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この判決は、使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して、労働者が時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできないと判断しました。
事案の概要
(1)音楽院を個人経営し、学校法人の理事長に就任していた者が賃金体系の変更を行ったため、役職者については時間外手当が支払われないこととなった。
(2)当該音楽院の従業員らは労働組合を結成し、当該経営者と三六協定を締結した。
三六協定の締結前、当該経営者は三六協定が未締結であることを理由として、職員の時間外労働及び休日労働を禁止し、残務がある場合には役職者が引き継ぐ旨の業務命令を発していた。
(3)原告らには、教務部長として講師や学生の管理等の業務を、事業部長として学生募集等の広報業務と経理業務を担当する者や教務課長などがいた。
(4)原告らは、時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めて訴えを提起した。
第一審は従業員らの請求を一部認容した。
判旨・判決の要約 控訴棄却,附帯控訴一部認容,一部棄却
(1)労働基準法41条2号の規定に該当する者が時間外手当支給の対象外とされるのは、その者が、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨に出たものと解される。
(2)原告らが、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を経営者から実質的に付与されていたものと認めることは困難である。
(3)原告らに支給される基本給と役職手当だけでは、厳格な労働時間の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていると認めることは困難である。
解説・ポイント
労働基準法上の管理監督者とは、労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
労働基準法上の管理監督者に当たるか否かは、
①経営者と一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているか、
②労働時間に関する自由裁量性が認められ、その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか、
③賃金等の面で管理監督者にふさわしい待遇がなされているか
の要件から判断されます。
なお、深夜手当に関しては、管理監督者であっても深夜業に関する労働基準法の規定は適用されるため、管理監督者に対しても深夜手当の支払義務があります。