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 この判決は、採用時に学歴、職歴や犯罪歴等の経歴を偽る経歴詐称、一般的には、使用者と労働者間の信頼関係を破壊し、労働力の評価を誤らせて、人事異動等に関する秩序を乱すものであるため、詐称された経歴が、最終学歴や職歴等、重要なものであることを前提として、経歴詐称は懲戒事由に該当すると判断しました。

事案の概要

(1) Y社は、中卒者又は高卒者を募集対象者として、旋盤工の求人をしたところ、Xがこれに応募し、Y社に雇用された。

(2) XがY社に提出した履歴書には、最終学歴をA高等学校卒業、「賞罰なし」と記載されており、採用面接ではXの学歴が聞かれたが、Xは、事実は大学を中退していたにもかかわらず、その事実を述べなかった。また、賞罰の有無の問い合わせについても賞罰は無い旨回答していた。

(3) 採用当時、Xは、刑事事件の公判係属中であり、入社後に執行猶予付きの懲役刑の判決がなされた。

(4) Xが大学中退者であること及び有罪判決を受けた事実が判明し、Y社は、Xの経歴詐称等が就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして、Xを懲戒解雇した。そこで、Xは、Y社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めて提訴した。

第一審:請求棄却・原審:控訴棄却

判旨・判決の要約 上告棄却

(1) 雇用関係は、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な関係であるから、使用者が雇用しようする労働者に対して、必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う。そのため、Xが経歴を偽ったことは懲戒解雇事由に該当する。
 また、雇用後に懲役刑に処せられたことは懲戒解雇事由に該当する。

(2) 以上の原審が適法に確定した事実関係の下において、本件解雇を有効とした原審の判断は正当として是認することができる 。

解説・ポイント

 経歴詐称も企業秩序違反を構成するものとして、懲戒解雇事由となり得ますが、裁判例はあくまでも重大な経歴詐称に限るものとしています。

 具体的には、企業の種類や性格に照らして、その経歴詐称が事前に発覚すれば、その者を雇用しなかったであろうと考えられ、客観的にもそのように認められることが必要です。そのようなケースでない限り、当該懲戒解雇は権利濫用として無効とされる可能性があるので、慎重な検討が必要です。