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この判決は,HIV感染症に罹患しているという情報を,本人の同意を得ないまま個人情報保護法に違反して取り扱った場合には,特段の事情のない限り,プライバシー侵害が成立すると判断しました。
事案の概要
(1)病院に勤務する看護師が血液検査の結果によりHIV陽性と診断された。
(2)HIV陽性であったことを本人の同意なく無断で勤務先の病院の医師らに伝えた。
(3)勤務先の病院において,院内感染対策が検討され,当該看護師をしばらく休ませる方針が決定された。当該看護師は,勤務先の副院長及び看護部長らの指示により,欠勤を続け,その後退職した。
(4)当該看護師は,本人の同意なく,勤務先におけるHIVの情報共有がプライバシーを侵害する不法行為にあたる等として,勤務先病院を経営する医療法人に対して,民法715条に基づく損害賠償を求めて提訴した。
第一審は請求を一部認容
判旨・判決の要約 原判決一部変更,一部認容
(1)個人情報保護法23条1項違反の有無
本件情報共有は,同一事業者内における情報提供であるから,第三者に対する情報提供には該当せず,個人情報保護法23条1項に違反しない。
(2)個人情報保護法16条1項違反について
HIV陽性と診断した病院から勤務先への本件情報の伝達は,労務管理目的であり,目的外利用に当たる。HIV陽性と診断された看護師の同意を得ることは容易であったと考えられ,それが困難であったとはいえない。
(3)不法行為の成否
HIV感染症に罹患しているという情報は,他人に知られたくない個人情報に当たる。本件情報を本人の同意を得ないまま個人情報保護法に違反して取り扱った場合には,特段の事情のない限り,プライバシー侵害の不法行為が成立する。
本件では,特段の事情は認められず,本件情報共有は,看護師のプライバシーを侵害する不法行為に当たる。
解説・ポイント
本判決は,使用者が労働者の同意を得ずにHIV情報を取り扱う余地を認めています。少なくとも,第三者の健康・安全が問題となる局面では,情報の取扱いの可否が本人の同意の有無によって左右されることは適切ではないと考えられます。
なお,使用者が従業員のHIV感染を理由に解雇することは,感染が客観的に当該従業員の業務遂行に格別の支障にならないとされるため違法と判断されることになると考えられます。