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 この判例は、職務能力の低下を理由とする解雇の「客観的に合理的な理由」(労働契約法16条)について、労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し努力反省の機会を与えたのに改善されなかったか今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきであると判断しました。

事案の概要

(1) Y社は、アメリカに本社を置く世界規模の通信社である。Xは、他の通信記者として約13年勤務後、平成17年11月にY社に中途採用された。

(2) Xは、平成18年11月の勤務評価で「期待に満たない」との評価を受けた。平成19年6月から3か月間、Xの課題点改善のため「アクションプラン」が実施されたが、Xは設定された目標をすべて達成した。平成21年12月10日、XはYから課題点の改善を目的とするPIP(Performance Improvement Plan)を命じられたが、すべての目標を達成するには至らなかったと評価され、引き続き同内容のPIP実施後、自宅待機を命じられた。

(3) Y社は、Xに対して、平成22年7月20日付で、同年8月20日をもって解雇する旨の解雇予告通知書を送付した。同通知書には「社員の自己の職責を果たす能力もしくは能率が著しく低下しており改善の見込みがないと判断される場合」、「その他やむを得ない理由による場合」に当たると記載されていた。

(4) Xは、解雇は無効であるとして、労働契約上の地位確認及び平成22年8月分以降の賃金支払いを求めて提訴した。

第一審はXの請求を認容した。

判旨・判旨の要約 控訴棄却

(1)  職務能力の低下を理由とする解雇に「客観的に合理的な理由」(労働契約法16条)があるか否かについては、まず、労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し努力反省の機会を与えたのに改善されなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきである。

(2) XがY社において求められる職務遂行の内容及び態度は、それまでの通信社と勤務経験におけるものとは異なる面があることは否定できないが、本件全証拠によっても、社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められる水準以上の能力が要求されているとは認められない

(3) Xの上司・同僚との関係、執筆スピードの遅さ、記事本数の少なさ、記事内容の質の低さのいずれについても、労働契約の継続を期待できない程に重大なものとまでは認められず、また、Yの指示に従って改善を志向する態度を示しており、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠くものとして無効である。

解説・ポイント

 解雇は、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合には権利の濫用であるとして無効となるとされています。
 解雇の合理的理由(①)は、
イ)労働者の労働能力や適格性の低下・喪失
ロ)労働者の義務違反や規律違反行為
ハ)経営上の必要性という大きく3つの類型に分けられます。
 これらの理由のうち、どれかが存在したとしても、解雇は社会通念上相当なものとして認められなければなりません(②)。 
 実務上、裁判所は容易には解雇の社会的相当性を認めず、労働者側に有利な諸事情を考慮したり解雇以外の手段による対処を求めたりすることが多くあります。 

 本事例のように、単に能力・能率が低いだけではなく、労働契約の継続を困難とするほどの重大な能力低下がなければならず、また使用者として具体的に改善矯正策を講じても改善されず改善の見込みもないことが求められるなど能力不足による解雇が有効となる場面は非常に限定されることになります。 

 解雇の有効性については、労使間の間でトラブルになりやすい問題ですので、使用者は労働者の解雇前にその妥当性を弁護士などの専門家に確認することが必要でしょう。