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この判決は、就業規則の変更による不利益が、定年まで現時点の賃金水準を下回らないという合理的期待を損なうにとどまり、法的には既得権を奪うと評価することはできないから合理性を欠くとはいえないと判断しました。
事案の概要
(1)55歳定年制を採用する銀行において、健康な男子行員は、58歳まで賃金水準を落とさずに定年後も在職が確実であった。
(2)銀行は、就業規則を変更し定年年齢を60歳に引き上げた。
一方、55歳以降の賃金水準を従来の63%ないし67%に引き下げた。
(3)行員は、就業規則の不利益変更を無効と主張し、55歳以降の賃金につき従来の額との差額を求める訴えを提起した。
第一審及び控訴審ともに行員の請求を棄却
判旨・判決の要約 上告棄却
(1)本件就業規則の変更は、行員の約90%で組織されている組合との交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであるから、変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果として合理的なものと一応推測することができる。
(2)本件就業規則の変更による不利益は、58歳まで在職が確実で、その間54歳時の賃金水準を下回らないという合理的期待を損なうにとどまり、法的に既得権を奪うと評価することまではできない。
解説・ポイント
就業規則の不利益変更の合理性判断における基本枠組みは、労働者の受ける不利益の程度と労働条件の変更の必要性の比較衡量です。
賃金や退職金など労働者にとって重要な権利や労働条件に関しては高度の必要性が求められています。
また、就業規則が合理的なものであるかについて、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等の交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等様々な要素を総合考慮して判断するべきとされています。