4.労災請求手続

⑴ 労災保険給付の請求者

 労災保険給付の請求者は、通常、被災者本人又はその遺族となりますが、傷病(補償)給付は労働基準監督署長の職権により行われますので請求は必要ありません。
 具体的には、被災者の勤務先(事業場)を管轄する所轄労働基準監督署長宛に、労災保険給付請求書類を送付することになります。福岡県の所轄労働基準監督署はこちら
 被災者が死亡した場合に、遺族(補償)給付を請求する場合には、法定相続の順序(民法887条~890条)と異なり、配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹の順序(労災保険法16条の2第3項)となります。詳しくは遺族(補償)給付の箇所をご覧ください。

⑵ 請求手続の代行

 労災請求の手続きを被災者の勤務先が被災者の代わりに行う場合があります。通常、被災者や遺族は被災者の勤務先の労働保険番号などは知らないことが多いですし、労災給付の請求書に事業主の記名押印など証明が必要となるため、勤務先が代行することによって被災者らの手続の負担が少なくなります。
 もっとも、労災給付の請求書に記載された内容が事実と異なると、労災事故と認定されるための要件である業務遂行性や業務起因性が否定されるなど労災認定上の不利益や事実関係が争点となって使用者側の反論材料とされるなど民事上の損害賠償請求を行う際の不利益が後々生じる可能性があります。
 そのため、労災給付の請求書の項目「災害発生の原因及び事実」に記載された事実関係を請求者本人が確認する必要があります。

⑶ 事業主の協力が得られないとき

ア 労災申請は被災者らの権利

 労災保険給付を請求することは、被災者らの権利ですので、請求にあたり勤務先の同意などは必要ありません。勤務先には被災者らの労災申請に協力する義務があります(労災保険法施行規則23条1項・2項)。また、労災事故が発生した場合には、勤務先の事業主は労基署に「労働者死傷病報告書」を提出して労災事故の事実を報告する義務があります(労働安全衛生規則97条1項・2項)。そのため、勤務先が被災者らの労災申請に対して証明を拒否したり、労災事故が発生した事実を隠すことは許されません。
 しかし、行政指導や刑事告発、労災保険料(社会保険料と異なり、事業主が全額負担するもの)の増額などを嫌い、被災者らの労災申請に協力することを拒否したり、事実関係をうやむやにして責任や補償を免れようとするケースが少なくありません(いわゆる「労災隠し」)。

イ 対応策

(ア)文書でやり取りする
 弁護士が実務でも行う対応策の1つとして、事業主の証明が必要な箇所を空欄にしたまま労働基準監督署に労災申請を行うという方法があります。
 具体的には、まず、労災保険給付の請求書内にある事業主の証明が必要な箇所以外を被災者自らが分かる範囲で記載し作成します。次に、この請求書を事業主に送付して作成の協力を依頼します。さいごに、社会通念上作成に必要な期間が経過しても事業主から返送がない場合には、事業主に送付した請求書と事業主に協力を依頼した文書の写しを労働基準監督署の労災課に送付して請求が完了します。労働基準監督署から問い合わせがある場合には、事業主が作成に協力してくれないことを説明するとよいでしょう。

(イ)事業主の証明欄を空欄にしたまま労基署に提出する
 労災保険給付を受ける権利の時効が迫っている場合や被災者の死亡事案など遺族が事業主と直接やり取りを行うことが精神的に苦痛である場合には、事情を労基署に説明することで、事業主の証明欄を空欄にしたまま受理して貰えることがあります。

⑷ 請求書の記載方法

ア 書式と記載例

 労災保険給付の請求書は、給付の種類により書式や添付資料が異なります。
 各保険給付の書式及び記載例についてはこちらをご覧ください。

イ 請求書の記載のポイント

 請求書には分かる範囲で記入して提出することができます。事業主の協力が得られない場合でも、被災者らでは記入が難しい「労働保険番号」は労基署が把握しており、「平均賃金算定内訳」については、労基署が独自に被災者の勤務先の賃金台帳などの書類から支給額を決定することができるからです。
 請求書内で特に重要な「災害の原因及び発生状況」についても、覚えている範囲で時間と場所、何をしようとしている時に体のどこを怪我したのか、その怪我の程度等を記入すればよいでしょう。傷病等の詳しい原因については、あらためて労基署の調査官に説明する機会がありますので、提出時には「できる限り」記入することを心掛けておくとよいでしょう。

5.労災事故を弁護士に依頼するメリット

⑴ 労災認定のため迅速な事実調査や証拠収集を行うことができる

 労災事案では、被災者やその遺族は、被災により働くことができず、収入が減少したり、あるいは事故の後遺症が原因で失職したりすることがあります。その場合、被災者やその家族又は遺族らの生活の基盤が失われるなど、その後の生活に重大な支障が生じることがあります。
 労災認定により被災者が正当な補償や救済を受けるためには、事故の迅速な事実調査や証拠収集などが必要となります。しかし、事業主の協力が消極的であったり、時間の経過とともに証拠が散逸してしまい証拠の収集が困難であったりすると、被災者やその遺族が単独で事実調査や証拠収集を行うことが益々難しくなります。
 しかし、労災事故に精通した弁護士に依頼すれば、弁護士が被災者やその遺族に代わって迅速にこれらの事実調査や証拠収集などを行うことができます。また、ご自身で労災申請に必要な書類の準備等も代わって行うことができます。
 弁護士費用を考慮しても、最終的に物心両面において負担を大幅に減らせることが、労災事故を弁護士に依頼するメリットです。

⑵ いかり法律事務所は労災事故のご相談・解決実績が豊富

 いかり法律事務所は、被災者の労災保険給付をはじめ、事実調査や証拠収集が困難な過労死や精神障害・自殺など労災事故についての相談・解決実績も豊富に有しています。労災事故についてお困りの方は、まずはいかり法律事務所へご相談ください。

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