は、未組織労働者は労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は未組織労働者の労働条件を改善しその他の利益を擁護するために活動する立場にないことから、労働協約の適用が著しく不合理と認められる特段の事情があれば、例外的に、一般的拘束力を協約に認めないと判断しました。
事案の概要
(1)Xは鉄道保険部職員として訴外A保険株式会社で雇用された後、Y社がAの鉄道保険業務を引き継いだため、Aとの労働契約を合意解約し、Y社で勤務していた。
内容の統一につき合意が成立するまで、労働協約・就業規則は鉄道保険部の定めたものによるとされ、労働組合統合後、順次、労働条件を統一するも、定年年齢の統一は合意に至らなかったため鉄道保険部出身の労働者の定年は満63歳であるのに対し、それ以外の労働者の定年は満55歳であった。
(2)労働組合とY社は労働協約を締結し、就業規則の定年に関する部分及び退職手当規程を協約と同内容に改訂するとともに、特別社員規程・特別社員給与規程を新設した。
(3)XはY社の北九州支店の営業担当調査役であったため、非組合員とされていたが、同支店では従業員の4分の3を組合員が占めていたことから、Xには就業規則に加えて協約の効力も及ぶとされていた。
Xが57歳に達していたことから、新協約、就業規則に基づき、昭和58年4月1日にさかのぼって労働条件が変更されたとして、Y社は同年5月分からは、特別社員給与規程に基づく給与のみを支給し、6月の賞与支給では、既に支払済みの4月分給与と特別社員給与規程に基づく給与との差額を過払い分として控除した。
また、Xを3月末日に定年退職したものと扱い、基本給の60か月相当分の退職金を支給した。昭和62年12月10日、特別社員再雇用期間満了によりXはYを退職したものとし、以降の就労を拒否して賃金を支払わなかった。
(4)Xは、Y社に対して労働契約上の地位確認及び賃金支払を求めて提訴した。
第一審:一部請求認容(Xの請求が一部認められた)
控訴審:控訴棄却(Y社の請求が否定された)
判旨・判旨の要約 上告棄却
(1)具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約や事後に変更された就業規則の遡及適用により処分又は変更することは許されないから、Y社はXに対し、本件労働協約及び就業規則の変更の効力が生じた昭和58年7月11日までの賃金支払義務を負う。
(2)一般的拘束力を労働協約に認める労組法17条の適用に当たっては…不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でない。
けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない…からである。
(3)労組法17条の趣旨は、主として一の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから…未組織の同種労働者の労働条件が一部有利なものであることの故に労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
(4)しかしながら、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格が認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。
(5)本協約により、Xはすでに定年に達していたと扱われ、さらに、退職金も減額されるという、専ら大きな不利益だけを受ける立場にある。
Xは協約により非組合員とされていたことを考慮すると、こうした不利益を甘受させるのは不合理であって本件労働協約の効力はXには及ばないと解すべきである。
解説・ポイント
労働協約の不利益変更も原則として、労働組合の協約締結権限の範囲内であり、非組合員にも労働協約の効力が及ぶこと(拡張適用)からすると、原則として非組合員にも不利益変更の効力は及ぶといえます。
もっとも、本事案は、非組合員に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情がある場合には拡張適用を及ぼすことはできないと判示しています。
上述のとおり、非組合員(本件の未組織労働組合員のこと)は労働組合の意思決定に関与できず、労働組合もまた非組合員の利益を擁護するために活動しているわけではないからです。
なお、他の労働組合に加入している労働者には拡張適用は及びません。他の組合に保障される団体交渉権を侵害することになるからです(憲法28条参照)。
本判例の意義は、労働協約による労働条件の不利益変更は、原則として、未組織労働組合員にも一般的拘束力が及ぶものの、未組織組合員の立場上、組合の意思決定に参加できないこと、組合も未組織組合員の利益を図る立場にもないことから、未組織組合員への拡張適用が著しく不合理といえる特段の事情がある場合には、拡張適用を認めなかった点にあるといえるでしょう。